50話
こんにちは。
寝坊した上にタブレットが充電不足で落ちててマジで焦りました。
では、どうぞ。
識名からチョコが届いたことにより、「はあ?識名ちゃんからチョコ何でもらってんの、いつの間にそういう関係になったの!?」と動揺した唯笑をなだめるのに必死だった『チョコ騒動』も落ち着き、数ヶ月経過した。
時間が経過するのは早く、逆行してから早12年ほど。怜も『前回』の年齢に追いついた、つまり『高式暁』として生きている時間より『城月怜』として生きている時間の方が長くなろうとしていることに感慨深いものを感じていた。
季節は春。桜が咲き誇るこの頃、怜の端末に一本の連絡が入った。
相手は、最近は友人感覚で時々やり取りしている志瑞。志瑞は両親とは訳あって別居であり、祖母と二人暮らし、時々そこに近所の弟分が混ざってきては寝食を共にするらしいが、その祖母が急遽入院となったのでその準備など手伝って欲しい、といったお願いであった。
接点が少ないばかりに貴重な一般市民の友人からの頼みを無下に断るなど怜の中ではあり得ないことであり、その連絡を受けて即時に承諾してからというもの、怜は必死に依頼を消化し、提督や唯笑たちに必死に頭を下げて、提督と仲間に苦笑ながら「そんな無理しなくても、普段から頑張っているし、休みたいなら素直に言っていい」と怜としてはありがたい言葉を受けながらなんとか休日をもぎ取ることに成功した。
かくして、怜は10年前に唯笑と初詣に行ったきり訪れていなかった、志瑞神社に足を踏み入れていた。
というのも、ここ志瑞神社こそ志瑞の実家であり、志瑞は数世紀前から続く、由緒正しき社家であったらしい。志瑞は祖母に引き取られてからは正月に巫覡として毎年手伝いをしていて、数年前には舞月、黒守弟、識名とショーを開いたこともあるようだった。
そういった昔話をしながら志瑞は、実際の生活の拠点まで怜を案内した。
そして到着すると、志瑞はリビングまで怜を通してソファに座らせた。
「忙しい時にすまないな。ゆっくり寛いでくれ」
「いや、大丈夫だ。……しかし、入院の準備って、俺は何を手伝えばいいんだ?」
「手伝いといって呼び出しておいてなんだが、陽大……ああ、弟分が準備をしてくれたようでな。やることはほとんどないんだ」
「なんと。俺達より5歳年下……中学2年生くらいじゃなかったか?しっかりしてるんだな」
「慣れてるって言ってたぞ」
「……やぶ蛇か?これ」
眉を顰めた怜に志瑞が、「大丈夫だ。オレがきっちり言ってからはあまり手出ししていない様子だからな」と胸を張り、「やはりいい意味では無かったか」と苦笑した怜が、「じゃあ、何をすればいいんだ?」と首を傾げる。
「言っただろう?ゆっくり寛いでくれ、と」
「寛ぐったってなあ……」
と周囲を見回す。お世辞にも綺麗とはいえない、築数十年以上は経過していると見受けられる掘っ立て小屋。スペースは狭く、冷蔵庫もほぼ空で、買い出しか外食をしなければろくに食事にありつけない状況。テレビもボロボロのもので、動画や過去番組の再生は勿論、DVD再生機器すらない有様である。ゲーム機など当然無い。パソコンは辛うじてあるが、作曲や作詞がメインらしいそれを勝手に弄るのは気が引けた。
志瑞に一興頼むのも検討したが、この掘っ立て小屋で激しく動き回れば床とかが破れても不思議ではない、そう思わせるほど劣化しているのである。
「たしかに何もないかもしれないが……ああ、このへんに積まれている本などはどうだ?何でも読んでいいぞ?」
「いや、このへんのってタイトル見る限りお前のネタ帳だろ?沢山作曲とかしてるんだな……」
