54話
こんにちは。
今日も主人公より三人称です。
では、どうぞ。
翌日。
今日が作戦当日ということもあり、一足早く起床していた怜は『軍』本部の巡回をしていた。
巡回とは言えど、まだ襲撃の速報は入ってきていないため、散歩がてら先遣隊などがいないか捜索しているだけなのだが。
すると、正門付近で『軍』本部から外に出ようとしている拝郷の姿を見かけた。拝郷も怜に気づき、ひらひらと軽く手を振っていた。
怜が拝郷へ駆け寄り、「早いな」と声をかけると、拝郷は手を振るのをやめて怜に向き直る。
「お前さんこそ早いじゃん。やっぱ姫さんの目標もかかってるし、気合入ってる感じ?」
「……強ち間違ってはいないが」
そう返した怜に、拝郷は少しぽかんとした表情をした。拝郷がそんな顔をするとは珍しい、と怜はぼんやり思いながら、「先遣隊を出されて『軍』本部の内部構造を把握されたら面倒だからな。警戒しているだけだ」と何に対してかよくわからない言い訳をした。
「まあ確かに?みすみす地の利を手放す道理もねーわな」
と1人納得した拝郷は、続けて話す。
「オレは、執行と現地集合だからな。いつどこから攻めてくるか分かんねーし、全方位を早朝から警戒して然るべきだろ」
「2人だけ……しかも拝郷は戦闘の場数あまり踏んでないし、執行も戦闘をしなくなって5年くらいとブランクが大きいが……大丈夫か?」
「まー不安に思う気持ちは分かるから、執行には無断でちょっくら保険張ったわ」
「執行に相談してないのは何でだ?」
「彼奴拒否するの目に見えてっし。綺麗事のたまってるけど、お前さんも思った通り2人だけでってのは非現実的だろ?かといって他に動かせる人材がいるわけでもねーの。だから、世界救えず犬死によりマシな選択だとオレは思うぜ?」
と言いながらも少し申し訳無さそうな顔の拝郷を見て、怜は拝郷の言う『保険』に察しがついた。
たしかにそれは執行は怒る。下手したら執行との契約違反にも繋がるだろう。だが、2人だけで護り切ろうとするより確実性は高そうだった。
はあ、と怜はため息をついて、「俺は仕方ないと思うし、賛同する」と言った。
「……お前さんは難色示すと思ってたんだがなあ」
「あまり褒められたものでも無いがな。大切な人を守る為なら手段を問わないという考え方があることは重々承知しているし、拝郷は理想を追うよりそっちの方が似合いそうだ。そもそも、世界を救うためにここまで動いてくれるとは思ってなかったから、ありがたいとしか言いようがない」
「……なるほどなあ」
拝郷は怜の返答に穏やかに笑って、怜に背を向けた。
「ま、そーいうわけで。色々難しいミッションだが、オレも一介の情報屋。完遂してやんよ。……あ、クソつえー幹部が来たら瀕死までは許せ」
そう言って拝郷は志瑞神社の方へ歩を進めていった。怜はそれを見送った。
また暫く巡回していると、今度は椎名から着信があった。
怜は周囲に警戒しつつもその電話に応答した。
「椎名も早いな。どうした?」
『どうした、じゃないわよ。あんたが変に緊張してないかと思って電話してみただけ……ま、その調子じゃ平気そうね』
「そうか。心配どうも」
『全く。……全員、配置についたわ』
「全員で単独行動か?」
『ええ、そうよ。『陰成室』にはあくまで後方支援をお願いしているわ。一般市民が魔術師に襲われてたら、私たちが救い出すの』
「秩佐、常葉、寿乃は大丈夫だと思うが、お前は一般よりだろ?対抗手段あんのか?」
『あら、心配してくれるのね。安心なさい。普段から対魔術師の戦闘用機械なら沢山用意してあるわ』
「……識名とはつくづく考え方違うんだな」
『当然でしょ、別人だもの』
「……まあ、何はともあれ、無茶はすんなよ」
『あんたもね。じゃ、互いに頑張りましょ』
「おう」
怜がそう返すと、間もなく通話は切れた。つー、つー、という音が流れ、ホーム画面に戻る。
