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同じ空の下で  作者: 桜油
4章
56/140

51話

こんにちは。

昨日の続きですね。


では、どうぞ。

「お、怜じゃないか」


リフレッシュついでに司のために食材など買い出しを終えて戻る途中の怜のところに、偶々通りすがった秩佐が声をかけた。

怜が軽く手を振ると秩佐は怜の元へ駆け寄り、小声で耳打ちした。


「どうだった?元々の僕の母方の実家は」

「……重要な情報がたっぷりだったよ」

「そうだろうね。……ま、僕が知ったのは『軍』を脱退した後で、何なら綴から言われて初めて家探ししたから見つけたようなものだけど」

「……じゃあ、」

「お察しの通り、怜が今日知ったのは、唯笑も綴も知ってることだよ。知らざるを得なかったこと、でもあるけど。唯笑から詳しい解説はあるだろうし、詳細はそっちから聞いてほしいな。……綴にはあまり聞いてほしくないし、僕が解説しようにも僕は本名を思い出せてないせいか、どうしても固有名詞の一部を言えない」

「いや、ここで聞き出す気はないが」

「はは、そりゃそうか」


ケタケタ笑う秩佐に、怜は「俺、急いでるんだけど」と顔を顰めた。


「ああ、ごめん。何か用事だった?」

「ああ、司がろくに買い出しもできてないようだし、リフレッシュついでに何か買っていこうと思ってな」

「……そっか」


どこかきらきらしいものを見るようにそう呟いた秩佐は、ゆるゆると首を横に振っては言葉を発した。


「なあ、良ければなんだけど、途中までついて行っていいかい?」

「はあ?いや、いいけど、何でまた急に?」

「少し話しておきたいことがあったんだ。他でもない君に」

「おいおい。『放蕩の茶会』では俺に何か大事な話をしなきゃいけない決まりでもあるのか?」

「別にそんなつもりはないけど。……君にこそ託したい想いでもあるんじゃない?僕みたいにさ」


そう言って、承諾もしてない怜が持っていた袋を奪い取った。


「あ、ずるいな」

「ははは。まあ、そういうわけだからどうか僕の話を聞いて欲しいな。それじゃだめかな?」

「とか言ったって、どうせ無理やり、荷物を返さないまま独り言でも聞かせてくるんだろ。拒否権なんかあったもんじゃない」

「よくわかってるじゃないか。さ、行こう」


秩佐は笑いかける。

怜はやれやれと肩を竦めて歩き始める。

店を出たところで秩佐は、怜の少し先を歩きながら語り始めた。


「僕はさ。綴には感謝してるんだ……それも、言葉では言い表せないほどに」

「……だろうな。椎名に頭が上がらないというか、犬みたいに懐いているというか、甘いよな」

「犬って、甘いって……まあそう見えるならそうなのかも?」

「かも、じゃなくて本当にそうなんだよ。多分俺以外全員思ってるだろ。まあ、椎名も大概お前に甘いけど」


怜がそう返すと、秩佐は、「……それは、少し違いそうだなあ」と呟く。その声は心做しか、湿っていた。


「僕は、綴に助けられたんだ。昔僕は不幸体質で、とことん不器用で……いつも家族や友達に不快な思いをさせてたダメなヤツだった。けれど、そんな僕を綴は掬い上げて、僕の傍にいたいって、僕だからできることだってあるよって言ってくれた」

「……」

「綴のおかげで、僕は居場所ができた。大切な親友と出会えた。僕の名前を忘れたのだって、綴や親友が笑顔になるなら何だってやろうと思って、その近道が、『教会』を半壊させることだったから動いた結果で、別にどうでもいいと思ってたんだ」

「……秩佐はそうだろうな」

「でも、皆悲しそうだし、偽名を皆使おうって逆に気を遣わせちゃったし、綺人なんか大好きなお兄さんと距離をとることになっちゃった。僕はいつも誰かに迷惑をかけて、支えられてばかりだね」

