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同じ空の下で  作者: 桜油
序章・1章
4/140

1話

おはようございます。

1話です。

主人公がヒロインと出会います。


では、どうぞ。

怜が逆行してから数日が経過した。


まずは孤児院の人を困らせないよう立ち回るべく小学校に行ってみたはいいものの、初日から散々であった。


そもそも教室の場所がわからなければ自分の席もわからない。

周囲を見渡しながら自分の席にたどり着けば、自身の境遇がすでに全員に知れ渡っているのだろうか、机には落書きがされており、教科書などもボロボロのズタズタという惨状。

ただ、先週までの怜ならともかく、今は精神年齢18歳の魔術師であり、小学校教育に今更躓くわけもなし。子供の悪戯に興味はないと怜は受け流していたのだが、どうもその態度がお気に召さなかったか、実行犯らしき子供が怜を煽ろうと近寄ってきたので、怜は仕方なく応対する。


「よお、パパもママもいないとかへんなのー」

「そうだな、変だな」

「やーいしにがみ」

「そうか。素敵なあだ名をどうも」

「はあ?なにこいつ、きも」

「あっそう。そんなきもい奴に構うお前は優しいな。それとも余程暇なのか」

「はあ?ひまじゃねーし。いそがしいわぼけ」

「どうもどうも、お忙しい中お時間いただきどうもありがとうございます。お帰りはあちらになります」

「……なんだこいつ!もういいわボケ!」


と、このようにやり取りをしたあと、今度は別のいじめっ子が「なまいき」と怜へ殴りかかってきたので、怜はひょいと避けた。正直、命のやり取りの経験もある怜にとっては、動きが遅すぎな上に単調で読みやすかったので、じゃれ合いのようにしか感じられなかった。

まあ、怜が今の怜になる前から、このような暴力は日常的だったのだろう。怜の腹部には、痣のようなものが複数見受けられた。不思議な紋様のようにも見えるそれは、虐待やいじめの影響、または消息を絶っていた期間の扱いが原因と推察していた。


避けながら今後の方針について考える余裕もあったのだが、怜はその回避行動に飽きたのと教師の気配を感じた以上いじめっ子が怒られないように切り上げようという良心から、『障壁』魔術で拳を防いだ。

魔術式を教師に見られたくない以上、普段の戦闘でも愛用していた、魔術式省略版……所謂『略式』だったし、略式で設定していたのも、コスパ重視、普段なら何枚も的確な角度に瞬時に展開して漸く防御ができるぐらい薄い『障壁』だが、子どもの拳はそれで呆気なく防げてしまうほどには軽く、防がれた当人は目を丸くしていた。否、魔術式が一見展開されていないとはいえ障壁の存在と防がれている事実は周囲からでもわかるので、周囲もざわざわと騒ぎ始めていた。どうも、自分の同級生が魔術を行使できていることに驚愕しているらしい。


将来の夢ランキングでいつも殿堂入りするぐらいには子供に人気の職業『魔術師』だが現実を見れば、出世できる魔術師はほとんどがこの時期から魔術師として訓練をしていて、『障壁』の発動くらいならどうってことないレベルに到達しているのだが、このクラスの児童はそこまで英才教育を受けているわけではないらしかった。

それは想定外だったと頭を掻く怜だが、よく考えればこの体の元の魔術師も『異常性』以外使わなかったらしいので、一般的な家庭はそういうものなのかもしれない、と思い直すことにした。


何はともあれ、この騒動以降、怜は『関わってはならない禁忌』として周囲から扱われるようになってしまったし、孤児院児童も同級生の中に一部いたため孤児院でも同等の扱いである。

そんな状況で友人ができるはずもないが、どうせ正真正銘の6歳とは馴染めないのだから絡まれなくなった分逆に良かったと考えている怜。今日も今日とて孤立し、孤立して暇だからと図書室で本の虫ならぬ新聞の虫になり、放課後もまっすぐ帰ったところで宿題など朝飯前だから市民図書館で追加で情報収集して、という予定だったのだが。


「……」


怜はその市民図書館の前で立ち尽くしていた。


どうも、今日は閉館らしい。


それならまあ仕方ない。怜は気持ちを切り替え、すぐ近くの公園のブランコに腰掛ける。

なけなしの小遣いで自販機のジュースを購入したが、さすがに今から数時間ジュースだけで過ごすのも心もとない。遊具があるが、怜はそれで遊ぼうとは毛ほども考えていなかった。遊ぶとして、一人でシーソーや滑り台、ジャングルジムを使うほど空虚なこともないだろう。かといってブランコだけ漕ぎ続けるのも飽きそうだ。


