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同じ空の下で  作者: 桜油
4章
54/140

49話

こんにちは。


今日は珍しく……数日遅れではありますが、季節に合ったエピソードです。

ほぼそんな要素はないですけどね。


では、どうぞ。

それは、バレンタインが近い真冬のある日だった。


「……げ、」


依頼の消化の為に怜が街を散策していたところ、怜にとっては半年ぶりに見る少女ー識名宇海とすれ違った。

識名とはほぼ話したことがない怜は、特に意識することもなく、声もかけないまま通り過ぎようとしたのだが、識名はそう小さく声を漏らした後、渋々「ちょっと待って」と怜を引き止めた。

嫌々、といった様子なので怜も気分は芳しいものでもなく、更に今日は依頼も不倫、虐待案件と胸糞悪い内容だった為、少し棘のある声色で反応してしまった。


「何だ」

「……ひ、久しぶり。元気してた?」

「今更そんな挨拶を交わす間柄でもないだろう。嫌々声をかけて要件はそれだけか?識名、お前はさほど暇人のようだな」

「ひゅっ……ち、違くて。えっと……」


萎縮した様子の識名に、『ああそういえばコイツは元『軍』所属とはいえ非戦闘員、一般市民だったか』と怜が少し冷静になり、「すまん、別件で苛立っていた」と謝罪する。識名も「いや、私も態度はあまり良くなかったから、」と返し、更に続けた。


「その、依頼したくて」

「何だ、依頼か。志瑞に連絡先を渡していた筈だが」

「え、司に?……いや、依頼っていうか相談なんだけど、できれば今日対応してほしいから……都合は大丈夫かなって」

「はあ。……俺は今忙しいんだ。他は……ああ、手が空いてる人もいないか」

「そんな……」


識名がそう呟いて膝から崩折れて地面に手をついた。顔面蒼白で、酷く狼狽えている。

少し哀れに思った怜は、少し考え込んで、口を開いた。


「生憎、俺は今からもう1件は依頼を消化しないといけない。だが、後からなら話くらい聞ける」

「え、」


瞬間、識名の瞳に一筋の光が灯り、四つん這いから膝立ちの体勢になり怜の服の裾を掴む。そのまま上目遣いで、「え、何時頃!?」と必死の形相で見つめた。


「ん、依頼が大体数時間として、どっかで報告はしないとだから、大体夕方5時頃か?」

「じゃ、じゃあ、夕方ここで待ってたらいい?必ず来て!」

「へいへい」


怜はそそくさとその場を後にした。

振り返ると、識名はまだじっと怜の方を見ている。

しかし、黒守采和や他の仲間ではなくわざわざ怜に相談する意味は何なのか、と怜は少し考えたものの結論は出そうになく、すぐに依頼の方に頭を切り替えた。


そして、数時間後。

依頼がまた厄介な案件だった為に解決まで長引き、提督に報告し、帰路についた。


もう夕方5時は過ぎている。口約束ではあるものの、識名が切羽詰まっていたし、そもそも約束を破るようなことはしたくない。さっさと済ませて心の安寧を確保しよう。そう考え、怜は識名と鉢合わせた場所へ向かった。


「すまん、待たせたな」

「うん、待たされたけど」


識名は不機嫌そうに表情を歪ませていた。


「本当に申し訳ない。依頼が立て込んだんだ」

「そりゃそうかもしれないけど……昼から数時間ずっとここで待ってたのに」

「悪かったって。というか、何で態々俺に相談しようと思ったんだ?他に相談できる人いるだろ」


怜の質問に、「それは後で話すわ。密談するのにおすすめの場所とかない?」と識名が言うので、怜はおなじみの喫茶店『ソーサリータクト』に連れて行くことになった。


道中特に会話はなく、そのまま入店。席についた後も沈黙が続いたが、最初にそれを破ったのは識名だった。


「……忙しいのに時間を取らせてごめんなさい」

「別にそれはいいから、本題に入ってくれ。何で俺に相談しようと思ったかと、相談内容が分からないことには、話が進まないだろ」

「それもそうよね」


識名はそこで言葉を止めて、すう、はあ、と深呼吸をした後に再度口を開いた。


「最近、『教会』の全権代行に声をかけられたの」

「……、どこでだ?」

「私と采和の、拠点の前」


怜は頭が痛くなるような思いだったが、すぐに気持ちを切り替えた。


「それで、なんて声をかけられたんだ」

「勧誘よ。私の造ってるアンドロイドを兵力にしたいみたい。魔術連打、突撃、最終的には自爆特攻させるのも視野だって」

「軍事利用か。アンドロイドはそういう運用をしようと思えばできるのか?」

「できなくはない。今使ってるのは歌ったり踊ったりが好きな性格に設定してるから、戦闘を好み、自己犠牲を厭わない性質に設定してしまえば……でも、私の造った機械が人を傷つけるなんてそんなのは嫌なの」

