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同じ空の下で  作者: 桜油
4章
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40話

こんにちは。

今日から4章ですね。

特に決まったテーマがあるわけではなく、しばらく日常回?が続きます。


では、どうぞ。

春。

世間では進学、就職などで活気だつこの時期ではあるが、魔術師は春夏秋冬季節を問わず実力のあるフリー魔術師は動機が何であれ魔術組織に加入、脱退する。また、全権代行、幹部などの一部権力者も任期の設定は特に無い為、春だろうと感慨深いものは一切ないのが怜なりの感想である。

汚職し放題な魔術組織ではあるが、実力至上主義であるし、入る者拒まず去る者追わずという形式をとっている以上、汚職したり実力が衰えても尚ふんぞり返ったりしていると、自浄作用は勝手に働くものである。提督は汚職どころか今までの提督で最も評判が良く、一般市民からの覚えも良いので、春の陽気に当てられた一部の馬鹿も革命だなんだと騒いでも周囲のまともで善良な市民や平の魔術師が制止できる規模でおさまる可愛いデモもどきであろう、と怜はそう判断していたし、唯笑もその辺りはドライな捉え方をしているようであった。

あの宥でさえ、「周りが見えていない脳内お花畑な方もいらっしゃるのですね」と冷たい視線をその騒ぎの中心に送っていたし、紗季も「人生楽しそうで何よりだよね!」と笑っていた。

そんな、平常とほぼ変わりない春。年月が経つのも早く、怜は今15歳。『前回』であれば高校に進学していた頃である。


毎年先述したような様子で過ごすのだが、今年はどうも少し毛色が違った。

椎名が『推し活』を始めたということだ。


「『推し活』?普段から秩佐を推しているようなものじゃないのか?」

「んー、まあそうなんだけど、そうじゃないんだよね」

「はあ?」


喫茶店『ソーサリータクト』店内にて執行との会談中、その『推し活』開始を雑談の議題に選んだ唯笑が怜の質問にそう曖昧に返した。

何でも、唯笑曰く。


「白星くんは、『前回』こそ綴ちゃんが色々介入した結果魔術師として生活してたんだけど、何も介入しない場合は一般人になるんだよね」

「魔術師にならない秩佐とか全く想像できないんだが。……諜報任務とか、交渉とか、潜入とか、それに最前線に出れるし、俺とも『前回』互角だっただろ」

「なにそれ『軍』にめっちゃ欲しい人材じゃん。てかワンチャン『陰成室』来ない?」

「いや、『前回』はともかく今は無理じゃない?彼には彼なりの目標がもうあると思うから、裏に起用したいなら『放蕩の茶会』と敵対する覚悟で5年くらい前までに勧誘しないと」

「ハードル高。え、ってかその時から推してんの!?」

「ある意味生まれる前から推してるね。それに強火担だから」

「……『今回』の秩佐って何やってる人なんだ?推しっていうことは何かしら活動はしてるんだろ?この時期から秩佐が交渉とか出れないっていうのと関係あるのか?」


怜の問いに、唯笑は穏やかに微笑みながら「今年からだけどね。強烈なデビューが昨日あった筈だよ」と答え、それを聞いた執行が端末で検索をかける。すぐに話題の動画を見つけたのか、端末から音楽を流し始めた。画面を覗き見ようと怜は若干腰を浮かせたが、唯笑が袖を引っ張り首を横に振ったので、仕方なく音楽を聞くに留めた。


どこか演じているような様子の少年のー秩佐のと、怜には聞き覚えは無いがとても明るいことが容易に想像できる少女、数度しか聞いてこそいないものの明らかに黒守采和、識名宇海のそれと分かる歌声、そして識名が開発したのか、どこか人工的なものを感じさせる歌声が流れる。曲も完全オリジナルだろうか、早口でしっちゃかめっちゃかながらも明るい気分にさせてくれるような陽気で軽快な音楽がしばらく流れる。

数分ほどでその音楽は止んだものの、執行はしばらく再生が終わって真っ暗な画面をじっと見つめていた。俯いていて、店内が若干暗いのも相まって執行の表情を窺い知ることは怜には出来なかった。


やがて執行がぼそりと呟いた。


「……あいつが明るい顔してんの、初めて見た」

「……」

「『軍』いる時は、何やっても死にそうな顔してたのに。あんなの、あたし知らなかった」

「……」

「真白。あんた、こうなるって知ってた?」


執行の問いかけに唯笑は、静かに頷いた。


「知ってたっていうか、想定した通りの結果になった、かな。今までの付き合い、人間観察した結果その他諸々の情報を考え、『あの2人』を引き合わせようと思った。後押しに『放蕩の茶会』が軽く広告を打ったから、万が一の失敗も有り得なくなった。その結果がこれ」

