55話
こんにちは。
昨日はアニメバーに行ってきたんですが、とても楽しかったです。
翌日仕事なのに日をまたぐまで居座っちゃいました。
それはさておき、今日から唯笑視点です。
では、どうぞ。
怜には打ち明けたことがないが、実は私は一度、『世界救済』の目標を諦めかけたことがある。
『前回』。椎名綴という同類と会えたし、綴との会談である程度、『最後の一回』の為の作戦に目処がついて、その道筋だって見えていて。
けれど、私はいまいち、その作戦に乗り気ではなかった。
その作戦は、『高式暁』……『今回』の城月怜に世界の命運を託すようなものだったから。
たった1人に世界を無責任に託す罪悪感?自分の目標を他人任せにする羞恥心?否、私が迷っていた……一歩踏み出せなかった理由はそんなちゃちなもんじゃない。今までで罪悪感なんて捨てたし、羞恥心なんてかなぐり捨てて然るべきだ。そんなプライド、犬にでも食わせておけと。
理由はただ1つ。彼に全てを託せるほど信用できていなかったからだ。
今でこそ彼のことを大切に想っている。しかし、その当時は『ラスボス』とか、『倒すべきだけど、とどめをさせば詰みになる厄介な相手』とか、挙句の果てには『避けては通れない障害』として、決して心を許せる者ではないと決めつけていた。
今まで、様々な彼を見てきた。
妹を殺したことを悔やみ、妹の親友であった私を生かして、私に全てを託した彼。
『JoHN』の本質も見極めることなく、命令だからと殺戮兵器であるかのように虐殺していく彼。
死に際ですら特に感情を浮かべることもなく、ただ空をぼんやり眺めていた彼。
操られているのか目が虚ろで、結局最期に何を想っていたのかすら分からないまま自我を、主導権を喪った彼。
正直、彼は『城月怜』との決闘、殺し合いをしない限り、人間性など到底得ることのない、人間の振りすらしない人間兵器なのだと思い込んでいた。
人間愛、世界に対する愛着、執着どころか、情すらなさそうな少年。それが、私の中での彼に対する印象であったから、そんな人間に世界の命運を託したところで高が知れているのでは、と足踏み、躊躇した。彼に託して、裏目に出て、やり直すことすらできず、何もなせずに今ここにいる『私』は、私が背負ってきた幾千の願い、幾億の想いはなかったことになってしまうのではないかと、そう恐れていた。
これでは世界などとてもじゃないが救われない。諦めてしまったほうがいいのではないか。
……そんな考えを変えたきっかけは、問題にしていた『彼』との出会いだった。
そう。彼は、怜は覚えていないが。実は、私と彼は、一度会話したことがある。
もっとも、私は名乗っていないし、その時は変装していたから素顔だって彼は知らないだろうから、覚えていないのも無理はないけど。
たしか、彼が15歳の頃。私が活動費の為の報酬目当てで依頼を受けて、それを熟して依頼人に報告して、セーフティハウスへ帰路についていた夕暮れ。公園で1人、彼は黄昏れていた。
普通なら、きっと私も彼に声を掛けることなどなかっただろう。クリスに『リンク』を植え付けられているだろうから、と警戒していたから。しかし、この時の私は遺された時間も少なく気が参っていて、なんとはなしに彼に声をかけたのだ。
「やあ。こんなところでどうしたんだい?」
彼は私を見て、特に表情が変わるわけでもなく、何を考えているか不明瞭な瞳で、「……帰りたくなくて」とぽつりと呟いた。
彼からそんな言葉が出てくるとは露とも思わず、知的好奇心を刺激された。つい興味本位で、私は「どうして?」と尋ねる。彼は特に私を警戒するでもなく、どちらかというと周囲に警戒しながら答えてくれた。
「……俺は、どうもおかしいらしい」
「うん?」
更に予想外な言葉が出てきたから、私は素で返事してしまった。それにやはり反応をしない彼の独白は続いた。
「昔から、俺を持ち上げる奴が多かった。いや、正確にはほぼ全員そうだった。敬い慕われ、崇め愛されてきた」
「うん」
「高校に入る前、『軍』に入れるよう推薦してくれた。魔術師として活動して、最近『軍』のつながりで話が合う友人も出来た。だが、友人と話す度に、自分が世間知らずだと、大海を知らぬ井の中の蛙のようだと感じることがあった」
「……」
「最近、その友人と色々話してて、興味あったから、家の奴にそれを試した」
「……」
「ある2人を除いて、全員、ある魔術を使われてたんだ。……どんな魔術だったかなんて、残り2人の俺への態度を鑑みれば、分析するまでもなく簡単に予想できた」
「……どんな魔術だったのか、聞いてもいい?」
「むしろ、どこの誰か知らないあんたにだからこそ吐き出させてくれ。そして何者でもないままどこかに消えてくれ。……俺を徹底的に甘やかし、一般の情報が入らないよう情報統制する。……何故かは分からないが、意図は実によく理解できたさ。俺を人間兵器として利用したいんだろう」
