66話
こんにちは。
やっと主人公視点に話が戻ります。
では、どうぞ。
執務室前。
秩佐からの通信もあり、有希たちが『駒』を回収するまでの時間稼ぎを頼まれた怜は、同じ目的で怜と合流を図った唯笑と合流して、その時を待っていた。
そして、その時はすぐにやってきた。
「やあ、久しぶりだね」
『教会』『評議会』の他の兵は全て撤収している。拝郷からの情報が入ってきているが、まだ撤収していない生存兵が5人いるらしい。クリス、有希にそっくりらしい魔術師、有栖、そして目の前の男女2人……高式と城月育。高式はヘラヘラと笑みを浮かべてそう言う。
唯笑は高式をじ、と見据えていた。
「ああ、そうだな」
怜の返事には軽く手をひらひらと振り、高式は辺り一帯を見回した。
「……どうやら、クリスはまだ来ていないようだね」
「そうだな。今頃、提督と戦ってるんじゃないか?」
「ふーん、そっか」
まあなるようになるよね、と1人で勝手に納得して首肯する高式に、傍に立つ少女……城月育が問いかけた。
「暁、どうするの?」
「うーん。多分、時間制限ありそうなんだよね。時間稼ぎしてるっぽい」
「時間稼ぎ?」
「ほら、多分ここに『駒』があるから」
「あー、そうだったね。でも、それはそんな重要でもないんじゃ?」
「うん、正直いらない。この戦争の勝敗とかどうでもいいし、計画の成功一歩手前だし。ここで帰っても『教会』の計画は終わるし、僕たちの計画はそこからが勝負だから」
「じゃあ帰っちゃう?」
「いや?この2人とは色々あったし、少しは話でもしようかな」
「分かった。暁がそういうなら、私も付き合うね」
城月育は柔和にほほえむ。
艶々とした肌、整えられた髪は、まるで『教会』の実験体にされていたとは思えない有り体。ごく普通の、少し小金持ちな一般家庭で、愛されて、ふくふくとして、この世の春の中で育ったかのように、少女は朗らかに、幸福そうに笑うのだ。
そして、上等な素材で作られたであろう『教会』の制服のスカートを気取ってつまみ、お辞儀をしてみせた。
「さて、初めましての方は初めまして、そうでない方はお久しぶり。私、『教会』幹部が1人、城月育と申します。『神』に仕える者が1人と、お見知りおきを」
それは、『教会』幹部の中でも信心深い、忠誠心が高い魔術師が行う、有名な前台詞。
「ちょっと、それやめとけよ」
「えー?どうせ、今日以降は『教会』の言う事聞くことないし、立つ鳥跡を濁さずって言うじゃん?せっかくだし、最後に一発やっとこうよ」
「はぁ……別にいいけど……」
とげんなりした様子ながら、高式も渋々と会釈した。
「どうも、お久しぶり。僕は、『教会』幹部が1人、高式暁と申します。『神』に仕える者が1人と、お見知りおきを。……これでいい?」
「むー、初めましてって辺り抜けてる……」
「この場に初めましての人いないしよくない?」
「私だって久しぶりの人いないけどちゃんと言ったよ?……ま、いいや。どうせ辞めるし」
そう言って、本当に何の憂いもない満たされた子どものように笑う城月育に目もくれず、唯笑がようやく言葉を発した。
「……どうして自主的に『教会』に入ったの?」
「どうして……って。そりゃ、捕らえられていた妹を救うには、これしかないでしょ?」
「そんなことない。君の実力なら、クリスはともかく、『教会』壊滅なら狙えるんじゃないの?」
「無茶言わないでほしいなあ。それだったら、君たちだってもっと早くに『教会』潰せるじゃんって話しでしょ。よしんばそれができたとして、僕たちはそれじゃ困るから潰すわけにもいかないかな」
「あっそう。『前回』の仲間を切り捨ててでも成し遂げたいことの為にって?そのクセに妹については『前回』の話を引っ張るんだ?」
「やだなあ。『今回』も、れっきとした僕の妹だよ?」
「義理的な妹ってこと?」
「……あれ?」
唯笑の言葉に高式は首を傾げた。顎に手を当て、少しうつむき加減でぶつぶつと何かを呟き、顔を上げたと思えば、「ははは。そっか、知らないんだ。ふふふ、」と不気味に嗤う。