それを見て怜が端末を仕舞うと、怜の前方から宥、有希、紗季が歩いてきた。
「怜くん、おはようございます。巡回でしょうか?」
と宥が早々に声をかける。
「ああ。宥たちもか?」
「はい、そろそろ配置につこうかと考えていまして」
「そうか。宥がこの辺だったか?」
「そうですね……私は門番のような立ち位置でしょう」
そう語る宥は、確かにエントランスホール、廊下などが担当の範囲であり、宥のところを一点突破されれば執務室に相当人が流れ込むだろうことが予想される。
執務室は袋小路ではなく、他にも回廊などはあって、そこは有希や紗季の担当となっているのだが……戦闘することを考慮するなら宥の担当している箇所から抜けるのが早いことは間違いない。地の利がある序盤はともかく、ある程度内部構造を把握される中盤以降は厳しい戦いになると想定されている。
その中で宥を配置されている理由は、もはや宥の十八番である『停止』で足止めに最も有効だからだ。
『停止』に対応可能な幹部がいれば突破されてしまうかもしれないが、それでも『停止』して逃走、情報を持ち帰ることはできるだろうという側面もある。
「無理はせず、できる範囲で足止めしていてくれ。生きていてくれればそれでいい」
「……はい。精一杯、がんばりますね」
と頷く宥から有希たちに視線を移すと、有希は紗季に再三と、「絶対戦闘は避けて。紗季、別に戦闘得意じゃないんだから」と言い聞かせていた。昨日から通算107回目のこの台詞に紗季はうんざりしている様子ではあるが、適当にあしらうでもなくしかと聞いている様子ではあった。怜と怜の視線を追った宥は顔を見合わせて苦笑を浮かべつつ、口々と有希を宥めた。
「有希。紗季も充分理解しただろ、その辺にしといてやれ。耳にタコできるぞ」
「そうですよ有希くん。紗季ちゃんにはもっと別の、戦闘における心得でも伝えておくのはどうでしょう」
「……その心得こそ、無茶しない、でしょ。紗季はどっちかっていうと支援系の魔術師なのに単独行動とか、人手不足にも程がある……」
「ゆうくん、そんな仕方ないことをうだうだ言わないの。比較的侵入されにくいところにしてもらってるし、他の『軍』の人たちも比較的多めにしてもらってるから……その人たちを支援しながら立ち回るよ」
孤立無援、四面楚歌な状況に、やれやれ、と有希が肩を竦めた後に、「……絶対怪我しないでね」と言い捨てたが、紗季はずいっと有希に詰め寄り、「ゆうくんもね!絶対怪我しないでね!せめて返り血まみれになってね!」と言い返し、有希が紗季の言葉に「返り血まみれ」と鸚鵡返しするほど呆然としているのを見て、怜と宥は破顔した。
その後、宥、有希、紗季たちと分かれ、怜も持ち場につく。そこで唯笑が待ち構えていた。
「よっ。気分どう?花は咲いてるし、小鳥は囀ってるし、お昼寝にぴったりな天気だね」
「お昼寝する暇なんてなさそうだけどな」
「もう、それは言わないお約束でしょ」
とからから笑う唯笑の、セミロングに伸びた藍色の髪は、やはりきらきらしく、サラサラで艶もある。空色の瞳は晴れ渡った青空のようで、怜が望んだ表情がそこにはあった。
この戦争が終わった時、互いに笑えていればいい。怜はそう切に願う。
唯笑がそっと怜の手を握る。怜は優しく握り返した。
「……怜。いよいよだね」
「そうだな」
「頑張ろうね」
「ああ。お互いにな」
「死なないでね?」
「唯笑こそ」
「うん」
短くやりとりをした後、少しの沈黙が流れて、唯笑がふと、「ねえ、怜。あのね、」と何かを切り出した時、警報は鳴った。
「……来たみたいだな。唯笑、さっき何を言おうとしたんだ?」
「それは……内緒かな」
「なんだそれ、ずるいじゃないか。じゃあ、今夜にでも聞かせてくれ」
「いいよ、そうしよっか」
「じゃあ……行こうか」
「あはは、うん!」
怜と唯笑はグータッチをして散開した。
明日からは別視点になります。




