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同じ空の下で  作者: 桜油
序章・1章
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2話

前話で助けた少女は何者なのか。

少女といよいよ初会話です。


では、どうぞ。

次に怜が目を開けると、目の前に青髪の幼女の顔が見えた。


「あ、起きたんだ。良かった……」


その幼女は、青空のように澄んだ瞳を細めて微笑んだ。

戦っていた時はあまり顔を見れていなかった幼女は、サラサラとした、濃い青、藍色に近い色合いのショートボブの髪、爽やかな青空のような瞳、将来は美女になることが容易に想像できるほど整った顔立ち、とこうして落ち着いて観察してみればとても綺麗だ。怜はそう感じた。


じっと幼女の顔を観察している怜の心境をどう思ったか、幼女は「えっと。覚えているかな?怜はね、『教会』の人を倒したあと、倒れちゃったんだ」と状況を説明し始めた。大丈夫だ、と返そうと怜が口を開くも、幼女は続ける。


「それでね。倒れちゃったのは『異常性』の使いすぎが原因だよ。まあ、取り返しもつかないほど使いすぎたわけじゃないし、今回は初めて意図的に使っただろうし。次回からは、これくらいなら使っても倒れることないから安心してね」

「……そうなのか。ありがとう」


と体を起こす怜に、「どういたしまして」とにぱっと笑う幼女を見れば、どうも今まで膝枕をしていたらしい。怜はすくっと立ち上がり、幼女に手を差し伸べると、幼女も「あと、私もありがとう。助かったよ」と手を借りて立ち上がった。彼女の手には、奇妙な紋様が中途半端に消えた形で刻まれていた。

その紋様には言及することもなく、怜は珍しく自身と会話が釣り合う幼女との会話に気を戻す。


「とんでもない。俺の方こそ、君の助けがなければすでに死んでいただろうし。むしろ、俺が不甲斐ないばかりに怪我をさせてすまなかった」

「ううん、あれは私の自己満足だからいいんだよ」


と話す彼女は、「しかし、本当大変だったね。『教会』幹部が狙ってくるなんて想定外だよ」と苦笑いを浮かべてブランコに腰掛けた。そのまま、きい、きい、と地に足をつけたままゆっくり前後に漕ぐ彼女の隣のブランコに、「そうだな」と返して怜も腰を掛ける。


沈黙の時間が少し続く。空は今も快晴で、空気もどこか澄んでいる。

ふと、幼女が口を開く。


「……何も聞いてこないの?」

「……聞いてほしいのか?」


怜は質問で返した。

怜にとっては聞きたいことなど山のごとくあった。なんせ、初めての、怜のこの奇っ怪な現状について理解を得られそう、どころか怜より情報を持っているかもしれない人物である。

どうして君は怜の名前を知っているのか。どうして怜の『異常性』について知っているのか。怜をかばう際の発言の意図はなにか。

しかし、それは軽々しく聞けないことである。赤の他人だが、命の恩人だ。怜も情がないわけではない。だから、自分から聞くならせめてもう少し時間が経過してからだし、本人の意向も聞かないまま質問はできないと、怜はそう感じていたのだが。


「いや、……聞いてくると思ってただけだよ。だって君、そういうタイプでしょ?合理的な判断を優先するタイプでしょ?私を守ったのも、情報源としての価値を重視した結果だと」


との幼女の一言で、以前の怜を知っている、『逆行』前の記憶を持っている人だと怜は確信した。


「失敬な。たしかにその一面もあるが、あんなに俺を庇おうとしていたんだ。情報源とか関係なくても助けられるなら助けるさ」

「あはは、ごめんって」


けたけたと笑ったあと、幼女は魔術式を展開する。瞬間、全体に防音結界が貼られる。


「ごめんね。怜の疑問に答えようとするとすごく重要な話になるから」

「誰にも聞かれたくないほどか。むしろ、そんな話を俺が聞いてもいいのか?たかが赤の他人だろう?」

「うん、君にはむしろ聞いてほしい。……いや、聞いてくれないと困るんだ」

「……?」

「怜にとっては赤の他人でも、私にとっては大事な人だから」


幼女はそう言って、ブランコを漕ぐのをやめて立ち上がる。


「そういや、自己紹介してなかったね。私は怜の名前を知ってるのに、怜は私の名前知らないって不平等だ」


と怜の前にたち、怜をまっすぐ見据えた彼女は、ゆっくりと口を開いた。


真白唯笑(ましろゆえ)。君と同じ『逆行者』。もっとも、巻き込まれただけの君と違って、明確な目的を持って『逆行』してきたんだけど。まあ……よろしくね」


それに怜が口を開くも、真白は「そして、」と続けた。


「君……高式暁だった君を、城月怜として12年前に逆行させた張本人でもある」

「……はい?」


真白の告白に怜が唖然としている中、怜が疑問に思っていることを彼女はマシンガンのごとく話し続ける。


「私は、世界を救いたい。世界を救って、大切な人と同じ空の下で笑いたい。その為に、自分と関わった全ての人には幸せであって欲しい。ずっと前の暁との約束なの。そのために、私にできる最善はすべて尽くしてきた。私が今までで知った知識、経験を総動員して最後の作戦を考えついたの。それには怜。君が、君の異常性がどうしても必要だった。君に相談もなしにこんなことに巻き込んで、本当にごめんなさい」

