44話
こんにちは。
今日も私用で有給入れてみました。
今年度には有給使い切りたいです。
今日は提督回です。
では、どうぞ。
それは、ある冬の日のことだった。
怜が提督の執務の補佐に割り当てられ、探索、交渉、パトロールなど他の任務に出かける唯笑たち仲間を見送ってから執務室へと足を運び、作業をしていたところ、提督は怜にこんなことを尋ねてきた。
「城月。世界救済の後、お前は何がしたい?」
「世界救済の後……ですか?」
「ああ。物語なら世界を救ってめでたしめでたし、で終わりだが、人生はこれから先も長い。何か目標とか、進路とかあるのかと思ってな」
そういって提督は城月の方を見遣る。怜は、少しだけ考え込んだ後に口を開いた。
「……『JoHN』って、『決して嫌われることのない正義』という意味ですよね」
「その通りだ。そのつもりで部隊名を決めたが」
「俺は、『決して嫌われることのない正義』……『正義の味方』として、困っている人を助けたいと思っています」
「……それは、真白がそう望んでいるからか?」
怜の言葉に眉を顰めつつ提督がそう聞き返した。怜は、「それもあります」と肯定した。
「『自分が関わったすべての人に幸せであって欲しい』という考え方は、美しいものだと思っています。自分より他人が大切、なんて偽善者ですけど、それでも、そう言い切られたならどんなに素晴らしいだろうと……憧れるだけでした」
「……」
「でも、憧れてるだけでちゃんと理解はしていなかったように感じます」
ほう?と言葉を漏らした提督に、怜は続けた。
「『今回』、大切なものが沢山出来ました。けれど、その理想を形にするなら、いつかその大切なものを切り捨てることだってありますよね。彼奴だってそうしてきた筈。でも、その根底にあるのは『大切なものを守りたい』『誰かの力になりたい』、そんな、人として当然の温かな願い。……俺も、今ならその気持ちが分かる」
「……」
「彼奴が何をどう願って、あの理想を掲げているのか……それは本人にしか知り得ないことでしょう。だから、俺は、それをなぞるんじゃなくて、俺なりの解釈をしました」
「……聞かせてくれ」
「……俺は、『大切な人の笑顔』を守るために、『正義の味方』になりたい」
怜のその言葉に、提督は少し目を瞠ったもののすぐに、「そうか、」と微笑んだ。
「それは、とても綺麗な夢だな。綺麗に育ってくれて、嬉しく思う」
「……」
提督のそれは、まるで子どもの成長を喜ぶ父親のようだと怜は感じた。怜にはそんな父親など『前回』も含めていた試しもないが、なんとなくそんな感想を抱いたのだった。提督は穏やかな表情で怜の頭をぽん、ぽん、と撫でた後に、引き出しから1つのファイルを取り出して怜に差し出した。
「なら……世界救済の後にこんなプランとかどうだ」
「プラン?」
と怜がファイルの中の資料に目を通し、目を瞠った。
『JoHN』を『軍』から独立させ、正式な魔術組織として運営するというものだった。企業型ではなくサークル型としての運用のようで、『陰成室』『放蕩の茶会』『軍』が後ろ盾になるとのことだった。『国際魔術連合』からも正式に認可を受けられる見込みらしい。
驚く怜に、提督は1人説明をする。
「『軍』や『企業型』では、どうしても利益を追求するからやれることに限界がある。しかし、サークル型で『放蕩の茶会』のように自由気ままに旅をする活動方針なら、特に利益も出なくていいし、少数精鋭でやっていける。それに自由に世界中を回れるからな。世界中のあらゆる人と広く、深く関わったら、きっと今までとは違う光景が見られるぞ。生活に困ってもお前たちの実力ならフリーで適当な依頼を消化すればある程度稼げるだろう?『放蕩の茶会』と似たようなものだ」
「それは、そうかもしれませんけど……」
「……どうした?どこか不都合でもあったか?」
「いや、不都合とかじゃなくて」
と怜は前から気になっていたことを尋ねることにした。
