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同じ空の下で  作者: 桜油
5章
71/140

65話

こんにちは。


今日で他視点も一旦終わりになります。

黒守刹那視点です。


では、どうぞ。

とある回廊にて、俺は今回の黒幕であろう人物について思い返していた。


男の名はクリス・ユークリッド。言わずとしれた、『教会』全権代行であり、『駒』の所有者。そして、恐らく俺の恩師にして、現在大切な部下である城月怜の両親を殺し、妹を拉致した張本人。色んな意味で打破すべき魔術師だと言えよう。


彼が名を挙げたのは実に20年前に遡る。

ただの魔術師サークルに新たに所属した弱冠18歳の魔術師2人が、その魔術師サークルを大規模な魔術組織にまで拡大させた。至って健全な経営で、所属する魔術師はやりがいを感じていたと聞く。全権代行になってから築いたコネで、当時まだ健全だった『評議会』『御伽学院』と同盟関係になり、正に順調、飛ぶ鳥を落とす勢いで成り上がる、いつか『軍』すら超えうる組織として世界中から注目を浴びていたのだった。

俺は素直に尊敬していた。朧気ながら、『いつか組織を率いる、重い責任を持つやんごとなき立場』になるのだろうと考えていたので、彼は恩師とはまた違った代表者としての理想像のように見えていた。


しかし今から13年前、その魔術組織に不意打ちをけしかけた組織があった。

もっとも、実力差が大きく、またあくまで全権代行やその側近のみを狙った小規模なものだった為に、彼の陣営の被害は1人の死者のみ。敵性勢力は全滅の為敗北、更に通告なし、規定違反の為『国際魔術連合』から罰則があったことで最終的に壊滅に追い込まれた。

その後、『教会』に名称が変更されてからは非人道的な作戦が目立つようになった。


俺は、彼については同情を禁じえない部分もあったと考えている。そのたった1人の犠牲者は彼の相棒だったし、当時、彼とその相棒は好い関係だという噂が後を絶たなかったのだ。

むしろ、だからこそ狙われたのであろうが……彼の心中は、色恋など知らない俺ですら察せられた。恩師も同盟を結ぶか否か本気で検討していた時期に起こった悲劇だ。同盟を早く結んでいればこんな悲劇は免れたかもしれない。彼が落ち着いてから話を持ちかけるべきだろう。

そう幹部の中で話し、同盟の話を保留にして弔電だけ入れた。時間を空けてから同盟について再検討しよう、とも連絡した。


しかし、彼と再び相見えた時、その選択は誤りであったと痛感した。


彼は、『教会』は、大義の為であればどんな犠牲をも厭わない。非人道的な実験をする組織、犯罪シンジケートと化していた。


彼は平然と同盟関係締結の話を持ち出した。同盟、公平な関係とは言うが、どうにもこちらを利用するだけして切り捨ててしまおう、といった魂胆が透けて見えるようだ。

否、それに関しては偏見だったかもしれないが……いずれにせよ、祖国を守るためにもその同盟の契約は締結するわけにもいかず、交渉は決裂。して、恩師はその翌週に暗殺された。


……いつ思い返しても苦い思い出だ。将来に切磋琢磨するかもしれなかった優秀な魔術師の命、心を救えず、恩師はみすみす殺され、その長女は散々利用され、俺の大切な弟も『教会』との戦争で心を病み、御子息も真白の話によれば利用されるのだと言うではないか。

それは絶対させてはならないことだ。


……その因縁深い相手、クリスは、俺の眼前で、矢鱈と一条にそっくりな男と会話していた。

どうやら、男がある品を移送してここまで来たらしい。何やら受け渡しをしていた。併せて男は何かしら報告をしていたが、俺には今はどうでもよかった。それより、その品を手に取った時のクリスの反応の方が気がかりだった。

クリスは、その品を見ては宝物を……否、命にも代えられない程に大切な何かを見るような、それでいて歓喜、達成感の混じった眼差しで見つめ、落とさないように両手で優しく、掌の上に乗せた後に、魔力でそれを保護して胸ポケットに大事にしまい込んだのだ。


