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同じ空の下で  作者: 桜油
4章
57/140

52話

こんにちは。


今日は2話分投稿です。


では、どうぞ。

秩佐から令呪を受け取って数日後。

早朝、怜はいつものように、今日消化する依頼を自分、唯笑、宥、有希、紗季に振り分けていた。

とは言っても数年前とは異なりランダムではなく、人によってある程度、任せる任務の傾向は決まっている。世界救済後は怜たち『JoHN』はバラバラになり、それぞれの進路へ進むだろうと、将来の進路にあった内容になるように拝郷や提督、どちらも不在であれば桜乃夫妻に相談しているのだ。


舞月財閥の護衛や補佐をしたいと考えている宥は、提督の補佐や警備を。


『教会』を後継する予定の有栖を支えたいと望む有希、紗季には探索、諜報などの任務に近いものを。


そして、『JoHN』として独立し、『正義の味方』を目指している怜には、一般人に寄り添える内容のものを中心に、戦闘任務も少しずつ。

ちなみに唯笑は提督に進路を尋ねられた際に、何も回答していないようで、余った依頼は唯笑に割り振ることになっていた。


そういった訳で依頼の割り振りはスムーズに決まり、余った依頼の内容を精査していると、事務局の扉が開く音がして怜が顔を上げると、唯笑が入ってきていた。


「よっ。依頼の割り振りはどう?」

「おはよう。順調に割り振りできていて、今は余り分を精査しているところだ」


そう答えた怜の背後に唯笑は回り込み、端末を覗き込んだ。マウスから怜が手を離せば、唯笑はそのマウスを手に画面をスクロールさせて依頼リストを流し読みしていた。

今始まったことでもなく、時々依頼を確認しに唯笑が事務局を早めに訪れることはあったのだが、今日はいつもよりどこか真剣味があったので、怜は少し気になった。


「そんな真剣に見て、どうしたんだ」

「いや、確認だけじゃなくて少し調整してほしくてね」

「調整か。唯笑がそんなこと言うの初めてだな」


宥が舞月の実家に顔を出したり、研修を受けたり、有希や紗季が遊園地や動物園、水族館などに遊びに行きたいからと数日間の休みを取る為に依頼スケジュールを調整することはあったし、怜も志瑞の手伝いの為に依頼の量を調整することならあったが、唯笑からそのような申し出を受けるのは初めてだった。


「どう調整したいんだ?」

「今日は全員休みにしてほしいんだ。で、明日は会議ね」

「……提督からの指示か?」

「いや、違うけど……追ってそんな感じの指示は出ると思うよ?」


唯笑の言葉に、怜はため息をついて端末を閉じた。


「拝郷から重大な情報でも入ったか」

「うん。……明後日、ここが『教会』『評議会』の連合軍から襲撃される」

「そうか。……いよいよか」

「そうだよ。いよいよー世界の終わりが始まる」


だから、大事なことを今ここで話したくて来たんだ。

唯笑はそう言うと、防音結界を貼った。誰も立ち入れないように、それはとても強固に。


「大事なこと?」

「うん。ほら、言ったでしょ?私の勇気がなくて話せないことがあるって。やっと勇気が出たから話そうと思って」

「正直、志瑞や秩佐との話で概要は理解しているぞ?それでもいいのか?」

「……最近の怜の様子からそうなんじゃないか、とは思ってたけど、改めて私の口から語らせてほしいな」

「ああ、それなら是非聞こう」


怜がそう承諾すると、唯笑は「どこから話そうかな」と迷っていたので、怜は「話しやすいところから、好きなように」とだけ返す。瞬間、怜は唯笑の瞳の空が少し潤んだ気がした。

