39話
こんにちは。
いつもより遅れましたが、今日のこの話で3章は終わりです。
登場人物一覧をプロローグより前に割り込みで投稿しておりますので、もしよろしければそちらもどうぞ。
ある日、いつもの喫茶店にて、魔術についていつものようにやり取りしていた時のこと。
怜は、ふと気になった疑問をその相手である常葉に尋ねた。
「そういや常葉」
「ん?なんだ」
「俺と唯笑が一時的に使用していた、元々拝郷のだった秘密基地はなぜ曰く付き物件なんだ?」
「……は、」
ちょうどティーカップを手に取っていた常葉は怜の発言に呆然としたようにティーカップを落とし、私服は紅茶で汚れ、ティーカップは落ちた衝撃で割れていた。大きな音は店内のBGMでかき消されたものの、不衛生と思った怜はやれやれと呆れながら『循環』でティーカップを落とす前の状態まで巻き戻す。
「何をそんな驚いている?普通の質問だったと思うが」
「いやいやいやいや……普通驚くだろ……」
げんなりした様子の常葉は、改めて紅茶を口に含むと、ふう、と息をついた。
「……お前の様子を見るに、信頼関係の構築はしっかりできていると思っていたんだが」
「ああ、間違いなく俺の中では一番付き合いが長い人といえば唯笑になるんだろう」
「そうだろうな。それで?お前は唯笑からどこまで話を聞いている?」
「どこまで、というのは?」
「『実現の魔女』は?」
「ああ、それならたしか数年前に説明があったな。『『実現の魔女』は、ある条件を満たしたうえで『心象破壊』を使用することで、特定の人物に憑依する形で顕現する、言わば神。邪神ともいうべきそれは、いかなる魔術師がいかなる手段を持ってしても、いかなる干渉もできない』だったか」
「……その正体は?」
「多分人間の誰かだろうな。説明されてないが、推測は立てられる。おおよそ、『心象破壊』を使って相手を乗っ取りやすくするんじゃないか?」
「……、他になにか説明されたことは?」
「いや、基本あまり説明はないぞ。俺を交渉に連れて行く時に少し話してくれるし、予定も教えてくれるが、それがどういう意味を持つかは察してくれというスタンスだからそうしてるんじゃないのか?」
「……それで?察せた内容はあるのか?」
「いや。察せない俺が悪いのだろうな、全くわからない。さっき言った推測は結構あからさまに言ってたし、絶対知ってないと問題があることなんだろうが」
「その場合どうしてるんだ?」
「邪魔にならないように黙って話を聞くだけだな」
「……Oh」
常葉は頭を抱えた。
「……唯笑に少し注意しておく。警戒しすぎだぞってな」
「いや、心配無用だから注意とかしないでやってくれ」
「しかしだな」
「『信じてるけど、単純に勇気がわかないから話せない』って言ってたし、常葉が気にしてるのって多分そこだろ?」
「そうだがそうじゃない!」
と今度は声を張り上げガタッと席を勢いよく立った常葉に、怜も言葉を止めた。
常葉ははっとして、「すまない」と再び紅茶を口に含む。そして、また軽く息をついた。
「……勇気がわかないとか、きれいな言葉で誤魔化そうったって、結局はお前のことを信じきれていないからそうなるんだろ?」
「……」
「世界の命運を勝手に、無責任に託しておいて、それは勝手がすぎるんじゃないか?」
「……」
「怒って良いんだぞ、城月。人には、本気でぶつかり合わないとわからないことがある。傷つかないように互いに立ち回るなんて、それは結局『偽物』でしかない。傷つけることだってあるかもしれないが、それでも互いに理解したい。憧れとか、依存とか、そんなのは理解から程遠いものだ。ちゃんと想いは伝えておかないと、一生後悔する」
常葉は怜を真剣な表情でしかと見つめてそういった。
怜は少し考え、「そうかもしれない」と切り出した。
「なら、」
「だが、俺は唯笑のことを信じる。いつか必ず俺と向き合って、真実を話してくれるはずだと信じて待つさ」
「……なぜ?」
「常葉の懸念はもっともだ。だが、唯笑は既に本音を俺に伝えてくれたからな」
「本音なんて、」
「言った。話してくれたんだ。つい最近、俺が落ち込んでいた時に」
数日前のことを怜は思い出していた。唯笑は確かに打ち明けた。最初、怜を信じていなかったことも、怜の言葉で信じる気になれたことも、それから今なら怜を信じられるということも。
たしかにまだ不信は残っているかもしれない。だが、きっとその不信は唯笑の優しさがそうさせるものであって、そう悪いものではないのではないか、と唯笑の表情から怜は読み取っていて。