「大体はそうだが、中には陽大が演出をつけたものもあるぞ?」
「へえ、弟分に演出つけてもらったのか」
「高校に入るまでのことだが、とても楽しい時間だった。あいつにはあいつに相応しい作曲家がいずれ現れるだろうさ」
「そうだといいな……勝手に見るのはやっぱ悪いし、そもそもこれからのネタバレを食らうのも良くない。別の本とかないか?」
「オレが持ってる本はほぼないし……ああ、祖母が読んでいた書物などはどうだ?」
とリビングの奥の方の和室まで志瑞が行き、割とすぐに一冊の相当古い本を持って戻ってきてはテーブルの上に置いた。
相当古い書物なのか、端はボロボロで全体的に黄ばんでいる。タイトルはよく見えないが、『志瑞透』『志瑞歩』という2人の人物名だけは読み取れた。志瑞の先祖の日記か何かだろう、と当たりをつけた怜がページをめくると、家系図がびっしりと書かれていた。
「おい、これ志瑞の実家にとっては大切な記録なんじゃないのか?」
「頼む、城月にはこれを読んでほしい」
「はあ?」
怜が志瑞の方を見ると、志瑞は切実そうに怜を見ていた。
怜はそれに一瞬目を瞠り、げんなりとした表情を浮かべた。
「……俺を呼び出した本当の理由はこれを読ませる為か?」
「ああ。嘘をついて申し訳なかった。……祖母から譲り受けたこの品、多くの気になる記述があってな。城月には是非目を通して欲しかった」
「なるほど……じゃあ、読むか」
怜はそう言って次のページを開いた。
どうやら手記のようだった。志瑞透という人物が高校生だった頃から始まり、不定期に近況が綴られている。
高校時代、著者は霧早界……後に魔術を開発する人物と同級生だった。霧早が成績が同程度に優秀だった著者に声をかけ、そこから霧早の幼馴染、志瑞の幼馴染、霧早の親友、志瑞の双子の弟、その親友を含めたグループが出来上がった。しばらく楽しそうな日常が描かれていたが、高校卒業を機に霧早が幼馴染と結婚して以降は研究の内容が書き殴られていた。
しかしその10ページ後に、霧早の訃報のスクラップと誰かが書いた、『さようなら、皆。私はこの世界を愛している』と、誰に宛てたかもよくわからない手紙らしきものの写しが雑に貼られ、一層ぐちゃぐちゃに手当たり次第研究結果が書き殴られていた。
そんなのが数ページ続いた後、次第に落ち着いたのか弟との日常生活、ある未亡人との会話が記され、『約束は嫌いなんだが』と書き捨てている。
その次ページに志瑞の双子の弟の活躍している記事のスクラップなどが貼られ、その下から更に研究結果がまとめられている。
どうやら著者が生きていた時代には、『時間の巻き戻り』という現象が頻繁に発生していたようだ。そして著者は、その原因を突き止め、阻止しようと動いていたようだった。その原因ー霧早界の実の娘の1人、霧早悦は、未亡人を含めた著者の旧友を次々と殺し、ついには著者の弟まで殺害。著者は敵討ちを決め、最後に遺書らしきメッセージを書き留め、『皆の分まで慈悲、復讐心、決意を抱いて、いざ、逝ってくる』『ごめんな、懐。これだから約束は嫌いなんだ』という言葉で締めくくられていた。
空白のページを挟み、別の筆跡で戦いの顛末が書かれていた。
霧早悦ー通称『実現の魔女』は、志瑞透、霧早界のもう一人の実の娘、霧早慕の犠牲を払って封印されたこと。焼却など弔うこともできない都合上、遺体を悪用されないためにある場所に安置したこと。非常に甚大な被害が出て国内は大混乱であり、その混乱を収めるべく、志瑞透の旧友の唯一の生き残りであった志瑞透の幼馴染ー城月凪が総理大臣に就任したこと。彼女が、遺された家族ー志瑞透、志瑞透の弟の息子である志瑞歩、志瑞悠を引き取ったこと。補償、補填が終わった後に、今後の自治組織として『軍』を設立して退陣、国会などの制度も廃止としたこと。そして、安置していた遺体を隠匿し、厳重に幽閉するために志瑞神社を造営したこと。戦死者を弔う為に志瑞寺を建立したこと。それぞれにこの手記の原本と他の手記を保管していること。
