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同じ空の下で  作者: 桜油
3章
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34話

こんにちは。


完全に寝坊しましたが、まだ間に合うのでなんとか急いで出勤します。


では、どうぞ。

「やあ、久しぶりだね」

「久しぶりだなクソ野郎。唯笑に何をした?」


高式に怜がそう返して睨みつけると、高式は肩を竦めた。


「クソ野郎とは随分過激な呼び方だね。らしくなく感情的じゃないか……何か心境の変化でも?」

「『教会』に加担している時点でクソ野郎以外の何者でもないし、お前にらしいとからしくないとか言われる筋合いはない。そんな御託はいいから早く答えろ。唯笑を『心象破壊』で行動不能にしてどうするんだよ、言ってみろ」

「おお、怖い怖い。心配しなくても、危害を加える気はないっての。……今は、ね?」


高式は戯けたように嗤った。

唯笑を守るように大事に抱えながら、怜はより一層表情を険しくした。


「……何が望みだ」

「話が早くて助かるよ。……何、簡単なことさ。僕たちを見逃してくれるだけでいい」

「見逃す?……なんでまた」

「僕は『教会』でやりたいことがあるし、こいつは僕の計画に必要なんだよね。一条たちのために彼を返してあげるのも吝かではないけど、まあ今は無理だね」

「……」

「それだけじゃない。今ならこの戦闘を『軍』の勝ちってことで撤退してあげようじゃないか」

「そんなことして何の得が」

「得なんかないよ」


怜の言葉を高式が遮る。しかし高式の表情は怒りが表に出るでもなく、むしろどこか満足げでもある。


「この戦闘で僕、ひいてはクリスの目的は達成できたからね。そもそもこの戦争、後3年続けば勝敗なんてどうでもいいのさ」

「……」

「さあ、どうする?僕たちを見逃すだけ見逃してくれれば、真白は『心象破壊』もちゃんと解除した上で何も危害を加えないことを約束するし、『軍』の評価も上がる。僕の計画が上手くいっている間は有栖の身の保障だってできるよ。ただ、『教会』の悪巧みは勿論、僕の計画を止めることは3年後まで不可能になるけどね。……さあ、君が選択するんだ。真白の希望ではなく、君自身の意思で」

「……二言はないか?」

「当然。僕たちが争うことは無意味どころか互いにとって損害しかないからね。……君は、どうする?」


高式は、それっきり黙って怜を注視する。

怜はまず唯笑の様子を確認する。特に顔色、呼吸状態などに悪い兆候が窺えるわけでもなく、ただ眠っているだけのように見える。しかし、放置すれば間違いなく一生目覚めないであろうことは、胸元に浮かんだ『心象破壊』の魔術式と瞳孔の白さが証明している。魔術式の解除を試みることを怜は検討した。数年前にスクロールを入手してからというもの、解除方法に重点を置いて研究してきたが、迂闊に検証できるものでも無いためにあまり進まず、『心象破壊』はかなり複雑なのもあって、辛うじて術者に頼らず解除する方法を確立しただけの成果だった。それも、今から取り掛かって休憩を一切取らなかったとしても数週間はかかってしまうことが予想された。

……数週間。リハビリにかかる時間を考慮すれば数ヶ月、彼女に空白ができる。解除に失敗すれば、もっとだ。

怜は、静かに首をゆるゆると振る。心做しか、腕に力が入り、手汗が唯笑の服に染みた。


「見逃そう。だから、唯笑を治してくれ」


怜がその言葉を発するのに、そう時間はかからなかった。


「オッケー。……君はなんだかんだ僕へ攻撃すると思ってたのに予想外。なんだか拍子抜けだ」

「……いいから早く治せ。さもなくば」

「分かった、分かったから殺気はしまってくれ。結構複雑だから集中力いるんだよ、これ。……ほら、解除したから。あと数時間したら起きるだろ」

「たしかに。だが、そもそも唯笑に『心象破壊』をしたのはお前だろ。どうせ治すなら最初からやらなきゃよかったんじゃないか」

「そうしないと真白は止まらないじゃん。それとも何?『影縫』するくらいで済ませていたら、君や真白は僕たちを見逃したの?」

「……」

「ほら。やって正解だった」


と高式は軽くため息をつく。怜は唯笑を、俗に言うお姫様抱っこのような格好で抱えて立ち上がった。唯笑の体は柔らかく、どこかいい香りがして、そしてどこか細く頼りない印象を受けた。高式がそれを少し意外そうに見て、少し逡巡した後に防音結界を展開した。


「……なんだ?あとはお前が撤退の報告をする、俺たちは何もせず帰投する。これで契約完遂のはずだが」

「そうだね。約束を違える気は僕たち側にはないよ。……少し、言っておきたいことがあってね」

「はあ。で?この結界は?」

「『教会』にあまり聞かれたくない内容だからね」


高式の返答に怜が若干警戒を解いたところで、高式は話を切り出した。


「『決意』という力について、君はどう思う?」

「愚問だな」

「まあまあ。『異常性』?『特異点』?『世界救済のための希望の力』?真白の話だけ聞いていたらそう思うだろうね。そして、僕もその考え方を無理に否定はしないよ」

「聞く意味あったのか?」

「本題はここからだよ。……こうは思わないかい?」

「『異常性』は、1人しか扱える人がいないから『異常性』なんだ。だが僕も君も『決意』を使える。即ち『決意』は『異常性』足り得ないんじゃないか」

「……言われてみればそうだな」


高式の主張に怜は『前回』のことを想起した。

『前回』、怜がまだ『高式暁』として魔術師業を謳歌していた頃。『高式暁』は、『時々相手の魔術を上書きする』『魔術式を展開せずに魔術を行使する』という現象を引き起こす魔術師として、一目置かれていた。そこが『国際魔術連合』にも評価された結果、『城月怜』率いるテロ組織『JoHN』の壊滅を任命された。今思えばその現象は『決意』そのものだったのだろう。

