63話
こんにちは。
今日は椎名綴の視点ですね。
では、どうぞ。
『放蕩の茶会』の拠点は、桜坂市某所に地下シェルターとして建設してある。
『今回』、何故か本来の姿ではなく『前回』変装していた姿で逆行を果たした私達が最初に行ったことこそ、拠点作りだった。
身分どころか戸籍もなく、偽装して戸籍を用意するにも『軍』や『国際魔術連合』に目をつけられるのは避けたい。絶対に見つからない場所で腰を落ち着ける場所。『前回』から面識ある協力者、真白唯笑とのコンタクトを遅らせてまでそんな拠点の起案、推敲、建設、後処理に数日かけ、更に様々なことができるように『国際魔術連合』に出向いて魔術組織の設立の手続きをして実績も積み上げ、拠点も開発を進めた。
今、その拠点で私は外でパトロールをする綺人、千早に指示を出している。
本当は私も警備をする予定だったのだけれど、「万が一にも君が襲撃されたら」と心配されてしまった。たしかに私自身は自衛の術がないけれど、そういった非常時に不審者を撃退するための装置なら山程あるのに。そう話すと、「それに前線だけじゃなく後方から全体を見て指示を出してほしい」とのことだった。
ちなみに白星には、作戦が決まってからすぐ作成して『JoHN』と提督に持たせた装置の総括画面の監視をお願いしてある。白星にも過去に色々あったので、あまり無茶をさせたくない、と彼に伝えたら、彼は眉を下げて、しょうがないと力なく笑みを浮かべていた。いつもの彼らしくなかったけれど、「大丈夫」と返されてしまった。
閑話休題。
この装置は装着者のバイタル測定や通信をできるに留まらず、総括画面では意識レベル、怪我の状況、周囲の状況などを大雑把に把握できる仕様になっている。
装着者のアイコン、登録名が一様に並び、アイコンの横にバイタルが表示される。アイコンをタップすれば通信が可能。そのバイタルが表示されている背景色が青なら平常で、黄色なら戦闘継続可能だが負傷あり、赤は戦闘継続不可能。色を問わず『魔装』『魔力撃』を使用していればアイコンが点滅する。戦闘中にのみ頻繁に使用される魔術なので、点滅したら戦闘中と解釈できる。そして瀕死だとアラートが鳴る仕組みだった。
警報アラートが鳴って少しして唯笑が戦闘開始していたけれど、青色のまま点滅が止まったので特に大した相手でもなかったことに安堵していたら、汐宮の方も接敵し、戦闘が長引いて、最終的に一瞬だけ赤色になってアラートが鳴り、戦闘に入る覚悟まで決めて綺人と千早を向かわせたけれど、何故かすぐにアラートは止んで青色に戻っていた。
それに首を傾げながらも、綺人と千早に現状だけ説明する。
敵側が応急処置をしたとはあまり思えない。しかし、悪く言えば、瀕死の状態から自力で回復できるほど汐宮宥の魔術の技量は高くない。
状況がよくわからない中、2人から通信が入った。
『綴。汐宮のところに到着した』
「そう。状態は、特に周囲の状況はどうかしら?」
『辺り一帯は血の池。ぶっちゃけ、こんだけ出血してたらすぐ死ぬはずだけど。それに、どこにも傷跡がないね。服も血液の付着とか一切なし。まるで最初から戦闘などしていないようかな。寝てるだけとしか思えない』
「拘束はある?」
『拘束……たった今解除したが影縫いされていたし、手足も頑丈に縛られていた。少なくとも味方の応急処置ではないだろうな。……まあ、ここまで奇妙な状況なら、答えなど自明の理だが』
「たしかにもう誰と戦闘したのかは良く理解できたわ。周辺に敵影はなさそうかしら?クリアリングは?」
『不要だな。想定していたより兵力が少ないからどうも不気味だが』
「……ふむ。拝郷に確認はとっておくわ。さて、答え合わせしましょう」
『おっけー。じゃ、起こすよ』
千早がそう返事し、数分ほど声をかけ続ける。その間に拝郷に連絡を試みたところ、既に私が求めている情報が送信されてきていた。すぐに綺人に共有したところで、総括画面を監視していた白星から汐宮宥の意識レベルが正常に戻った旨の報告を受けた。
私は少し安堵し、口を開いた。
「起きて早々に質問よ。名前と現在地を言いなさい」
『え……っと。汐宮宥……です。現在地……こんな戦闘音聞こえる血まみれのところは天国では無いでしょうし、そも貴方たちが死ぬとも思えません。多分、死ぬ直前までいた『軍』本部でしょうか?』
「御名答よ。若干の混乱はあるけれど及第点ね。さて、一刻も早くその死ぬ直前の状況を話しなさい」
『ちょっと、綴、落ち着いて』
「貴女がここで寝てる間に敵は確実にここを通り過ぎてる筈よ。貴女に課せられたのは、幹部がいたらすぐに合流を図ることと情報を残すことの筈。よりによって、情報を抱え落ちて死にかけるなんて論外だわ。奥の2人に申し訳ない気持ちがあるなら、早く説明をなさい。後は私が2人に通信して説明しておくから」
『綴……』
『……はい。心配をおかけして、すみませんでした』
「……謝る相手が違うでしょう。私への謝罪ではなく、説明をなさいと言っているの」
淡々と話す私に、白星すら意外そうに画面から目を逸らして私を見ていた。私が睨むと慌てて画面の監視に戻る。
私は、頬を伝う液体を無視して、汐宮宥の説明に集中した。
『……あくまで推測ですが、私が戦ったのは、高式暁と城月育です』
「貴女の状態からそれは察したわ。貴女が知っているということは、唯笑から事前に説明されていたのね。なのにどうして合流を図らなかったの?」