唯笑は何も言うでもなく数回深呼吸を重ね、やがて、ゆるゆると、言葉を発した。


「……正史では、『軍』本部襲撃……を囮とした、ある一般市民の暗殺という作戦が決行され、成功する。これにより、『実現の魔女』の封印はずっと弱くなる」


ここでいう一般市民とは、間違いなく数日前に色々話した彼のことに相違ないだろう、怜はそう結論付けながら黙して唯笑の言葉に耳を傾けていた。


「そして、ある2人の戦いに決着がつくと、その勝者を乗っ取るような形で、『実現の魔女』は顕現する」

「……」

「勝者がどっちでも結末は変わらないし、この戦いを回避しようとしても強制的に戦わされる」

「……なぜだ?」

「それは……理由が、経緯が分からないけど……『暁』がクリスに操られてたから。多分『心象掌握』からのリンクでも使ってたんだと思う。魔術式は確認できたから」

「なら、『軍』の情報が漏れて戦力分散を余儀なくされるのも?」

「そう。『暁』がスパイだからだね」


つまり、『前回』も怜自身がスパイをしていたことになる。

そして、戦闘が始まってしまえば『前回』の怜自身によって取り返しがつかない事態になるから、戦闘が始まる前に唯笑は作戦を決行した、という話だった。

怜がその事実を受け止めている間、なおも唯笑の話は続いた。


「『実現の魔女』は、暴虐の限りを尽くした。でも、毎回、育……怜の妹が『実現の魔女』を自身を犠牲にして『否定』する。育の『異常性』に頼らないと、もう止める手段はないから」

「『否定』……何かをなかったことにする『異常性』か?」

「Exactly。でもね、育が止めた時には、世界なんて終わってるんだ。人類は滅亡してるし、環境だってめちゃくちゃだし、何なら時空間そのものが乱れてグチャグチャ。自我を、主導権を取り戻した勝者は、自分の記憶を犠牲に『決意』で世界を再生して巻き戻す。次はもっといい結末の為に。その繰り返しを何回も見てきたよ」

「……」

「正直、『今回』はイレギュラーが多すぎる。怜が幼少期に『教会』の幹部から襲撃されるのも、暁が自分から『軍』に入るのも、予想外が過ぎる。他にも色んなイレギュラーがあった。……けど、泣いても笑っても、これが最後のチャンスなんだ。ここで失敗すれば、私は私でいられなくなる。あの約束を果たせなくなる。だから、何が何でも世界を救ってみせる」

「……どういう計画なんだ?」

「志瑞司を死なせない。できれば志瑞神社も守り抜けたらいいけど……それは難しいかな。そして、暁と怜は必ず戦闘を回避する。万が一戦闘に突入しても、乗っ取られていても殺さず無力化する。そして、『実現の魔女』の復活を企むクリスを殺す。もうやり直しなんてしないから、皆だって死なせない。そうすれば、悲劇は避けられる。世界は救われる」

「……」

「全部。全部、叶えてみせるから……改めてお願いするね。怜、君の……気持ちを貸してほしい」


いつの間にか、怜の真正面から怜を真剣な眼差しで見つめていた。

唯笑の手は震えていて、冷や汗まみれだった。

怜は、ゆっくりと席を立ち、ゆっくり唯笑に近づいて、無言のままそっと抱きしめた。

息を呑む音が聞こえたし、戸惑うような声が唯笑からしたが、怜は構わず唯笑を優しく包みこんでいた。

しばらく静寂が事務局を満たした。やがて、怜の胸元が少し濡れる感覚がしたが、怜は黙して、唯笑の背にそっと触れるだけで動かなかった。


「……怖い、」


とだけ唯笑から聞こえた。怜は悩んで、悩んだ挙げ句。


「大丈夫。怖くない、怖くない。俺が、見守ってるから」


そう、撫でることしかできなかった。

今なら10年前より寄り添えると怜は思っていたが、より口下手になっている気がしてどこか申し訳なく感じていた。

だが、唯笑はそんな拙い言葉でも、


「……うん、うん。そうだよね、ありがとう」


なんて、10年前のクリスマスで怜が言葉をかけた時とは比較にならないほどの笑顔で怜を腕の中から見上げるから、怜は困ってしまうのだ。

そのまま事務局で、今までの近況などを雑談で話していれば時間はあっという間に過ぎていった。

ちなみに、既に登場人物一覧は更新しております。


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