最後に、それらとは全く異なる筆跡で、志瑞寺が再建できないほどの大火事に見舞われた記事のスクラップが貼付されていて、横に『記録は持ち出されている。悪用されかねない。警戒せねば』とコメントがある。
最後のページには、『志瑞家は、『実現の魔女』の躯を安置し、厳重に封印する。志瑞家特有の体質、所謂『異常性』……『容赦』が途絶えた時、『実現の魔女』は手段が何であれ復活、顕現するだろう。決してその血を絶やすべからず。不幸体質が強ければ強いほど封印は厳重である。丁重に育てよ。』と書かれていた。
あまりもの内容に怜が絶句していると、志瑞が口を開いた。
「……どうだ?重要な情報だと思うが」
「……ああ。とても参考になるものばかりだ。この手記、一旦持ち帰って内容を分析してもいいか?」
「問題ない。『世界救済』のためには必要だ」
そういって気丈に話していた志瑞は、そのままの調子で話を続けた。
「いずれ、ここが狙われるだろう。その時は何としてでも躯を守りきってみせる。何、大丈夫だ。オレしかもう志瑞家で封印できそうな人はいないようだが、オレは強力な方だと自負している。采和との1件でもぎりぎり生き延びたぐらいさ、ただでは死なない。なんせオレは未来のスターだからな!」
「はーっはっはっは!」と笑い声を放つ志瑞だったが、その声や体が震えているのは明白だった。
怜はたまらず、「だめだ」と拒否した。
「……なぜだ?躯なんか持ち去られた日には世界救済なんてできないかもしれないぞ?」
「それは志瑞が……司が死んでも同じことだ」
「オレは死なないー」
「死なないわけないだろ。現に『実現の魔女』戦でお前の先祖死んでるじゃないか」
司はそれを聞いて黙り込んだ。
怜は司の両肩を掴んで諭すように語りかけた。
「司。お前は一般市民だ。いくら裏のキーパーソンだろうが、裏のことを考える必要ないんだ。笑顔にしたい、その夢に向かって努力してくれればそれでいい……それがいいんだ」
「……だが、」
「躯とか、志瑞家の封印とか知るか。いいか、何があってもお前はお前の命を第一に動け。お前は、お前自身が思っているより想われている。お前が慣れないことして命を落とすだけで、お前が笑顔にできるはずだった人は全員曇るからな?未来のスターを名乗るならそっちの方を恥じろ」
「……しかし」
「というか、表の人間に命を犠牲にしてまで守られるほど俺は腐ってない。躯を盗られないように作戦を立てているが、万が一躯を盗られても、『実現の魔女』が復活しようとも、俺は『世界救済』を達成してみせる。だから、お前はお前にできることに最善を尽くせ。司が死んだら絶対許さないからな。何が何でも蘇生して、一発ぶん殴って、ずっと説教してやるから覚悟しろ……いや、死ぬ気で生きろよな」
怜がそう話すと、司は、「……怜。君は、厳しいな」と泣きながら笑っていた。
怜はそのまま、「ちょっと外の空気吸ってくる」と掘っ立て小屋を去った。
いっぱい人物名が出てきました。歴史の教科書みたいですね()
まあ、人物名はさほど重要ではないので、登場人物一覧にも申し訳程度に乗せるだけで、
詳しく紹介する気はないです。
もしよろしければ、評価、感想などいただけますと幸いです。