「人なんてそんなもんだろ」

「そうだね。だから、僕も僕がもらったものを返せるように頑張ろうと思ってる」

「……」


そこまではいい話だと怜も感心していたのだが、少し雰囲気が重くなった。


「綴は……多分、秩佐白星という僕本人は見てない」

「それは……どういうことだ?」


怜がそう疑問符を浮かべると、「どう説明しようかな、」と頭を掻いた。


「あくまで、元々、本来あるべき『僕』に拘ってるんだよ。綴と出会わなかった世界線の僕……それこそ、怜がさっき会ってきた『今回』の『僕』みたいになるんだろうけど、……よほどその『僕』に未練らしい何かがあるのか、僕と『僕』を重ねてみているような気がする」

「……」

「僕も僕なりに期待に応えようって思ってた時期もあるよ。音楽活動を始めたのはそれが理由なんだ」


それに怜が口を開いたが、秩佐は続けた。


「でも、『僕』を見て確信したよ。僕は『僕』にはなれない」

「……」

「たしかに、綴と会わなかったら僕はああいう未来を迎えていたんだろう。綴が初めてであった『彼』も、そういう『彼』だったんだと思う。『彼』が綴に対してどう思っていたのか、綴はどんな思いで『彼』を『前々回』においてきたのか、それは当人同士でしか分からない。けれど、たしかに言えるのは、綴が僕を掬い上げた瞬間から僕は『彼』たり得なくなったということ、そしてそれ以降の時間は、景色は、そして想いは『彼』は知るはずのない僕だけのものだということだ」

「……そうか」

「だから、僕は、綴を諦めさせようと思う。僕は『彼』とか、綴にとっての神様とかにはなれないけど、いつだって隣にいてあげるくらいはしてあげられるって伝えるんだ」


そこで秩佐は立ち止まり、怜の方へ振り返った。


「君だって例外じゃないんだ」

「俺が?」

「そうさ」


そう言って、怜の方へ歩み寄り、荷物を持っていない方の手で怜の手を優しく握った。


「君は、唯笑に対して恐らく特別な感情を抱いている。それがどんなものなのかは、怜が結論づけるべきだろうから特に何も言わないけれど」

「……」

「唯笑は世界救済を、確かな明日を心から願っている。けれど、その幸福に唯笑自身は含まれていないと思うんだけど、怜はどう思う?」

「まあ……そうだな。悔しいことに、否定はできない」

「そっか。僕の予想だと、唯笑は、世界を救うためというより、君を救うために身を投げ出すと思ってるんだけど、それはどうかな」

「間違いないな」


唯笑と初めてであった時から、唯笑は怜の為に自分を犠牲にしようとしていた。


「君の力ならそれを食い止めることもできる。けど、世界は救われない、救えても君が消えるかもしれない。多分、唯笑は世界を救えても君がいない未来では笑えないんじゃないかな?」

「そうか?」

「そうだよ……だから、これ」


秩佐の瞳が一瞬光を発したかと思えば、俺の右手の甲に痛みが走る。慌ててそちらを確認すれば、2画の令呪が刻まれていた。


「『容赦』の令呪。僕が『容赦』を使えなくても、令呪は使えるみたいだからね。1画使えば、封印くらいはできるはず」

「……ちなみに、2画使ったらどうなるんだ?」

「『実現』が完全復活しても確実に封印できるんじゃないかな。……君は消えるから、使わないでくれると嬉しいけど」

「なるほど。いや、当然使わない。たとえばそうだな、『決意』と併用はどうだ?」

「それは……いや、多分その場合は『決意』の駆使で消えると思う。保証はできない」

「弱らせてから使うべきだな」

「間違いない」


そういうと、「じゃあ、そういうことだから。『今回』の『僕』と仲良くね」と笑って荷物を怜に返し、秩佐は立ち去っていった。

怜は、令呪が刻まれた手の甲を、ただ見つめていた。

明日はモノローグも含めて2話分投稿予定です。

そして、それで4章は終わり。


つまり、


長かった前座もこれまで。ついに、私が一番書きたかった本筋が始まります。


評価、感想などいただけますと誠に幸いです。

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