「……そっか」

「偶々だよ。世界の可能性を夢見る、すべての人に幸せであって欲しいなんて思ってる絵空事を宣う物好きの夢想家が、たまたまその想像に協力してくれる人がいて、たまたまその想像が正解を選んでただけ」

「『だけ』じゃ済まされないよ」


執行が唯笑の言葉を遮った。


「あんたはあたしより采和のことを理解してるんだ。裏の魔術師稼業してるあいつしか想像出来てなかったんだ、あたし。采和のこと、何も見てなかった。ただ強い采和に憧れて、アイツのフォローしてる自分かっこいいって勘違いしてるだけのつまらない女ってことがよく分かった」

「……」

「……憧れは、理解から最も遠い感情でしかなかったや」


そう言い捨てて席を立った執行は、荷物をまとめ始めた。


「ごめん、帰るわ。会計置いとくし、お釣りもいらない」

「え、ちょ。まだもうちょっと話したいことが、」

「マジでごめんけど、明日以降にしてくんない?ちょっと1人になりたいんだけど」


唯笑の制止も振り切って足早に店を出た執行を、罪悪感からか躊躇している唯笑を後目に怜が引き止めた。


「執行」


が、執行は変わらずずんずんと速歩きでどこかへ行く。怜はどう言葉をかければいいのか、そもそも怜が引き止めていい案件だったのかも分からないまま後を追いかけていたが、何か話さないと状況が進展しないと思い当たり次第言葉をかけようと、しっかり聞こえるように声を張り上げた。


「さっきは、その!」

「……」

「えっと、本当にすまない!何だかよくわからないがすまない!とりあえずすまなかった!」

「……」

「俺が気の利いたこと言えなくてすまん!唯笑が何を思ってあの行動したのか全く説明できてなくてすまん!ぶっちゃけなんて声かけたらいいかも分からないくせに無駄に追っかけてしまってすまん!あと、生まれてきてす……うん?」


最後、怜自身でも何を言っているのかよくわからなくなっていたが、執行は立ち止まって肩を震わせていた。泣いているのか、と思ってなんとか顔を覗き見ようとした怜だったが、それをする前に執行は堪えきれなかったか、クスクスと笑い始め、やがて声を上げて、腹部を抱えて大爆笑していた。

何がおかしかったのかもよくわからずポカンとしていた怜を置いてけぼりにしてずっと笑っていた執行は、笑いが落ち着いたところで少し深呼吸をしてから言葉を紡いだ。


「あー……何だ。城月、めっちゃ面白いやつじゃん……あーもう、馬鹿みたい」

「ば、馬鹿?」

「うん、馬鹿。あんたなんかボケナス、鈍チン野郎で充分っしょ。どうしようもない魔術馬鹿」

「……」

「鈍いのか……?」

「鈍いよ、本当。今あたしがしんどいの、あんたも真白も全然悪くないのに馬鹿みたいに謝ってんだもん」


そう話す執行は、目尻の涙を手で拭った。


「でも、元気出た。あんがと。お礼に鈍いアンタに教えてあげる。あたしが今から話すことがあんたの目標達成の一助になればいいわ」と執行は微笑んだ。


「あたし、今日初めて失恋したのね。いや、失恋っていうか、そもそも初恋できてなかったのかもしんないけどさ」

「……」

「あーあ、嫌だなー。『陰成室』行くとき、あたし無神経なこと言っちゃった。何なんだろね、『ただ生きていればいいの?』って。そんなわけないの、当時はあたしが一番理解してたはずなのに。そのせいで、あいつはもっと傷ついてさあ。どうしてもっとちゃんと素直にものを言えなかったのかって、一生後悔して生きるんだろうな」

「……」

「でもね、大丈夫。あたしって結構強い女だから。だから、全てが、采和の全てを好きだったことは決して忘れない」

「……そうか」

「そうだよ。何があっても、あの頃の思い出はあたしだけのものだから」

「……」

「けど、あたしは弱い女だから。今更忘れられないから。……今日だけ、今夜だけ、しっかり傷つけさせてね」


じゃ、ばいばい。

執行は再度怜に背を向けてその場を去った。今度は怜も追いかけず、ただその背中を見ていた。

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