53話
こんにちは。
今日から5章になります。
5章からしばらくは、いつもの主人公よりの三人称と、主人公以外の誰かの1人称視点が入り混じります。
混乱するといけないので、誰の視点なのかは各話のまえがきでお知らせします。
尚、今日はいつも通り、主人公より三人称視点です。
では、どうぞ。
※致命的な誤字を見つけたので修正。
『軍』本部、会議室。
幹部が集まって戦術などについて会議するために用意されている部屋ではあるが、普段は提督、桜乃夫妻、怜たち『JoHN』、拝郷の全員が集まることはない。他の『軍』構成員も会議室をわざわざ使ってまで会議することはなく、『軍』委託の文官が提督に提出する法案について話し合ったり、一部の物好きが魔術について議論する場に会議室を選ぶ程度である。調度品、内装は立派なものだが実際使用される頻度はお粗末で、倉庫扱いまでされる始末だ。
しかし今日は珍しく、用意されている8人分の椅子に追加で2人分の椅子が適当な場所に配置され、満席となっていた。
提督が議長席に座り、唯笑が書記として傍に控え、残りの8人は上座から桜乃夫妻、怜、拝郷、有希、執行、紗季、椎名の順に向かい合うように席についていた。椎名は仮面をつけての参加である。
提督が、言葉を発した。
「本日は忙しい中集まってくれて、ありがたく思っている。招集をかけた際に軽く概要は説明したが、そこまで目を通していない者はいるか?いたならここで説明するが」
その呼びかけに挙手する者はいない。怜も唯笑から概要は聞いていたし、早朝に唯笑と話した後に連絡があったので、再確認の意味も込めてじっくり読み込んでいった。
……昨日。拝郷がとある情報を入手した。『教会』が『評議会』と連携して、『軍』本部及び『志瑞神社』を襲撃する、というものだ。そして、日時は明日であることが判明していた。拝郷の尽力もあり、動員する人数も割れていて、どの幹部が参戦予定かまで把握できている。どうやら、有栖は不在、高式と城月育は参加するようだ。
なにはともあれ、本部に仕掛ける以上大規模な襲撃作戦になることが見込まれる。万が一にも一般市民に被害が出ないように、且つ、勝利する為にこの作戦会議は開かれたのだった。
全員反応ないのを確認した提督が、作戦の概要を解説していく。
『軍』本部は恐らく囮で本命は志瑞神社だと推測されること。ただし『軍』と志瑞神社の戦力差を考慮すると、『軍』により多くの兵が配置されるであろうこと。時間を稼ぐため、より『軍』を真綿で詰める為に一般市民にも危害を加えかねないこと。
ふと、執行が挙手した。
「あのさー。なんで志瑞神社が本命なわけ?何狙ってんの?『教会』はそんな辺鄙な神社襲って何するつもり?」
「ああ、それは」
「刹那さん、私から説明させてほしいな」
提督を遮って前に出た唯笑は、執行にある1枚の資料を差し出した。
「他には配らなくていいわけ?」
「大丈夫。他の皆は大体事情把握してるから」
「ふうん……はあ?なにこれ?」
「うん?ああ、志瑞神社に保管されてる手記の写しだね。どったの?」
「『陰成室』を巻き込まないように情報を伏せたのは分かるけど、これもはや謎に包まれすぎてる魔術史の重要参考資料じゃん……最悪……」
執行が頭を抱えながらそれを読み進め、「はあ……」と深くため息をつきながら資料を鞄にしまっていた。
唯笑の話は続いた。
「この資料の通り、志瑞神社には重要な情報が沢山あるんだよね。そこを襲撃して、もし神社の破壊と志瑞司の暗殺の両方を完遂なんてされたら、『教会』は、ある人物にその物品を埋め込み、何らかの方法で『リンク』を起動させて憑依する形で『実現の魔女』を顕現させてしまう。そうなったら『軍』どころか人類、世界は一巻の終わり。だから、せめて片方だけでも回避しないと」
「……どっち優先なの?」
「志瑞司の護衛、かな。私の私情もあるけど、神社が破壊されても、万が一があっても、彼さえ生きていれば」
「……じゃ、それやろっかな」
ぽつりと執行がそう呟いた。
「……え?」
「だから。あたしが、志瑞司の護衛をやるって言ってんの」
「ちょ、え、本気でいってんの!?」
唯笑が大声を上げる中、執行が「何そんな驚いてんの?」と呆れ気味に返す。唯笑は「だって!」とまた声を張り上げた後、申し訳無さそうに俯いた。
「だって……戦闘とか、殺し合いとか、そういうのに嫌気が差して『軍』やめたんじゃん……」
「……」
「嫌でしょ?嫌だと思ったから、『陰成室』を巻き込まないように契約に色々盛り込んだんだって」