「黒守弟には伝えてないのか」

「できるわけ無いでしょ。だって采和、裏の仕事が終わった後死にそうな顔してたし。せっかく今は生き生きしてるのに、つらい思いなんてさせたくないわ。……それに彼奴、多分高校卒業したら裏に戻っちゃうと思う」

「はあ?何でだよ」

「わからないけど、……あいつ、無駄に律儀で頑固だもん。私が止めたって聞きやしないわ。兄さんのこと心配そうだから、そのへんが理由と思ってるんだけど」

「へえ……志瑞や舞月は?」

「論外よ、論外。あいつら、善良な一般市民じゃない。巻き込みたくなんか無いわ。血生臭い業界なんて知らないまま平穏に生きてほしいのよ」

「それで、『JoHN』を頼った、と」

「そう」


注文していたコーヒーが届き、識名は一口含んだ後に話を続けた。


「で、話を戻すけど。クリスの誘いは断ったの。そしたら、現在使用しているアンドロイドと全く同じ設計、設定でいいから1機よこせ、だって。自力で設定いじるんだろうな、って分かったからそれも断ろうとしたけど、司や愛を狙うぞって……脅されて、承諾するしかなくて……」

「なるほど。お前はどうしたいんだ?」

「事を荒立てたくない。この一件が明るみに出たら、采和は余計気に病むと思うの。だから、取引は完遂させる……けど、軍事利用だってされたくないから、アンドロイドが軍事利用されないように何か案がほしい」

「そういう依頼かあ」


怜もそこでコーヒーを飲み、思考を巡らせる。


「色々案をだしてみるから、検討してみてくれ」

「え、うん、分かった」

「アンドロイドの設定を弄れないようにするとかは?」

「性格を固定するのは前に考えたけど……ハッキングされたら無理ね」

「アンドロイドの運動性能をがっつり落とす。簡単に撃墜されるくらいに」

「クリスには同じ性能でって指示があるわ。それに逆らっても同じ末路みたい」

「アンドロイドに自傷するようプログラミングもハッキングされたら駄目そうか?」

「自壊ならなんとか?でもハッキングされたら……」

「ハッキングが一番の問題か……」


と考え込み、怜はふと思いついた。


「なあ。魔術を付与するのはどうだ?」

「魔術?ハッキングできないようにってこと?」

「ああ。ハッキングできないような魔術式を組んで、完成した試供品にそれを付与すればいいだろ。……ついでに、分解も改造もできないようにしよう。これなら複製されるおそれもないな」

「でも、クリスも魔術師よ?簡単に解除できるんじゃない?」

「いや、俺の魔術を上書きは絶対できない」


怜の『異常性』『決意』の効果である。識名は暫く半信半疑なのか顔を顰めていたが、やがて端末を取り出して文章を打ち込み始める。


「何してるんだ?」

「采和にあんたの魔術は上書きできないって本当なのかって聞いてる」

「いや、脈絡もなくそんなこと聞かれたら、何があったか邪推されないか?」

「そのへんは私がなんとか誤魔化すから……よし、あとは返事待ちよ。本当だったらそれ採用ね、それまで一旦休憩」


そう言って識名は再度コーヒーを飲み、次に運ばれてきたお菓子を摘んだ。

怜も端末を見て、帰りがいつなのか心配する唯笑からの連絡に、『緊急の依頼一件対応中。もうすぐ終わる見込み』とだけ返し、適当に暇をつぶす。

十数分後、識名の端末に通知があった。黒守弟も怜と同じ任務に就いたことがない為真偽が分からず、提督に確認を取ったらしい。なるほどたしかに、最初から提督に真偽確認をする方が早かったかもしれない。

そして案の定、提督は肯定した。


「本当、なんだ……あんたってチートじゃない?」

「俺も昔そう思ったが、どうやらそうでもないらしい」

「はあ?あんた以上のチートがいるの?」


識名の呆れたような声に怜は苦笑いした。

結果、識名が試供品を作成後に怜が分解、改造、ハッキング不可の魔術式を『決意』も込みで付与してからクリスに引き渡すことに決まったところで解散し、後日識名より完成報告があったので実際に付与していた。その更に後日、差出人不明のバレンタインチョコが怜の居室に届けられていた。


チョコには、『ありがとう、おかげでクリスに一泡吹かせられた』というメッセージカードが添付されていた。

あと数話で4章も終わりなので、用語集と、登場人物一覧の更新の準備を進めています。


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