「……胸糞悪いじゃん、それ」
「住めば都ではあったさ。人間扱いなんてされてなかったし、人間兵器として利用される未来しか見えないが、命の危険はないし、世間一般で言う毒親よりマシだろ」
「……」
私は絶句した。
今まで、彼を取り巻く環境にはあまり目を向けていなかった。
いや、彼がごく普通の家庭に生まれているのにどうしてここまで機械的なのかと疑問に思ったことなら幾度もあったけれど……彼本来の気質だと結論付けて、しっかり調査はしていなかったのだ。他の要素ばかり見ていたから。
彼本来の気質は分からない。けれど……機械的にならざるを得なかったのではないか?と気付きを得た。
その友人ができた『回』だからこそ、彼はこうして危機感を抱いたけれど。きっと毎回友人に恵まれたわけでもないだろうから……気付かないまま機械になってしまっていたのかもしれない。
……私は馬鹿だった。
「もう、帰らなきゃいいじゃん。そんなとこ」
「できるわけないだろ」
「……そうだけどさあ」
大人になれば自由にどこへでも、なんて言えなかった。大人になる未来なんて、世界が滅ぶんだからない。そんな家庭環境では、きっと、彼が幼少期から外に逃げ出すことだって出来ない筈。
だけど、だからって、そんな結末など認めたくなかった。
「魔術師としての下らない名誉を守るためだかなんだか知らないけれど、兵器として人間扱いされてない君なんか、そのままに出来ないよ」
「同情なんかよせ。さっき言っただろ、通りすがりのまま、何者でもないまま消えてくれって」
「言われなくともお望み通り、何者でもないまま消えてあげるよ。だって私に君は救えない。君自身が君を救わないと解決しない問題でしょ、これって。別に腐るのなんかどうでもいいんだって。ただ、そんな奴の為じゃなくて、もっと大事な何かの為に腐ってよ」
「……そうできるならそうしたいが」
彼は、ぽつりと言う。
「俺は、立派な人になりたい。そして、俺自身を救いたい」
彼の顔は、瞳は、『初回』に世界の命運を私に託した時の彼と、重なった。
「……るよ」
「……?」
「君は、立派な人になることができるよ」
私の言葉にぽかんとした彼は、はっとすると、顔をくしゃくしゃにして、ぎこちない笑顔で、「……ありがとう、親切な人。もう少し……足掻いてみる」と会釈した。私はそれに「うん。待ってる」とだけ返して去った。
私はこの時に、考えていた作戦の実行を決めた。
彼には愛はなくとも情がないわけじゃない。故に、彼にこそ、世界の命運を託す。
そして、彼をその地獄から連れ出して、『彼』の『自分が関わった全ての人に幸せであって欲しい』という『嘘』を本当にする手伝いをしよう。きっと、その先に私の理想だってある。
その結果で世界が救えたらそれは素晴らしいことだけど、……今は、最悪、世界が救えず終わったっていいとすら思っている。
私は、『たった1人の少年』を救ってみたい。
たったそれだけの話。
……なんて、そんな回想をしていた理由はただ1つ。
当時の彼と似た魔術師……襲撃者が、私の目の前にいるからだ。
私の担当区域は裏口周辺。通路が狭いが、ここを突破されると一気に敗北に近づくだろうといえるほど肝の場所である。なんせすぐそこに執務室があって、その執務室には『魔術組織』の全権代行であれば誰でも管理している超重要な物品ー『駒』が保管してある。『駒』を他の魔術組織の『駒』で小突けば、制圧した扱いにされてしまうのである。『駒』は該当の魔術組織に所属する全ての構成員の『全て』を保護している物であり、十数年前に『国際魔術連合』からの通達で普及した代物。戦争に決着をつけやすくするものであるそれだが、その仕様のせいで提督の死後は大体、『実現の魔女』やクリスのせいで詰んでいたから、どれだけ苦しめられたやら。
閑話休題。
だから、ここを突破されるわけにはいかない。奥には一応怜が控えているけれど……彼に消耗させるのは私の作戦上、彼を兵器にさせない為にも良くない。せっかく、彼は彼自身をもうすぐ救えるのに。
勿論、戦略的に重要な場所だから、狭い代わりに数ではなく質で攻めると予想された。だから、怜以外で最も実力が高いと見られている私がここの担当なのだ。
……けれど、目の前の少年とはあまり戦いたくないのも本音で……ダメ元で、私は声をかけた。
「来ると思っていたよ……やっぱり君なら、ここまで来れちゃうよねえ……」
ねえ、七世集。
大切な少女を地獄から逃がすために彼女を情報屋に売っぱらった君だって、幸せになってほしいって願っちゃうんだ。
『彼』、否、今の怜なら、きっとそう心から思うから。
Xでも報告しましたが、昨日点検して、致命的な誤字脱字、傍点の反映されていない箇所のみ修正しています。




