56話
こんにちは。
今日で一旦真白唯笑視点は終わりです。
では、どうぞ。
「来ると思っていたよ……やっぱり君なら、ここまで来れちゃうよねえ……」
正面にいた、私より5つ年下であろう少年、七世集について私が知っていることは、実はそこまで多くはない。
『評議会』で幼少期より英才教育を受けている少年兵。厳しく熾烈な教育を生き抜いてきた優秀な魔術師である彼には、唯一心を開いていた同期がいたが、彼女は数年前に彼を利用したかった・彼女の『異常性』に価値を見出した『評議会』上層部に使い潰されてしまう。同時期に表舞台から『史上最悪の殺人鬼』と評判だった黒守采和が姿を消したのも相俟って、彼はその後継者として名高い存在となる。それが正史だった。
私は基本介入したことはないけれど、彼女が使い潰されてしまえば最後、彼女の『異常性』のデータ等が『評議会』と『教会』で共有されてしまい、『実現の魔女』に勝てなくなる恐れがあったからどこかで阻止する必要があった。七世集も使い潰される、自身の為に利用されるという予感はあり、それを回避しようと奔走していた、という情報も得た。そして『今回』、その知識を利用して彼女を保護した。
これで彼が裏に進むのも遅らせられれば、と願っていたけれど、それは回避できなかったらしい。
しかし、戦闘ではなく話し合いをする余地ならあるかもしれない。
沈黙を保つ彼に、私は更に声をかけた。
「私、正直、君とは戦いたくないんだけど」
「……」
「君も、あんまり戦いたくないでしょ。少なくともトリガーハッピーの類じゃないだろうし。引いてくれた方がお互いのためなんじゃない?」
「……」
「うーん。だんまりだし動かないか……」
困り果てて後頭部を掻いた私に、彼は口を開いた。
「……自分としても、敵意はない」
「うん?」
少年の言葉に私は首をひねるが、彼の話は続いていた。
「彼奴を売った後、あの契約について嗅ぎつけた奴が1人だけいた。其奴の話だと、自分の作戦は本来失敗する筈が、ある魔術師の調整で成功する運命に変わった、ということだった。其奴はその魔術師の正体には一切触れなかったが、話を聞いて確信した。恐らく真白唯笑、お前だろう」
「……それで。君は何を思うのかな」
「いや。ただ、感謝している。……助かった。ありがとう」
ふ、と七世は笑った。私が今まで一度も見たことのない表情に、彼を救えたのだと安堵した。
正確には私が交渉した結果拝郷が保護したあの少女が、その存在そのものが彼の心を掬い上げていただけで、私は特に何もしていないのだけれど……彼の笑顔を守れてよかったと思う。
怜も最近、私に対してはこんな感じで穏やかな笑みを浮かべていたっけ。
いや、それはどうでも、いやどうでもは良くないけど、今関係なくって。
これなら和解して戦闘なしで済ませられそうかな?
と少し期待が高まる中、七世は申し訳無さそうに眉を顰めた。
「だが、自分は所詮平の兵士だ。戦わなければ、自分がどんな目に遭うか」
「……戦闘は避けられないかな?」
「難しいだろう。監視されている。盗聴まではされていないが、戦わず引き返すことはできない」
「通しても、今度は『駒』を回収しない訳にもいかないよね」
「ああ。……自分の反意に気づけば、彼奴の件も芋蔓式で判明してしまうだろう。それは許容できない。……恩人には申し訳ないが、戦闘はするぞ」
七世はそう言って鎌を構えた。
そういった事情なら仕方ない。彼を殺さず行動不能程度にしよう。それなら彼も立場は……いや、私に負ける結末なら立場が悪くなるのは避けられないのかな。でも私がわざと負けるのは論外だし……うん。私も心を鬼にするしかないか。
私はふう、とため息をついて、『魔力撃』の魔術式を複数展開した。
沈黙がその場を支配し、数秒。
