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同じ空の下で  作者: 桜油
4章
50/140

45話

こんにちは。


今日からは汐宮宥の回が続きます。


では、どうぞ。

提督から『JoHN』独立の話をされてから数カ月後。


提督は、有言実行、善は急げと言わんばかりに、『JoHN』のメディア露出を増やしていった。『教会』にあまり手の内を知られたくないとして唯笑が抗議していたが、提督はこれを「『JoHN』は今はもう結構有名な部隊になっている。今更だろう」「それに、手の内を明かさないよう前線はあれっきりにしてある……本音を言えば、正直戦闘などしてほしくないのだが」と一蹴していた。


ゴールデンウィーク中にも取材を受けることもあり、もはや慣れた様子でインタビュアーに応対した数日後には、魔術師御用達の情報誌『MagicalArchive』に大々的に特集が組まれ、その影響もあって『JoHN』を指名しての依頼件数がぐんと跳ね上がっていた。

これについても、主に唯笑が「ちょっと、戦闘控えるんじゃなかったの刹那さん?」と睨んでいたが、提督は涼しい顔で「こちらには拝郷もいるからな。裏を取って、『教会』『御伽学院』『評議会』からの依頼や、依頼人の安全性が確認できないものは徹底的に排除している。これならそこまで危険な目に合わないだろう。あとは、将来を見据えるなら自分で始末できたほうがいい」とあしらっていた。怜も提督の言い分には割と納得していて、唯笑もそうと分かれば文句はないらしい、大人しく引き下がった。


また、任務の割り振りも提督が以前は指定していたが、最近は依頼を自力で捌く為と怜たちに依頼リストを送っては割り振りを自由にさせるようになった。怜としてはありがたかったので、好意に甘えて最近は割り振りを怜が決めている。一応条件として『時々執務室に指定の人物を派遣する』必要があるが、あってもなくてもあまり大差のない条件だった。


そういった事情で、最近設えた『JoHN』の事務局にて、5人揃ってその日も任務の割り振りをしていた。


「最近暑くなるの早くないか?もうエアコン稼働してるんだが」

「まだ5月でしょ?エアコンとか早すぎない?切ろうよ」

「パソコンのせいで暑いんじゃないですか?それにまだ5月とか言ってますけど、もうすぐ6月です。つまり実質梅雨みたいなものです」

「……さすがに5月第3土曜にもうすぐ6月っていうのも……まだ中旬だし……」

「だまらっしゃい有希くん」

「だまらっしゃい」


宥らしからぬ言葉遣いに固まる有希をよそに、唯笑と怜が会話を続ける。


「まあまあ。何はともあれ文明の利器とはなかなか素晴らしいもんでしょ?」

「いや、今まで普通に端末とかいじってただろ」

「口頭とか、手紙とか、なんで魔術組織の情報伝達って遅れてるんだろうね?『伝達』使えばいいじゃん」

「一人一人『伝達』するのも手間だろ」

「まとめて言えば良くない?」

「情報漏えいをあっという間にしそうだな。というか、何人構成員がいると思ってるんだ?」

「それもそっか……あ、じゃあ指定の内容が意図した相手だけに流れるようにすればいいんじゃ」

「魔術式が凄い重そう……それって口頭とか手紙とかと大差あるのか?」

「難しいね……あ、じゃあメールとか電話は?SNSでも良いけど」

「端末取られただけで情報漏洩するな。SNSならアカウント乗っ取りすれば一発だ」

「むう、あー言えばこういうんだから……」


その横で、宥と有希もパソコンを見ながら話す。


「えーっと、あれが……こう、で、これ、が、……こう……」

「宥……何してるの……?」

「これは、『JoHN』のホームページですよ……最終的に、すっごい早いサイトにするみたいです」

「……あの人並みに早いサイトって、内容浅くなりそう……」

「その言い方はあの人に失礼です。清々しいほどすっきりしたホームページだと言うべきでしょう」

「宥も充分失礼……」


そして、今まで我関せずと黙していた紗季は漫画を手に持っていて、どこかツボに入ったのか、「あっははははは!」と声に出して爆笑していた。


任務の割り振りとは名ばかりで、今日は休息日になっていたので寛いでいた。

今までとは違ったハードスケジュールではあるがそれでも律儀に毎日依頼の消化に時間を割いていた怜たちに、提督が「いい加減休め。俺は未成年をブラック企業のような環境で働かせる趣味など持ち合わせていない」と苦言を呈したのである。

