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同じ空の下で  作者: 桜油
6章
74/140

68話

こんにちは。


一旦黒守刹那視点となります。


では、どうぞ。

作戦会議後。

椎名との対談後、俺は真白からの呼び出しもあってロビーで真白と対峙していた。


「所属して、もう6年経つんだね」

「時間が経つのは早いな」

「……うん、本当に」

「『軍』での生活はどうだった?」

「最高だったよ。『今回』……最後、こんなに楽しく過ごせて本当に良かった」

「そうか」

「明日で最後、なんだね……」


会話の応酬の中、真白の表情に影が。


「……作戦、大丈夫かな?」


真白がそう不安げに零す。


「大丈夫だろう。人手不足とはいえ、頼もしい部下を持てて光栄に思う。勿論苦戦は避けられないが、最悪、世界滅亡の回避と『駒』の保護ができれば問題ないから、命第一に行動するんだ。いいな?」


そう安心させるように真白に微笑んだが、真白は憂鬱そうに俯いたままだった。


「何がどうして、そんなに不安なんだ?」

「……刹那さん、」


少し躊躇いがちに、返答があった。


「私を……私達を迎え入れて、後悔してませんか?」


真白の口から放たれた言の葉は、意外なものだった。

真白は重いものを背負いながらも直向きに前へ前へと駆けていく、強い少女だという印象があったから。

椎名や城月は、蝶よ花よと優しく彼女を支えるが、汐宮や一条、日向は彼女を頼もしいリーダー格と捉えている節があって、俺も人生経験が長い以上、割と彼女をリーダーとして扱う場面が少なくなかったと思う。飄々としていて食えない性格の彼女らしくない、弱々しく、震えた声での弱音を俺は初めて耳にした。


俺の驚愕など知ってか知らずか、彼女は続けた。


「たしかに、未来を変えるのに協力して欲しくて、私は刹那さんに交渉した。『軍』の立場は本当に良かったよ。おかげで、色々改変できそうだし。交渉に乗ってくれて、しかも色々よくしてくれて、なんだかんだ本当に感謝してるんだよね」

「……」

「でも、刹那さんにとっては私達、大してメリット無かったんじゃない?」

「……どうして、そう思ったんだ?」


できる限り優しく問いかけた。


「私達、3年前と明日、この2回しか前線出てないじゃん。執務の補佐だって絶対桜乃さん達で事足りるでしょ?依頼だって、他の魔術師でも熟せるって言うか……私達の進路を鑑みて選抜してくれてたよね。それに、余裕がないのに私の個人的な我儘まで聞いてくれて。ここまで色々してもらっておいて、世界救済を成し遂げたら誰も『軍』に残る気がないし。こんなの組織としてはいらない人材だし、よしんば必要性があっても、私達に構う時間があれば、刹那さんはもっと色々できたんじゃないかって」

「真白」


真白の言葉を遮った。とても黙って聞いてなどいられなかった。迷い子のように、酷く泣きそうな顔で真白は俺を見ていた。湿った瞳は確かに曇り空のようで……ああ、だから城月は彼女を。

1人納得し、俺が直に見れるかも分からない輝かしい未来に少し思いを馳せて。そして、思ったままの言葉を、飾らないまま俺は話した。


「あの時お前の交渉を蹴っても、正しい未来に進めたか分からない。同じ結末が待ち構えていたかもしれないが、違う結末がそこにあったのかもしれない」

「……」

「だが、あの時、お前の交渉に乗ったからこそ。お前が、お前たちが、お前の仲間たちが、使命は違えどもこの現実に立ち向かってくれる。それに、忘れ形見の片割れの成長を見守ることができたし、弟が思うがままに活躍できる場所を知ることができた。それだけで俺にとっては充分だ」

「……」

「もしお前を受け入れなかった結果、世界が救えるとしても……俺は何度だってお前たちを受け入れるさ。そうでなければ、俺の納得できる結末は、俺の見たい景色は、見られない」


