モノローグⅢ
こんにちは。
さっき投稿した52話でも申し上げたとおり、2話分投稿の2話目です。
明日からは告知どおり5章に突入します。
では、どうぞ。
恥の多い生涯を送ってきたと思う。
ある女の誘いに乗って、仲間を守るため、妹を見つけ出すため、自身の夢を叶えるため、僕は『高式暁』と入れ替わり、『高式暁』として生きることになった。
『高式暁』としての人生は順風満帆だった。
木漏れ日の一軒家の明るい部屋に、いつも賑わう人の声が響く。
努力は報われ、認められる。敬い慕われ、崇め愛される。まさに幸福に満ちた平穏な日常だった。
小学校も卒業した後、僕は魔術師として活動しながら中学校生活を満喫する。この時は本気でそう思っていたのだ。
ー『教会』全権代行、クリスに拉致され誘拐された先で、『前回』から必死に捜し続けた妹を目の当たりにするまでは。
「どうしてよ」
妹は、育は、そう言って涙を流した。両手を広げて僕を抱きしめた。
「君が平穏な日常さえ送っていたなら、私はどうだってよかったのに」と、「君の平穏を信じていたのに」と、そう嘆く育の肩は震えていた。ごめんね、と繰り返していた。
僕は何も言えなかった。なぜクリスが妹の身柄を抑えていたのか、どうして僕を……『高式暁』を『城月怜』の妹にあわせたのか、何も理解が追いつかないまま、自己嫌悪に襲われた育が力を暴走させ、僕はなんとかそれを、ここ6年間で自覚し、なぜ使えるのか謎のままだった『決意』の力で抑え込んだ。
……結果、僕は、ずっと昔から抱えていた罪を自覚した。
「ね?ワタシについて来たら、いいことあったでしょう?」
そう嗤うクリス。僕は育を抱きしめることしかできなかった。
その後クリスから知らされた事情。僕は、『否定』を抑え込んだ時に自覚した罪や、ここ6年間で頭を抱えていた謎を照らしあわせ、辻褄が合うと判断した。
ああ、つくづく世界を呪いたくなる。人間なんて大嫌いだ。
クリスは1週間猶予をくれた。僕が『教会』に所属し、幹部として仕事を熟し、クリスの目的達成に貢献するなら、育と一緒にいられるよう便宜を図ってくれる。それに従えないなら、妹は殺すと。
その猶予の間は『教会』に僕は幽閉され、妹と何時間でもいていいらしかった。
僕は何度でも妹の顔を見て、触れ合って、長年の空白を埋めようと会話だってした。育は、いつだって僕を笑顔で迎えた。悲惨で過激な実験のモルモットにされている彼女は、本当は辛く苦しく悲しいはずなのに、初対面の時以降、僕の前では決して涙を流さなかった。ーその笑顔に、僕の心は抉られていった。
しかも、僕の思い出した罪が僕の妄想などでなければ、真実であったならば、育はー。
育が寝ている牢の檻の前で、育を見つめながら考える。
捨てた筈の過去、罪の記憶は、なぜ今戻り僕を苦しめるのか。
憎くて仕方ないはずだったのに、なぜ今はこんなにも心が痛いのか。
僕が平穏な日常を謳歌して笑っていた時、育はあまりにも過酷な環境に涙していたのか。
僕の幸せが、育を呪うなら、どうすれば育は幸せに生きられるだろう。どうすれば育を平穏に返してやれるのだろう。
無責任に僕が脱走させたとして、育は『教会』に追われる。『御伽学院』に追われた汐宮宥と、『教会』に追われた一条有希、日向紗季と同じように。彼らには戦闘ができたけど、育はモルモットとして生きただけで、戦闘経験なんてないだろう。汐宮宥と条件が変わらないけど、汐宮宥のように親切な誰かに出会って自衛の術を学べるとは限らない。むしろそちらの方がとんでもなく確率が低いじゃないか。
僕がその逃走に付き添えば守れるかもしれないけれど、保証されるのは命だけで、平穏など到底叶えられない。一生日の下を歩けず人からの視線を警戒し続ける人生のどこが平穏だというのか。
かといってここで僕が『教会』として地位を築き、育を守れる立場になっても、結局逆戻りだ。
……なら、僕は。
それはきっと、僕とクリスの利害が一致した瞬間だった。
「願い事、全て叶えよう」
僕の態度の変化にぽかんとする育に、僕はそう語りかけた。
「さあ、檻の向こうに唱えてごらん?僕が、育の願いをすべて叶えるから」
育は、少し迷って、「……いいの?」とか細い声で聞いた。
僕は笑いかけた。
「そうさ。だって、僕は君だけの魔法使いだから」
願いを叶えた結果、『前回』の仲間を裏切ることになったとしても、世界が壊れてあの女ー真白の夢を壊すことになったとしても、僕がまた不幸になったとしても、僕は必ず成し遂げる。
これが、僕なりの『決意』だ。
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