「……どうして、俺にそんなよくしてくれるんです?」
提督は、あ、という顔で少し気まずげに目をわずかに逸らした後、ゆるゆると怜の方へ視線を戻した。
「……城月の両親……特に城月彩には、随分と世話になった」
「……?」
「お前は知らなかったかもしれないが……俺の前の全権代行は、お前の母親だったんだ。俺はその直属の部下としてかわいがってもらえていた。桜乃夫婦ともその時からの付き合いになる」
提督は書類を処理しながら、語り始めた。
提督の父親は提督が10歳の頃に逝去した。大黒柱を失ったことで生活は困窮した。訳あって実家を頼れず、専業主婦だった母の収入と貯金だけでは子ども2人の育児は不可能。母に涙ながら謝られながら、提督自身も心のどこかで納得しながら、提督は家を出て、食い扶持の為にフリーで魔術師稼業を始めた。そんな彼を拾ったのが、当時の全権代行の城月彩だったのだ。
桜乃夫婦を指導役に据え、実践経験などを沢山積んだ。元からあった才能と血の滲むような努力、夫婦の懸命な指導のおかげで成長速度は凄まじく、途中からは全権代行としての業務を補佐していた提督だったが、城月彩が家族サービスのためと休暇を取っていた日に、彼女が暗殺されたという訃報を受けた。
彼女との会話で、二卵性の双子がいることを知っていた彼は急いで家族を保護に向かったが、現場にあったのは夫婦の遺体だけで後は蛻の殻。子どもの遺体が見つかっていない以上、少なくとも即死はしていない。生きていれば保護、死んでいたとしても正式に弔いたい。そんな願いから捜索を続けていたが見つからず、諦めかけていた頃に城月怜が『軍』に加入してきた。今度こそ、しっかり見守りたい。
そんな過去を提督は語った。
「途中、弟が入ってきたのには驚いた。どうも、母も亡くなったから、唯一の身内の俺を頼って加入したらしい。無論、加入してきてすぐに、変な任務で殉職などしないように俺の直属としたが……どうしても戦闘任務が多くなってしまってな。あいつも真面目で責任感が強い質だ、親友にさえ相談できなかったあいつは抱え込みすぎた。俺は何もしてやれなかった。直属の部下もつけたが、その部下と一緒に逃げ出してくれたことに安堵すらしていたものだ。真白がその先を保障してくれたのもあったが。……最近は真白が話していた通り、楽しそうにしているようで何よりだ。あのまま一般市民に溶け込んで楽しく人生を過ごしてくれればいいと切に願う」
と提督は肩を落としたが、やがて神妙な顔で怜の顔をじっと見据えた。
「……お前の家族を守れなくて、申し訳なかった。もっと早く見つけられなくて、すまなかった。孤児院にいたと聞いているが、真白がいなければ辛かっただろう、苦しかっただろう。痛い思いも、怖い思いだってしただろうな」
怜は咄嗟に否定しようとして口を噤んだ。
提督が思っているような心情ではないものの、たしかに唯笑がいなければ、『教会』幹部に殺されかけたり、何のために逆行したのかと悩んだりしただろうと思ったから。
実際、逆行した当初は『面倒だ』と感じていた。
提督は続ける。
「真白からどう頼まれて世界救済を目指すに至ったかは分からないが、だからといって大勢のために自分を雁字搦めになどしなくていい。何でもいい、たった1つでいいから、目標を持ってほしかった」
「……」
「お前の人生はこれからも続く。自分を描いて、進んで生きていけばいい。心から、そう願っている。……どうだ?『JoHN』の独立の件、進めておこうか?」
「……そういうことなら、ぜひ」
「分かった。処理しておこう」
そこまで言うと提督は、「さ、仕事に集中しようか」と言って書類に視線を落とした。
怜は提督から贈られた言葉を反芻していたが、仕事の時間だったことを思い出して仕事に意識を向けた。
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