「……血は繋がってるよ」
「……?」
「おっと、理由は言わないよ。ネタバラシする意味もないと僕は思うけど、多分クリスが勝手にするだろうし、真実を知りたければ待っておけばいいさ」
「はあ?それはどういう」
「あーあー、聞こえない聞こえない。囀るのやめて口を閉じておいて?」
育がその言葉を合図に指を鳴らし、瞬間、唯笑の声が聞こえなくなる。
「さて、知ったかぶり、見栄っ張りの裸の王女様より、僕は君と話したいなあ。ねえ、怜?」
そう高式は哂って怜の方へ向き直った。
「……何の用だ?」
「ははは、積もる話もあるかなーって。どうだい?城月怜としての13年間。君はどう過ごしてきた?」
「どう、って……唯笑と色んなところに出かけたし、色んな魔術師との関わりもあった。宥、有希、紗季とも様々な話をしたし、提督や桜乃さんからはよくしてもらったな。椎名たち、司たちも面白い人たちだと思う」
「そっかそっか。それはまた随分と恵まれた生活をしていたみたいだね」
きゃらきゃらと高式はまた笑い、すん、と真顔になった。
「僕の方は散々だったよ。『前回』の君はどうも傍目から見れば恵まれているように見えて、実質そうでもなかったらしい」
「……」
「なんだよあれ。僕が『前回』いた孤児院とそこまで大差ないじゃん。一般の情報が入らないように情報統制して、甘やかして。盗聴器やら監視カメラやらが至る所に仕掛けられてるし……気持ち悪いことこの上なかった」
「……」
「そりゃ、人間のふりをしたロボットになんていくらでも育つよね。もう人間としての情緒が育ちきってる僕には、土台無理な環境だった」
「……」
「その顔から察するに、知ってたみたいだね。真白も知ってたっぽいけど、今までの周回で知ったのかな?ああ、だから城月怜に同情的なのか……そこまで同情するなら、もっと徹底的に探って、その背景まで含めてちゃんと解放してやれよなぁ」
やれやれ、と高式は肩をすくめた。
「まあどうでもいいか。『前回』はどうあれ、ちゃんと君は人間らしくなったみたいだし。なら、僕が『前回』『今回』と散々だったことも、育がそれよりも苦痛を味わっていることも踏まえて、僕たちに勝たせてよ」
「……俺には俺の目標があるように、高式たちにも夢があるんだな」
「そう。僕たちの願いはただ1つ、『普通に生きたい』。そのためなら、世界が滅んでもいい」
「世界を滅ぼさずにその願いを叶える手伝いをする、ではいけないか?」
「無理さ。僕たちは、同じ空の下で、手を取り合って遊ぶ少年時代を求めている。普通に人生をやり直すんだ」
「……じゃあ無理か。少なくとも俺の夢とは共存できない」
「そうなるね。因みに、真白の目標を背負って次に世界を救う!なんてのも不可能さ。なんせ、今回を逃せば一生救えない。次で世界は壊れるのは確実だから。でも、それで構わない」
「それは、どうして」
「さてね。僕からそれを語る道理はないかな。君のお姫様から教えてもらえるんじゃない?それすら知らなかったらお笑い草だね」
そこで会話は打ち切られる。城月育が再度フィンガースナップをして、唯笑の声が聞こえるようになった。
「真白、僕は警告したよ。希望を祈れば祈るほど、絶望は降ってくる。たしかに世界を滅ぼすのは『実現』だけれど、ここまで詰ませた諸悪の根源は、『城月怜』だ」
「……」
「まったく。どうせ改変するなら徹底的にやるって言ったのに、『教会』を経済的に制裁するとか、そういった工夫すらしないんだから」
「……」
「まあ、君も君で、詰んだ状況をどうにかするのに必死だったのかもしれないけど」
「……」
「兎に角。僕は心から感謝するよ。大切な妹、育と再会させてくれたからね!」
そして、火蓋は切られた。
これで5章は終わりです。
明日からは6章ー『軍』本部襲撃の後半戦に突入します。
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