「確かに嫌。だから、あんたの配慮にはとても感謝してる」
「なら、」
「でも、」
唯笑の言葉を遮った執行の表情は、覚悟に満ちていた。
「でも、志瑞司が死んだら、彼奴は裏に戻っちゃうと思うから……だから、彼奴に二度と裏に行かせない為に、あたしは戦う」
「……」
「勿論、部下には行かせない。だって、皆戦闘慣れなんかしてないし。足手纏いだから、連れて行かないほうが安心だし、これはあたし個人の都合だから。これなら契約どおりでしょ?まだ不満?」
そう断言する執行に、拝郷が「いいじゃねーか、戦力は多いに越したことはねえ。多少は役に立つだろこいつも」と肯定した。
「ん、拝郷もこっちくんの?別にいいけど、足引っ張んないでよ?」
「巫山戯ろ、こっちの台詞だっつーの。お前だって戦闘から離れて5年も経ってんじゃねーか……てか、元々オレが姫さんにお願いされてたから。お前はおまけ、金魚のフン。いいな?」
と睨み合っているので、「ではそちらはその2人に任せようか。……無事に連携できるのか大いに不安だが、それは信じるしかなさそうだ」と提督が苦い顔をしていた。
提督は続けて椎名の方へ視線を向けた。
「で?『放蕩の茶会』はどうするんだ」
「……私たちに至っては、戦闘から15年も離れてるから禄に戦力にはならないと思うわ。だから、兵の救護を任せてくれないかしら?」
「……恐らく、お前達はなかなかの実力者だと思っているのだが」
「15年前ならたしかにそうだったかもしれないわね。でも、所詮私達は部外者よ。作戦の根幹に参加しても、最悪敵にヒントを与えかねないまであるの。大人しく、そちらを任せてほしいわ。『陰成室』とも共同、連携して動くから人手は足りる筈。だからその代わり、『軍』はその全戦力を『教会』『評議会』との戦闘に充てるのはどう?」
「……」
椎名の言葉に提督は更に苦い顔をして、渋々と言った様子で「そこまで言うのなら」と承諾した。
そして『軍』所属の人だけで配置を決めた結果、全員単独行動、幹部レベルの敵と戦闘を開始した際には直ちに近くの人員と合流を図る条件で『軍』本部を防衛の為に見回りすることになり、その場は解散となった。
「……よく執務室まで足を運んでくれた。感謝する」
「『伝達』で呼び出したのは貴方でしょう?私も明日の準備があるから、早く要件を言いなさい」
「君には聞きたいことが2つある」
「へえ。それで?早く言って頂戴」
「1つ目。『御伽学院』が今回の作戦に協力しない理由は?」
「……」
「『御伽学院』は『教会』と協力関係と思っていた。更に、真白は確かに情報提供の際、『教会』『評議会』『御伽学院』が連携して襲撃を仕掛けると話していたのに相違しているからな。恐らく良い改変があったのだとは予想しているが」
「……はあ。そろそろ時効かしら。いいわ、教えてあげる。『御伽学院』の全権代行は『国際魔術連合』全権代行と同一人物……つまり、『国際魔術連合』全権代行が『御伽学院』全権代行として潜入しているわ」
「……」
「そして、唯笑は個人的に協力関係を築いている。だから、永世中立の立場でも、唯笑との契約という意味でも参加しない方針を取ったんじゃないかしら」
「……なるほど。ひとまずそれで納得しておこうか」
「ええ、助かるわ。それで、2つ目は?」
「椎名……いや、識名だろう?どうしてここにいる?識名は桜坂市で平穏に過ごしている筈じゃないのか」
「……」
「……城月たちと同じか?」
「……そうだと言ったら?」
「そうか。……お前はお前なりに、ずっと戦ってきたんだろうな」
「………」
「『前回』の俺はお前たちに無茶をさせただろう。正直、裏にはうんざりな筈だ。それでも協力してくれて、とても助かる」
「……別にいいわよ。私たちが勝手に出しゃばって勝手に無茶しただけだったもの。『前回』も、『今回』だってあんたは謝る理由ないわ」
「……」
「本当、別にいいっての……」
やっと提督に椎名が正体を打ち明けた……否、正体がバレました。
多少変装していたとて、大事な弟が大事にしている、自身も重宝していた部下に声がそっくりなので気づきます。
気づかれたら自分が消えたり世界に悪影響を与えるかもしれない、と恐れて今まで姿を現さなかったのですが、今回の会議には出席せざるを得ませんでした。
まあ、実は裏で志瑞司たちのショーに出てたり、少しだけ介入したりなどもしているので、バレても大丈夫という確信めいたものは一応あったのですが……提督とは顔をあわせづらいと思っていたほうが理由として大きいのかも。