『油断はなかったとは言えません。私だけでまずは足止めを図ろうと考え、怜くんと戦う時のように戦ったところ、瞬殺してしまいました』
「……?」
『この時点で、決してとどめをさすな、と言われていた私は、判断を仰ごうと唯笑ちゃんに連絡しましたが、接敵していて通じず。その場を離れようと考えたら、彼が復活しました』
「は……復活?」
『ええ。何度殺しても、復活しました』
『大方、城月育が援護したんだろ?彼奴はそういう力を持っている』
『いやいや綺人、『否定』ってそう連発できるもんでもなくない?人の運命を捻じ曲げるんだよ?結構色々代償に持っていかれるでしょ』
『だがな』
綺人と千早がそう討論をしそうになったところ、『いえ、』と汐宮が制止した。
『私の認識している範囲で、彼女は一切手出ししていません。彼は独力で復活したんです』
『……なんだと?』
「……」
『それだけじゃありません。その後に雰囲気が変わって、『停止』を使っても彼には効かなくなりまして』
『は?アレって対策可能なの?』
『いや、俺たちも大分分析したがまだ対策打ててないだろ』
『……そう言えば、目が赤く光ってました』
その言葉に、私は考えこむ。
『前回』『前々回』のこと。『前々回』は『軍』がほぼ壊滅し、大切な人を喪っても尚なんとか人々を笑顔にしようと単独でショーをしていた『彼』と合流した後に『彼』を狙うように『教会』が攻めていた。『彼』が自身を身代わりに私を逃がした後、私を追うものはほぼいなかった。そも『彼』が大切な人を喪ったきっかけも『彼』を狙った『教会』の兇弾で。
城月怜、高式暁の性格、『今回』での様子。
城月怜は『正史』では擦れてこそいるが人情味溢れた為人で、苦境に立たされている人々を救うために動いていた。大切な人を守る為に唯笑の条件を受け入れるほどに仲間に対し優しかった。そして、どこか妹に固執していた。
一方、『正史』での高式暁は、仲間を平然と見捨てることもあり、『最後に自分が勝てば問題ない』とばかりに立ち振る舞う、まさに『造られた機械』だという印象が強かった。今でこそ唯笑に絆されてか大分丸くなっているが。どこか他人事のような、自我が無いような、そんな感覚を抱かせるところが所々ある。
唯笑が話していた『正史』。
彼女はたしかに言った。『城月怜と高式暁が戦い、戦闘の結果に依らず『実現の魔女』が顕現する』と。それに、高式暁が『リンク』を『教会』に植え付けられていると言っていた。『実現の魔女』の躯は志瑞神社に置かれていることも、襲撃を受けて強奪されることも、そこの巫覡を殺せば『実現』の封印は弱まること。
『今回』発生しているイレギュラーの数々。
城月怜と高式暁を入れ替えても、なぜか髪色や瞳の色が『前回』と違わないこと、城月怜が『教会』幹部から襲撃を受けたこと、高式暁が進んで『教会』に所属したこと。
『教会』の研究している内容。
『否定』の少女の拉致、『リンク』、『心象』魔術、志瑞神社のことだけを絡めて考えていたが、だとすれば一条有希、日向紗季を扱っていた目的とは何だったのか。そもそもあの2人は、元々戸籍が存在していないがどこから『教会』は拉致をしたというのか。用済みだというのなら、その研究はどこで結論が出て、どう活用された?
今しがた来た拝郷からの報告の内容。
志瑞司は瀕死ながら生きながらえたが、意識はまだなく予断を許さない状況。志瑞神社は崩壊、躯も奪われて部下らしき男が持ち去った。どこへ?そして古白が拝郷に言っていた『調整』という言葉、時間稼ぎのような戦闘。
そして、汐宮宥の先ほどの説明を信じるならば、『前回』の高式暁然り、『今回』の高式暁も、何故か『アレ』を使えてしまっている。
……私は、出た結論に思わず声を漏らす。
「……そんな、まさか」
『……綴?』
心配そうな声がかかるも、私はそれどころじゃなかった。
思いついたことが全て真実なら、もう詰み。どう足掻いても、今日の私達の勝利はあり得ない。
信じたくない。こんなの、胸糞で、どうしようもなさすぎて。
けれど、それで全て説明ができてしまうから。
何かが胃から這い上がってくる。思わず口元を抑え、トイレに駆け込む。そしてそのまま、それを便器の中へ吐き出した。白星が背中をさすったけれど、ああ、本当に気持ち悪い。
これ以上何も考えたくないのに、思考だけが無駄に廻る。
唯笑は他にも何か言ってなかったっけ。ああ、『高式暁が世界を再生する』だったか。でもおかしくない?いくら何でも、彼が周りの有象無象に、覚えるほど興味を持てているの?いや、覚えていたって彼もたった18年しか生きていない以上、世界をそんなに知ってるわけでもない。『決意』という力はそれだけ都合良い?『実現』に負ける力がそんな都合いいだろうか、私はそう思えない。『実現』が手伝った?それこそあり得ない、愉悦のために玩具にして遊ぶくらいじゃないでしょ。……あれ、唯笑はもしかして、これをどこかで察しているから『循環』を求めた……?
考えれば考えるほど、この世界が気持ち悪い。
上手く呼吸ができない。誰かが慌てている気配がするけれど、苦しくてそれどころではなく。
……せめて、これだけは、と聞こえているかわからないけれど今出せる精一杯の声を出した。
「み……んな。きょて、んに……もど、て……わ、たし、たち、のま……け……」
瞬間、意識が暗転した。
アラート音が、脳内に響いていた。
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