「ま、待て」


情報の濁流に混乱した怜が制止をかけるが、真白の独白は止まらない。


「もうこれが、泣いても笑っても私にとって約束を果たす最後のチャンス。今回を逃せば私はもう全て忘れて世界の終焉まで繰り返すか、消えるしかない。だから、これからも最善を尽くす。怜が生きやすいよう、私の知るすべての情報を提供だってするし、世界を救えたら、怜がこの巻き戻しで失ったものや未練について弁償するから。だから、だから」


と、真白は手を差し出して頭を下げた。


「お願い、怜。君の力を……気持ちを、貸してほしい」


……怜は、それにすぐ答えられなかった。

彼女が今言ったことをまとめれば、『この世界は繰り返している。その現状を打破すべく、自身も知らない過去の自分が真白と約束をした。今回が最後のチャンスであり、今回こそ救うために真白は自分や他の人を巻き込んだ。今回成功させるにはどうしても怜の協力が必要』ということになる。

たしかに一部の疑問は解消できた。怜を必死に救いたがった理由は、その事情によるものだろう。解消していない疑問も、あとで真白に聞いたり自分で情報収集をすれば済む。『異常性』の使い方がわかったため、今後はそこまで苦戦しないだろう。

だが、この真白の独白は、伏せている情報が多いのか、いまだわからないことが多い。今は頼み込んでいる場面、しかも怜以外に換えが効かない時点で真白にとってはとても不利な交渉ではないだろうか。正直怜は半信半疑で、すべて情報を提示してでも相手に承諾を得たいだろうに、どうしてまだ情報を一部伏せるというのか。本当に真剣なのか?俺を利用したいだけなのでは?


そんな猜疑心に襲われる中、怜は差し出された手を見る。震えていて、手汗がひどい。極度に緊張していることがそれだけでわかる。

それに、頭を下げていて彼女の顔を窺い知ることはかなわないが、ぽた、ぽた、と水滴が彼女の顔から滴っている。どうも、彼女は泣いているらしい。それは彼女の目の、今日の天気と同じくらい澄んだ青空が曇って雨が降っているようで。

それは、嫌だと感じる自分がいた。


「……いいよ」


きづけば、怜はそう返事をして手をとっていた。手はひどく冷え切っていた。

「え、」とばっと顔を上げた彼女はやはり泣いていたのか、涙が頬を伝っていた。今日は泣かせてばかりだと怜は思った。


「いいよ。協力する。どうせ、巻き戻ってまでやりたい目標なんて俺にはないから、ちょうどいい」

「……本当にいいの?だって、せっかく憧れの魔術師として活動してたんじゃないの?」

「憧れっていうか、魔術に興味があるからそれで飯食いたいとは思ってたけど、それは今回も達成できそうだから、何も問題ない」

「それはそうだけど、……でも、君にはそこまでする理由なんて」

「あーもう面倒だな。人を助ける理由なんて、面白そうとかで充分だろ」

「そ、そんなわけ」


怜が受け入れると答えるものの、真白は何度も、「断っていいんだよ」とばかりに食い下がる。しかし、表情は未だ暗く、食い下がる度に、取った手が冷えていくし震えも増していくのを、怜は感じた。

怜は、握っていた手を離した。その離れた手への真白の視線を受けながら、怜は真白の両頬を摘んだ。


「ひゃ、ひゃいひゅるにょ」

「しつこい。俺は協力するって言ってるだろ。どんなに食い下がられても俺はもう決めたから、観念して笑え」

「ふぁ、ふぁらう?」

「そ。こんないい天気なんだ。笑わないと損だろ」


そんな怜の言葉に真白はぽかんと呆けて、やがてクツクツと笑い始めた。これならもう大丈夫だろうと怜が摘むのをやめると、真白は可笑しくてたまらないとばかりに腹を抱えて笑い始めた。

しばらく笑い声が公園中に響いたあと、少し落ち着いた真白が、「まさか君がそんなこと言うなんて夢にも思わなかったや」と涙を拭う。

怜はそれに少しだけ考えて、やがて少しだけ笑って、「そうかもな」と返した。

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