ふと、気配を感じた怜は腰を上げる。敵意らしいなにかを感じたので、警戒を強めて身構える。

やがて、女性一人が普通に歩いて公園に入ってきた。しかし、服装を見て怜は危機感を抱いた。


黒いヴェールで顔を隠し、同じ黒のシスター服を身にまとう。足取りは間違いなく実力派の魔術師のそれで、指を指揮者のように遊ばせているが、それも実践に慣れた魔術師なら誰でもやる手癖であり、一瞬でも怜が気を抜けば忽ち沢山の魔術式が展開されるであろう。

服装からして、魔術組織の『教会』の構成員である。それも、振る舞いからおそらく幹部相当か。

たしかに怜は魔術師全体で見れば上の中程度の実力はあるだろうと考えているが、しかし今の子どもの体型で魔術師業界の上澄み相手にどこまで戦えるか。


逃げるべきか。


そう考え逃走体勢に切り替えた怜だったが、その判断もしくは実際の動作が遅かったらしい。あっさり右足を切り落とされた。


「あ、……っつ、」


バランスを崩して怜は思い切り転倒し、あまりもの痛みに思考もまとまらないため回復魔術の構築がままならないまま、切断部から血液がどくどくと流れ出ていく。痛覚遮断の訓練もしていたが、幼児の感覚が鋭敏すぎるのか、痛覚遮断がうまくいかない。

それでも足掻こうと、必死に頭を回転させて、強風を吹かせる魔術『風来』を起動させるが、魔力が不十分だったか、女の『障壁』で防がれ、怜は反撃に頸動脈を切るように『魔力撃』による斬撃を受ける。先ほどの足切断とは比べ物にならないほどの血飛沫があがり、怜は体を起こすことすら困難な貧血になって倒れ込む。

出血量が多すぎるためか段々意識がぼやける中、それでも必死に、今度は回復魔術を行使する。しかし、怜の今の幼児の体では魔力は少ないため、完全に傷をなくすことはできず出血は続く。回復した端から女が『魔力撃』で追撃するので、回復が間に合わず、延命にしかならない。


万事休すか。怜がそう思った時、ふと追撃が止む。


女の殺気はまだ感じているが、どうもこの状況に介入する人がいたようだ。ぼやけた視界で、倒れ込んだまま視線を右往左往すれば、映えるような青色の髪の幼女が、怜をかばうように立っていた。

だめだ、逃げろ。怜はそう叫びたがったが、もはやろくに声も出ないため、双方ともに聞こえていない。女と幼女の戦闘が始まってしまった。幼女はしばらく奮戦していたが、しかし幼女の体型ではやはり『教会』幹部相手は厳しく、あっという間に劣勢になるのだけ把握できた。

それでも、幼女は必死に怜をかばうように、怜の近くで怜を背にして女と向かい合う。しかし、幼女の体が震えていた。


幼女の声が聞こえた。


「やっと、ここまで来たのに。こんなところで終われないのに。なんのために、私は……」


どこか涙ぐんだ様子で聞こえてきた声は、鼻水を啜るような音がしたあと、どこか覚悟を決めたように、続けた。


「……なんとか、しなきゃ。最悪、私は死んでもいい。けれど、怜が死ぬのだけは……」


怜には正直、わからない。

どうして自分は『教会』、しかも幹部からこれほど執拗に狙われるのか。どうしてこの幼女は怜のことを知っているのか。どうして怜のことを、自分を犠牲にするという悲壮な覚悟までして助けようとするのか。

しかし、わかることもある。このままでは、この幼女も怜自身も死亡するということだけ。

幼女には秘策があるようだが、それを使えば幼女はおそらく禄な目に合わない。


……それは、


「そんな結末は、認めない」


瞬間、女と幼女の間で小爆発が発生した。

女がとっさに『障壁』を貼るが、なぜか(・・・)打ち消され、辛うじて後方で受け身を取って着地する。同様に幼女も吹き飛んでいたが、怜は幼女を対象に『風来』を使用して衝撃を和らげる。重ねて『回復』魔術で幼女の傷を回復する。また、なぜか(・・・)『回復』をせずとも怜の首の傷も足の欠損も治っていたので、失血による貧血、めまいも感じないまま立ち上がった怜は『強化』魔術で速度を上昇させ、女の腕を『強化』した腕力を利用して関節技を使用しながら捻じ上げる。


さすが『教会』幹部、一瞬顔は歪むがすぐに複数魔術式を展開していたが、今の怜にはそれはどうでもいいことだ。自身が『以前』魔術師だった頃に開発した魔術を『略式』で起動させた。女は抵抗する間もなく、全身から血液を吹き出した状態で生命活動を停止した。


ほ、と安堵した怜は、呆然と座り込んでいる幼女の方を見て無事を確認し、彼女に声をかけようとして、意識が暗転した。

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― 新着の感想 ―
怜が逆行早々に過酷な状況に置かれながらも、前世の知識と経験で冷静に対処しようとする姿が印象的でした。しかし、子供の体では限界もあり、無情にも襲撃を受けてしまいます。そんな絶望的な状況で現れた青髪の幼女…
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