……しかし、『異常性』は原則として世界に1人しか所持できない。ならば、どうしてだろうか。


「……」


怜の頭がズキリと痛む。

大事な何かが抜け落ちている。

高式は続けた。


「まあ戯言だけどね。だって、同じ『異常性』を持つものは存在しない、なんて証拠は何もないし、そもそも『決意』が条件さえ合致すれば誰でも使える代物かもしれないじゃないか」


と、高式は嘯いた。

それこそ戯言だ。怜は高式の推理をそう断じた。高式は知らないことかもしれないが、怜は確かに『前回』、『決意』らしき何かを使用した。しかし、自分でも分かっている通り、大層な目的などなかった。その時点で高式と共通点などあろうはずもない。

それに、他に誰か『決意』を使用できるなら、唯笑はそちらを頼るのではないか?

酷く気味が悪い何かが起こっている。そう怜は感じ、存在が、足元が揺らぐような錯覚さえ覚えた。


「……、高式。お前にとって『決意』は何なんだ?」

「んー、僕にとっての『決意』か。……そうだな、」


怜の変化などお構いなしといった様子で高式が話しながら人差し指を口の前に立てた。


「『運命を変えたいという強い気持ち』かな」

「……」


その返答に、怜は唯笑のことが脳裏を過った。

誰よりも『運命を変えたい』と強く願っているであろう、今は怜の腕の中で眠る少女。誰にも見せず、人知れず流した涙もあった筈で、怜と共に生活するようになってからも、自身の無力が悔しくて眠れなかったことも、怖くて震えていたことだってある。

それでも、『自分が関わった全ての人に幸せであってほしい』がための『世界救済』という目的だけは、全く揺らいでいない。


「さ、次は君の答えを聞かせてほしいけど。勿論、君自身が考えていることで、ね」


高式が返答を促す。

怜の中には2つ、選択肢がある。

怜が唯笑と出会って初めて思ったことと、怜が憧れた唯笑の思考、モットーのようなもの。

自分が関わった人すべてに幸せであってほしい、という考え方は美しく、そして尊いものだと怜は感じている。できればそれを尊重したいと思っていた。

しかし、唯笑は自己犠牲精神が強すぎる。椎名に言われるまでもなく怜が強く感じていたことだ。

唯笑の意思を尊重しすぎれば、いつか唯笑はその身を投げ出してでも世界を、他人を優先する日が来るかもしれない。そこまで自己犠牲精神が強く出ている理由は怜にとっては定かではないが。……怜にとっての『決意』に関して、怜は答えを得た。


「ならば、俺の答えは」


気づけば視界は明瞭で、あれだけ背筋を伝っていた汗もすっきり引いて、酷く苛まれていた頭痛も治まっていた。


「『同じ空の下で笑いあいたい』という強い想いだ」


たしかに、怜自身は『運命を変えたい』と強く願っているわけではない。唯笑は怜自身を世界の英雄と呼んでいたものの、きっと怜が最も世界の英雄に適しているとは言えないだろう。それどころか5本の指に入るかどうかさえ怪しい。

しかし、こと「唯笑に寄り添う存在」としては、他の誰よりも怜が適している。

怜の返答に、高式は納得したように頷くと穏やかな笑みを浮かべ、防音結界を解除した。


「満足か?」

「大満足さ。とどのつまり、僕は君だったわけだ」

「……はあ?お前は世界を救いたい、俺はこいつを救いたい。全然違うだろ」

「ああ、やっぱり真白のことか。随分お熱じゃないか……そいつの夢が『世界救済』だから結論は同じでしょ……いや、そもそも僕は世界の運命よりもある人の平穏のほうが大事だから、なんなら君の方が大層な夢だろ」

「……」

「君、『前回』は化け物かロボットだと思ってたけど。結構いいやつじゃんか」


そうころころと笑った高式は、「じゃ、その調子で宥、有希、紗季のこと頼んだよ。応援してる」と背を向けてひらひらと振り、その場を去っていった。

怜が有栖の連絡先のことを失念していたことに気づき、慌てて呼び止めようとしたが。


「……っ」


怜が咄嗟に『障壁』の略式を展開すると、『障壁』がどこからか投擲されたナイフで割れる。

そしてつい先程まで躯が積み上がっていた方角から、『隠蔽』で今まで隠れていたと思われる黒いだぼだぼのパーカーを羽織った青年が、怜をまっすぐ見て、疎らに拍手をしながら怜の方へ歩いてくる。


「……『至高の情報屋』拝郷か」


怜が『前回』から知るその男は、怜の一言ににやりと右の口角を上げた。

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