本来であれば事務局に顔を出すことも許可されていないのだが、怜、唯笑は既にワーカーホリックな性分になっていたし、宥と有希、紗季も、怜と唯笑が実質休んでいないような状況で遊びに出かけるのもどうなのか、と気遣った結果、全員事務局に入り浸っている。

あと、単純に、『放蕩の茶会』や燿、執行とオンラインで会談する時、防音性、機密性に優れていて、資料も早急に用意しやすい事務局の環境が気にいっているのも理由にはあった。


そんな中、怜はいつものクセで依頼のリストを流し読みしていたのだが、ふとある依頼に目が止まった。


依頼主は匿名希望。拝郷の検閲もあるので恐らく依頼主に危険性はないと裏が取れたからこそこのリストにあるのだろうと思われるが、依頼内容が何分特殊であった。ある日時にある人物と会ってほしいらしい。会いたいという依頼こそあれど、ある人物とあわせようとする内容のそれに、怜が思わずスクロールしていた手を止めたのだ。


怜の手が止まったのに気付いた唯笑が、「どしたの?」と横から画面を覗き込み、同じ依頼を見たのか「……うん?」と首を傾げていた。


まだ特殊な点はあった。今日会ってほしいようだが、宥を必ず連れて行くようにという指定があった。多分、宥と誰かを対面させたいのであろうという意図こそあれど、怜には特に心当たりはない。唯笑の方に怜が視線をやっても、唯笑も肩を竦めていた。

しかも、優先順位でトリアージを拝郷と提督が共同で行っているようだが、優先順位は最上位に設定されている。今日休みにしていた提督が優先順位最上位の依頼を放置するとは思えず、拝郷が独断でそのように設定したのだろうと怜はあたりをつけたが、どうして最上位なのかはよく考えても分からずじまいであった。


意図がどうであれ、今日その待ち合わせに宥を連れて行かないとまずいようだ。怜ははあ、と軽くため息をついて席を立ち、サイトを編集している宥の方へと歩を進めた。


「宥。少し時間いいか?」

「あ、はい、なんでしょう?」

「お前に会いたい人がいるらしい。一緒に待ち合わせ場所まで行けないか?」

「はあ……ウェブサイト関連で忙しいですけど、それより優先なんですか?それ。そもそも休息日では……」

「拝郷が勝手に最優先に設定したっぽい。日程調整も難しいって依頼主の意向だ」

「……なるほど、そういうことですか……」


と宥もため息をついて、「仕方ないですね。これも有名税って思っておきましょう」と席を立って荷物を取りに居室へ去っていく。

その間に唯笑は表示させっぱなしの依頼リストを凝視していたが、腑に落ちたことでもあったのか、「ああ、彼奴はもう会わせる気なのね」と手槌を打っていた。


「唯笑、心当たりあったのか?」

「うん、そりゃもうね、心当たりしかなかったや……あと数週間先を想定してたけど、拝郷は別の意図もありそうだし……まあ、変とかイレギュラーとかではないね」

「唯笑も俺に会わせる気があったってことか。……どうだ、危険性は?」


怜がこっそり唯笑に尋ねると、唯笑はカラカラと笑った。


「まさか!一般人も一般人、誰かを傷つけるなんて発想は全く無い善良な人だよ。信頼してもいいってほどにね……まあ、個性的ではあるけど話してて楽しいと思うから、今回の面会、楽しんでおいでよ」

「一般人か……いや、それはそうなんだろうが、じゃあどうして『JoHN』に会いたいんだ……?」


唯笑の回答に腑に落ちない何かを感じながら、怜も出かける準備をしに居室へ向かった。

もしよろしければ、評価、感想などいただけますと誠に幸いです。

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