ここまで言って、やっと真白は顔をくしゃくしゃにした不格好な笑顔を浮かべた。

気を遣って、元気になった風を装っていた。

だが、俺がそこに言及したって、きっと彼女の心は救えない。


「ありがと。でも、もし、もし、刹那さんが死んじゃいそうだったら……私なんか見捨てて逃げてね。世界の命運とかそんなの全部投げ出して、弟くんの為にも生き延びてね。私、刹那さんにだって幸せになってほしいと思ってるんだ」


『皆が幸せになれる方法、私は知ってるよ。私のことを一旦信じてみない?』


これは真白が俺のところに押しかけて交渉を持ちかけた時の台詞だ。

俺は弟のメンタルケア、『教会』の激しい攻勢で桜乃を中々帰宅させてやれないことなど悩ましい問題をいくつも抱えていたし、彼女は俺を信頼しきっているかのように素性を全て暴露するし、と藁にも縋る思いで彼女の提案を承諾した。今になって、『皆』には真白が含まれていないと感じた。


いや、正確に表現するならば、真白の世界には、真白がいない。


そして、恐らくだが、城月は彼女の世界に彼女を引きずり出そうと、城月の見ている世界に真白唯笑という人間がいるのだと、そう教えられる唯一の存在だろう。それほどまでに、自覚の有無は兎も角、彼女は彼を優先している。


「……」


目の前の男魔術師。城月怜の片割れを心身ともに守ってきたであろう少年。

後悔こそしないが、確かにこれは後味悪い話だ。俺は、彼の姿をじっくり見て、改めてそう思った。

不幸中の幸いは、彼女や城月怜の前でそれを口にしなかったこと。碌でもない人生だと自負しているが、こればっかりは俺は俺自身を褒めて然るべきだろう。後でいずれ分かることだが、少し落ち着いた場所で話をすべきだ。そんな考えから城月と真白を二人きりにしてきたが、果たして大丈夫だろうか?この場にいない残っている幹部は恐らくクリスのみだが。


高式が口を開いた。


「……どうあっても、僕らより、あいつらを守る気?」

「引きずり出そうとか、クリスと挟み撃ちにしようとか、考えるな。さもなくば、俺と、戦う羽目になる」

「はッ。戦いたくないのはお前もでしょ」

「ご尤も。お前も、ってことは、お前も俺と戦いたくないのか?」

「当たり前だ。お前みたいに激強な魔術師と一々やりあいたくない」

「そうか。ならこのまま大人しく待っていてくれないか?」

「それこそ冗談だろ。作戦のためにも、執務室に籠もられてたまるか」


沈黙が流れ、再度高式が言葉を発した。


「僕、お前のこと苦手だったんだよね」

「『教会』は皆そういう」

「『軍』とか『教会』とかどうでもいいんだよ。……強くて、無理していて、そのクセに誰より繊細に『城月怜』を気にかけていて。お前に真実を伝えるのは、残酷に過ぎた」

「……『前回』のことか?」

「それよりずっと前、かな。記憶って厄介だよね。1つ思い出すと、次から次へと余計なものまで思い出す」

「……」

忘れていたかった(思い出すべきだった)……。今まで僕が、育の心を踏み躙ったかなんて」

「……手放せない(手放す)くらい、忘れられない(忘れる)くらい大切だった、ということじゃないのか?」

「……さてね。少なくとも、育を真っ黒に染めたのはこの僕だ」


汐宮のを見て真似たか、『停止』が展開された。

だが、俺とて6年間呆けていたわけではない。『停止』をされても問題なく動けるように、俺は『適応』の魔術を展開した。この魔術式自体は恩師が現役の頃から使用されているものだ。毒や自白剤の対処を使用用途としてどこぞの物好きが開発したそれはあっという間に風化したが、そこに改良を加えて、魔力の消耗は早いが魔術的効果も無効化できるように調整したものだ。

高式は少し目を瞠ったが、そこまで動揺することもなく、静かに『魔装』を展開した。


そして、同時に跳び上がった瞬間、戦いの幕は切って落とされた。

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