それを踏まえて、怜は唯笑を信じたいと願っていた。
「それに、俺だってまだ本音を伝えられていないからお互い様だ」
「本音?」
「ああ。『前回』は惰性で生きてたようなものだし、『今回』も巻き戻った意味なんて見つけられていなかったが、俺なりに目標が出来た。これだけは何があっても成し遂げる、そんな決意がな」
「……お前たちは、凄いな」
少し湿ったような声だった。
「凄くなんかないだろ」
「いや、凄い。世の中にはそんなことを出来ずに壊れていく人間関係なんていくらでもあったのに、お前たちはちゃんと超えてたんだからな」
「いや、まだ本音話してないだろ」
「確信したのさ。俺の懸念は杞憂に終わるってな。ああ、本当に余計な心配だった。俺たちみたいになるんじゃないかと恐れていたが無駄だった」
「『俺たち』?」
「……口が滑った。俺は語り部には相応しくないから、別の誰か……そうだな、白星から聞いてくれ。彼なら答えるに値するだろう」
「……」
酷く陰鬱な表情の常葉に、怜は深堀りしようとは思えなかった。
「さて。すまなかったな、必要以上に騒いで。城月の質問に応えないと……『前回』本人から聞いた話をそのまま伝えよう」
そう言って常葉はまるでどこかのおとぎ話のように語り始めた。
15年以上前、とある孤児院に3人組がいた。
どこか達観した様子のギフテッドの少年、天真爛漫な少女、大人しい少女の3人は、その聡明さを疎まれ、不出来だからと蔑まれ、他の人とは異なる外見故に恐れ嫌われた為に孤立して、3人で過ごすことが多かった。色々真反対な性格の3人組は、しかし3人でいる間だけは平穏な時間を過ごせていた。
そんなある日、天真爛漫な少女が里親に引き取られることになった。里親の家も近いから、秘密基地で遊ぶ約束を交わした。引き取られて間もない頃は頻繁に秘密基地を訪れていた少女と、また3人で遊び尽くしていた。
しかし、少女は秘密基地に足を運ぶ回数が段々と減り、やがて全く顔を出さなくなった。天真爛漫少女が仲介をしていたから馴染めていた聡明少年、大人しい少女は、思春期もあって次第に距離が開き、やがて誰も秘密基地に寄り付かなくなった。
それから数年後、聡明な少年はある日、たまたま秘密基地の近くを通りかかったのもあり、久々に足を踏み入れた。すると、そこには天真爛漫な少女が少し成長した姿で佇んでいた。再会を喜んだ少年だったが、少女の反応で様子がおかしいことに気づく。だが、用事の立て込んでいた少年は『あとで聞こう』『言いづらいことかもしれない』と事情を聞くのを先延ばしにして、翌日会う約束だけしてその場を離れてしまった。
翌朝、少年が再度秘密基地を再度訪ねた。……入った瞬間、彼は昨日の自身の判断を後悔した。天真爛漫少女は、首を吊って力なくぶら下がっていた。急いで助けたものの、既に息を引き取っていた。
一体、どうして、と嘆く彼は彼女の遺書を見つけた。
里親に引き取られてからというもの、もっと虐めに遭うようになったこと。
里親も最初は優しかったのに、次第に暴力を受けるようになったこと。
それでも必死に生きていたが、ある日、魔術師の素養がなかった為に抵抗できないからと生徒や教師から強姦を受けたこと。
『軍』に相談する勇気がなく、里親ならもしかしたら、と相談したら父親から性的暴力を受けたこと。
たまらず逃げ出して、無我夢中で逃げた先が秘密基地だったこと。
秘密基地で少年に会えてとても嬉しかったこと。
少年との再会で恋心を自覚したが、既に体を汚されてしまっているから叶うわけがないと絶望したこと。
最後に、少年とは友達なんかで終わりたくはなかった、さよなら、大好きと締めくくられていたそれを少年は保管し、彼なりに弔い、少女に何があったのか徹底的に調査した。
その結果、孤児院長は『教会』の人間で、『御伽学院』に協力して『心象掌握』の実験体に彼女を指定していたことが判明した。孤児院長を敵討ちの為に惨殺したものの、それを大人しい少女に目撃され、そこでも理由や真実を打ち明けて彼女が曇るのが恐ろしく何も伝えなかった結果、案の定誤解され、決定的に関係が破綻した。
以降、彼はずっと『復讐』のために情報を、金を、いざという時に力を貸してくれそうな人材とのコネを集め続けている。
「……と、そういうわけで曰く付き物件なわけだ。お前らはこうなってくれるなよ」
じゃ、魔術議論を再開しよう。
そう切り替えた常葉に、怜は慌てて思考を切り替えたのだった。
評価、感想などいただけますと誠に幸いです。




