36話
こんにちは。
唐突な日常回です。
3章は後日談を数話くらいやって終わりになります。
では、どうぞ。
「ゲームしましょう、皆さん」
「唐突だな……」
翌日。提督から「最前線で疲れているだろう。今日は1日休んでおけ」と言われて居室に引きこもっていた怜の元へ、宥が唯笑、一条、日向を引き連れて突撃してきたのだった。いつもであれば怜の部屋に突撃するのは唯笑であるし、そもそも宥が控えめな性格で先導することがあまりないので、怜は少し驚いていた。
ちなみに、入院中だった唯笑に関しては、『心象破壊』のデータ採取、不調や変化などの検査観察が目的の入院だからか、特別に『軍』敷地内であれば散策してもよいことになっているようだ。特に記憶や精神衛生などの観察を重視しているため、同僚である『JoHN』との接触はむしろ推奨されている為に申請も楽だった、そう後の宥は語ったが、この時の怜にはその事情は知る由もない。
「ちなみに、何でゲームなんだ?」
「それには海より深く山より高い理由が複数あります」
「……にしても行動力高いな。そういや昔からそうだったか」
「1つ。なんだかんだ有希くんや紗季ちゃんとあまり話せていません。私が唯笑ちゃんや怜くんと仲良くなれたのも、暴露大会とゲームのおかげですから、これなら距離を縮められる筈ですよ」
ふんす、とふんぞり返る宥に怜は苦笑いを浮かべ、一条と日向の方を見る。
「……まあ、分からんでもないが。一条や日向はいいのかそれで」
「モーマンタイ!っていうか、苗字よりも名前で呼んで欲しいじゃんね。それにそれに、ゲームするのって凄く面白そう!」
「……僕も問題ない。ひろが憧れた人だし、とても興味ある」
「それに、私ももう少しその有栖さんの事知りたいんですよね。暴露大会の時は言えませんでしたけど、通りすがりの親切な人は有栖さんに違いないと思うので」
「ああ、そう言えば『桜坂市で親切そうな男女2人に会ったら頼るのも1つの選択肢』って助言されてたんだっけ。あれも有栖なのか……」
ちゃんとお礼の言葉を言わないとなあ、と怜が頭を掻く間に、宥が居室に上がりこんでゲームの機器を接続しながら説明を続ける。
「それにほら、怜くんは昨日から元気ありませんし」
「……え、」
「なんとなく理由は分かりますけど、多分私からあれこれ言っても何にも解決しなさそうですし。だから……えっと、そう、それならいっそ親睦会しようと思いまして!」
「ああ……そんなに落ち込んでいるように見えるのか」
「落ち込んでる……っていうより、何か切羽詰まってる……?もしくは焦ってる……?」
「あたしたちも仲間になってから日が浅いけどさー。心配してるんだよ、これでも」
「……そうか。気持ちは嬉しい。だが、しかしだな」
と怜が机上の、昨日椎名たちと議論を参考に開発中の『精神保護』の魔術式のスクロール、執筆中の論文に視線を戻すと、怜の視界を遮るように唯笑が背後から手で目を塞ぐ。
「1日遅れたって平気だよ。大丈夫だから……今は私、皆ともっと仲良くなりたいな」
「……唯笑は、ずるいな」
そう言われ、怜は断れずに仕方なく視線を宥の方へ戻す。
宥が既に準備を終えていて、一条と日向に操作説明を始めていた。
「怜もおっけーだって!さっさと始めよ!」
「さすがリーダー、ノリがいいじゃん、いいじゃん!」
「これより第2回ゲーム大会を始めます!司会進行は私、汐宮宥です!皆さん、とびっきり愉しみましょうね!」
という宥の掛け声と共にゲームが始まる。
どうやらゲームジャンルはRPGのようだ。迷宮で敵を倒しながら探索し、最奥部を目指す流れである。最初に外見とジョブを設定した後は、フルダイブ型で楽しめるゲームだとパッケージに記載されていた。
怜もこういった機器を使ってゲームをしたことはなかったし、唯笑も、一条と日向も初めてであろう。むしろ宥はどこで操作を覚えたのだろうか?と怜が首を傾げていれば、視界の端に開きっぱなしの取り扱い説明書が入る。
「あ、バレちゃいました?」
と宥が怜の視線を追った後にはにかむ。
「『契約じゃ出さない約束だったのに最前線に出すことになって申し訳なかった』って報酬に色つけて貰えまして、それで奮発しちゃいました」
「……昨日買ったのか?」
「いえ、今朝ですね。今日が休息日なのもその時知りました」
「行動力高ッ」
そう宥と話している間に他の3人はアバターの外見とジョブ、初期スキルを設定し終えていた。
アバターは全員リアルの外見そのままに、ジョブは唯笑が魔法使い、一条が呪術使い、日向が神官だった。見事に後衛しか揃っていない。怜もゲームに詳しいわけではないが、さすがにバランスが悪いのではないだろうか?