先に仕掛けたのは七世。『身体強化』を瞬時に起動し、縮地で一気に距離を詰めてきた。迫ってくる鎌の刃先を『土遁』で防ぎ、『魔装』で造った投剣を数本投擲する。七世は後ろに跳んで回避し、再度鎌を左右に振りながら接近する。それを後ろに跳んだりバック転で避け、最後に『障壁』で防ぐ。暫く拮抗し、『障壁』が破れる直前に懐から『魔力撃』のビームを放った。
牽制目的のそれは当然当たる筈もなく躱されるけど、それとは別に本命がある。
七世が回避した着地点の上空に複数の『魔力撃』を展開、ビームを発射。七世は直前に気付いたものの、特に回避や『障壁』など防御が間に合った様子はなく直撃する。大きく煙が立つ。
念の為周辺を警戒していれば気配を感じた私が煙の方へ視線を戻すと、七世は『魔装』の応用から分身を数多く生成し、私を包囲する。そのまま私へ鎌を振りかぶるが、『土遁』で周囲を柱で囲って防御する。七世は既に分身を解除していて、『魔装』でマシンガンを生成、連射し始めた。
回避すべく『身体強化』で走るけれど偏差射撃のせいか若干掠るので、思い切って『風来』を起動して自身の肉体をふっとばした。空中で受け身をとって再度『魔力撃』を展開。身を捻って躱した後に七世は『魔力撃』の斬撃を飛ばす。大きく横に跳んで再度分身を展開、左右から鎌を振って斬りかかる中、空中に跳んで避けて『土遁』を2人の足元に展開、地面を突き上げるもどちらも消滅。更に『魔力撃』が複数、不可視の攻撃として飛んでくるけど、これに関しては敵意の方向から勘で体の動きで躱す。
躱した後に分身もあわせて2方向から切りかかってくるが、上空に跳んでから『魔力撃』で衝撃波を飛ばして地面に沈めて着地した。
しかしそれも分身だったのか、できたクレーターには何もなく、更に別方向から気配を感じる。
「これでもまだ戦いをやめる気はないの?」
「当然だ。ここで引くわけにもいかないだろう」
「ん、そっか。もう少しギアをあげて行動不能にでもしないと無理かな」
「……お前に、自分が葬れるのか?」
「それはまあ、やろうと思えばできると思うよ?」
背後に『魔力撃』の魔術式を複数展開してみせた私に、七世は「言ってくれるな。ならば、自分も本気で戦うのが礼儀だろう」と跳躍し、鎌を回転させる。私が展開していた魔術式は切ったことで発動を中止されるも、私が追加で展開していた『魔力撃』は発動される。鎌で軌道を逸らしていく七世は最後だけ体を反らして避け、縮地で距離を詰めて再度鎌を振る。右、上、と回避し、避けきれないものを『土遁』で防いだ後に『魔力撃』で牽制、距離を再びあける。ああ強がってはみせたけど、女性の私では近距離戦は不利なので遠距離戦で詰めるしかないだろう。そう思っての戦術だけど、七世は再度魔術式を斬った。そして大きく跳んで数発ほど『魔力撃』を放たれるが、あくまで牽制なのか難なく避けた。七世の姿を捜すと、上空で『魔力撃』を展開していた。
冷や汗が背筋を伝う。大規模にもほどがある。
大きな鎌の形をした『魔力撃』が私に迫る。私も『魔力撃』で相殺するために急いで展開、起動した。
拮抗している。私は更に魔力を込めた。徐々に押し返していく。やがて完全に押し切って大きな爆発が生じた。『障壁』で爆風を防ぐ。煙も凄まじい中、七世の生存確認を行うと、全身に熱傷があり、爆風の影響か壁に叩きつけられ、背骨が何本か折れている様子で力なく倒れていた。
息はある。ただ気を失っているらしく、安堵の息をついた後に『回復』で背骨や熱傷を治療し、『軍』の制服のネクタイを解いて半分に切って手足を縛り、更に念の為、手元の十徳ナイフで壁際に影縫いする。これで彼は私に敗北した以外のことで立場は悪くならないだろう。
埃を払い、自身にも『回復』をかけたところで怜から『先ほど爆発音がしたが大丈夫か』という通信が入った。
『大丈夫。無事撃破した』とだけ返信しておいて、私は周辺の警戒を再開したのだった。
七世の認識は一部誤っていますが、真白はそれを敢えて否定していません。