直感が囁いた。今、クリスをこのまま逃がせば、最悪の事態に陥る。


『魔装』2つと『隠蔽』を展開、『隠蔽』を『魔装』のナイフに付与し、続けて2つ投擲した。

1つは一条そっくりの男の影に刺さり、もう1つが影縫い解除に意識を割かれた男の側頭部に刺さって、男は力なく斃れた。


クリスはそれを、目的を果たしたから用済みだと言わんばかりに、どうでもよさそうに一瞥した後、こちらを見ては、ふ、と笑みを浮かべた。


「部下を守ろうとも回復しようともせずヘラヘラしているとは、随分薄情になったものだ」

「あなたがそれを言うんですね。あなたも相当薄情だった記憶がありますけれど」

「……」

「だんまりですか。まあ、確かに、今更言葉なんて意味を為しません」

「……お前と、手を取り合って魔術師の明るい未来を築けたら。そう、願っていたんだがな」

「そんなifだって無駄ですよ。……何はともあれ、もう少し。もう少しで全てが終わりますから。邪魔をすると言うのなら、ワタシも容赦はしません」

「それは、最善策じゃ」

「もういいでしょう?ワタシ達に言葉はもういらない」

「……クソったれ」


俺は恩師を亡くして以来、久々に悪態をついた。


『魔装』を展開した俺に対し、クリスは鉤爪を、両腕を胸の前で交差させるように構え、『身体強化』を展開した。

数瞬の間、沈黙に満たされる。俺とクリスは互いに動向を見計らい、対峙していた。

クリスが先に動いた。駆け出し、俺へと迫ってくる。『硬化』が展開され、鉤爪に付与される。俺は『魔装』銃を構え、発射した。鉤爪に当たるが、この銃弾は『放蕩の茶会』がその叡智を以て開発したものだ。展開済みの魔術式であっても無理やり効果を中断させ、更に本人の魔力を捻出する生物学的反応を阻害する。筋肉や神経、臓器など至る生命活動の阻害にも繋がるので、魔力を付与されたものであっても当たりさえすれば殺せる代物。


しかし、鉤爪の刃の部分が破壊されただけで、クリスはそのまま突進を続けた。


「何、」


と動揺する間にもクリスは迫り、蹴りを繰り出した。


自力で開発した魔術『加速』を2倍指定で略式展開、起動した。指定した倍数分、今回なら1秒の時間で2秒分の動きができる、体感速度がそれだけ遅くなる魔術であり、自身の切り札。これのおかげで切り抜けられた修羅場は数しれず、この魔術があったからこそ、恩師とは出会えたとも言える、なんとも感慨深い魔術でもある。

体を後方に反らして避け、手をついて側転、着地し、銃を連射した。クリスは後方に跳び、再度『魔装』で鉤爪を生やして縦断を全て弾き飛ばし、『魔装』が消滅した。

しばらく様子見が続き、クリスはやがて八極拳の箭疾歩で、一歩で間合いを詰めてきた。縮地よりも速い。また、モーションが判別できずに咄嗟に反応できず、正拳突きが胸部に直撃した。


「が……っは」


心臓が破裂したような痛み……否、確実に破裂したのだが、壁に叩きつけられ、それでもなんとか意識を繋ぎ止めて『回復』で心臓を再生した。クリスは完全に油断して背中を向けていたので、銃を構えて再度連射した。

クリスは信じられない、といった様子で咄嗟に腕を前に組み、『硬化』を付与して防いでいた。


ああ、防がれるだろうさ。分かっていたとも。

だが、しかし、ここまで普通の銃弾のみ放っていれば、そろそろ。


『加速』を2倍指定で展開、リロードするような動きをトリガーに、『魔術式中断』の弾を装填した。

クリスもそれに対応して、『箭疾歩』で間合いを詰めてくる。それに構わず発射した。予想通り、クリスは先ほど『硬化』を付与した手でそれを斬ろうとしたが、銃弾の効果で『硬化』は中断され、そのまま手にめりこんでいく。


「なっ」


クリスは目を瞠り、足を止め、銃弾の勢いに押されて片腕が後ろへ流れた。

追撃だ。『加速』を3倍指定で発動、縮地で間合いを詰めて、『魔装』の銃を振りかぶった。銃は剣のような形に変化し、クリスがとっさに負傷した腕を突き出したことで、腕に剣が突き刺さった。刺さった状態のまま、懐からナイフを取り出した俺が、横から斬り掛かる。クリスは屈んで避け、下から上への斬撃は体を反らして躱し、縦横無尽にナイフを振ったが全て手刀で軌道をそらされる。足元を掬われ、バランスを崩したところに正拳突きの構えがあった為、4倍指定で『加速』を発動する。顔を反らし、蹴りを放つがそれは後方に距離をとることで空振りに終わる。牽制で1回発砲しながらこちらも後ろへ下がり、クリスがしゃがんで避ける。

クリスは鉤爪を再度装備し、『魔装』展開、投剣をした上で縮地で駆け出す。俺はその間に『魔術式中断』の弾を再度装填する。今度こそとどめ、頭部に狙いをすまして、瞬間。


大爆発により、天井が大きく崩れた。

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