そう思いつつも後衛職を選んだ理由を冷静に怜が尋ねると、3人は割と素直に答えた。
「体が勝手に魔術師選んでたよね……」
「……たまには後方支援になってみたかった」
「あたし難しいことよく解んないから、適当に選んだら神官になったんだー」
怜と宥は揃って頭を抱えた。唯笑はともかく他2人は適当すぎないだろうか?と。
「……バランス悪いですね。私達で前衛職でも選んでおきましょうか」
「そうだな。このままじゃ接近戦に弱すぎるだろ」
と怜は勇者、宥は騎士を選択し、ストーリー開始となった。
が、全員不慣れなゲームを初見でやっているからか、全く探索は順調には進まなかった。
「とにかく!チームワーク重視でいくぞ」
「あ、スライム出たよ!とりあえずこの杖で殴って……えいッ」
「神官は回復役だろ、前に出るな!」
「え?この杖で殴るんじゃないの?」
「違いますよ?その杖で人を回復してください」
「もう、争ってる場合じゃないって!ほら、このファイアーボールで……あれ?」
「……違う、それフレアスライムだから。耐性あって全然ダメージ入らない……」
「はあ?赤色だったら赤色弱点だと思うじゃん?」
「いやそれはよくわからないが。……宥、攻略本とか買ってきてないのか」
「攻略本は買ってきてないですね……」
「攻略本とかどうでもいいって!有希くん死んじゃうから誰か回復!」
「え、紗季ちゃんは!?」
「あ、ごめん。なんか動けないんだよね……」
「それ死んでるだろ!ああ、それなら回復薬とか」
「あ、……アイルビー、バック……!」
「ゆうきくうううううううううううううううん!????」
「せ、セーブは!?データをロードして戦闘やり直そう!」
「……セーブのやり方わかりません」
「ウッソだろ!?ああ、もうじゃあ仕方ないから3人で倒しぎゃあああああああああ!?!?」
「ははははは!もう死ぬしか無いじゃない!」
「何やってるんですか唯笑ちゃん!?チームワークどこいったんですか!?!?」
そうワチャワチャしながら、グダっても地道に進めていく。
途中、有希がぼそりと怜に話しかけた。
「……怜」
「どうした?」
「もしも、……もしも『世界救済』できたら、その後はどうするの……?」
「『世界救済』した後のことか?」
「うん……ゲームじゃあエンドロールが流れるって聞くけど……現実はそうじゃないから……」
「……そうだな、」
怜は少し悩んだ。その後のことなど全く考えたことがなかったから。
しかし、それでも心から願っていることはあった。
「今みたいに頻繁に集まれないとしても、時々こうやって皆で馬鹿騒ぎできたら、それは素晴らしいことだと思う。……その時には、誰も世界の命運なんか握ってなくて、自分なりに幸せをつかめているともっといいよな」
「……そっか」
有希は怜の回答に満足したように頷く。そして、怜たちと出会ってから初めて穏やかな笑みを浮かべた。
「……僕も紗季も、応援してる」
「……ありがとう」
「あ、2人で何話してんの?ずるいずるいー」
そこに紗季も乱入してきては、「え、有希ってばいい顔してるじゃん!怜ってばどんなマジック使ったの!?有希の太陽のあたしにしかこんな顔しないのに!」と頬をふくらませる。
「太陽?」
「うん!2人で1つ、一心同体だからね!有希が言ってくれたんだー」
「……紗季が太陽で、僕が月だから、バランスだってちょうどいいね、って」
「……そうか。それほどまでに信頼しあっているんだな」
「ほら、そこ3人話してないで加勢してよ!流石にタンクと魔法攻撃じゃきついんですけどー?」
という唯笑の言葉に怜たちは慌てて合流しにいった。
いつの間にか、怜の表情から陰は消えていた。
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