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同じ空の下で  作者: 桜油
3章
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モノローグⅡ

こんにちは。


今日から3章です。

また別の視点の一人称ですね。

初登場でもモブでもなく、一応既出の人物です。


では、どうぞ。

未だに、あの2人のことを夢に見る。


早朝。意識が浮上し、見慣れた天井が目に映る。

身を起こすと、おれは手早く『教会』の制服に着替えて寮の私室の玄関へ向かう。


『教会』は緊急時以外は一人一人の任務内容、依頼内容を、毎日全構成員のそれぞれの寮の私室のポストに投函する。非効率だとおれは思うが、以前、メールで任務を送っていたところでメールを周囲に見せびらかす馬鹿が過去にいたので致し方ない処置かもしれない。

その点、この紙は特殊な仕様で、持ち運びは勿論、コピー、スキャンなどかけた場合にも上層部に通知が行くようになっている。こんなところをハイテクにするなら、メールを工夫すればいいのに、と思ったおれは多分悪くないと思う。


胸中で愚痴を漏らしながらー全ての私室は盗聴、監視されているので、迂闊に発言できないー、おれは任務内容を確認してため息をついた。

いつも通りだ。

今日も変わらず、人を騙し、傷つけ、人の隠し事を暴き、殺すのだ。

心が冷え込むのを感じる。

忘れた物を取りに帰るように、古びた思い出の埃を払った。


その日の任務を大体こなし、残り1つの任務の場所へ赴く。

この任務は最近追加されたもので、ここ最近は毎日おれに任されている。


「あ、やほー」


気の抜けたような挨拶に声の方向を見ると、ここ数年で加入してきてスピード出世を現在進行形で果たしている、おれと同年代の少年がいた。

『教会』に自身の意思で加入したらしいその少年は、『神父』から勧誘されたという噂もあって相当な実力者だ。スピード出世をするのも納得できるが、犯罪シンジケートと名高い組織に志願して加入するなど、人格破綻者としか思えない。


おれは特段親しくする気もないので話しかけずに塩対応していたのだが、おれがこの任務を受けるようになってからというもの、こいつは姿を見ると毎回声をかけてくるようになった。正直、鬱陶しくて仕方がない……だが、おれ自身が将来、生き延びることを考えれば、次期全権代行候補筆頭のこいつには気に入られていたほうが都合がいいかもしれない、と最近はある程度応対することに決めていた。


「なんだよ。おれ、まだ任務残ってんだけど。エリートなお前と違っておれ凡人だし」

「またまた、謙遜しちゃって。そう言いつつあと1個だけなんでしょ?」

「それは……そうだけど」

「ほら、やっぱり。よっ、『神父』も期待してるエースさん。今日も『研究所』に行くんでしょ?あそこに行ける時点で結構信用稼げてる実力者ってことだよ。まあ他の凡百はまだ任務も半分残ってるこの時間帯にあと1つだけって時点ですごいんだけど」

「そういうお前は加入初期から『研究所』に出入りしてるじゃん。皮肉かよ」

「これはこれ、それはそれだよ」

「はあ?どうでもいいけど仕事してこいよ」

「へいへい。僕もあと1個、さっさと終わらせよっかね」


と少年がその場を去っていったのを見て、おれも『研究所』へ再度歩を進めた。


『研究所』。『教会』が『重要な作戦』のために、他組織と連携して実験を進める場所で、おれは個人的に『教会』の胸糞成分がこれでもかと詰められた、最も反吐が出る場所だと思っている。

今日も、実験で多くの罪なき命が苦しみ、何の価値も見いだせないままその生を終わらせる。

思わず顔をしかめそうになり、しかし監視下に置かれていることを理由に理性で抑え込む。

いつもの『観察室』に到着して扉を開くと、2人の少年少女が待っていた。


「あ、ひーろーだ」


と嬉しそうに駆け寄る2人に、おれは「やあ」と本心とは真逆の言葉を吐きながら雑談する。

日誌を書かなきゃいけないから、その日誌を書ける程度には情報収集をする。そのための会話だが、この2人は『あの2人』に似た信頼関係を構築しているのか、気持ち、親身に応対してしまう自分がいた。

戻らない幸せがあることを、最後にあの2人から教えられた。否、おれが勝手にそう感じた。


おれにとってあの2人は、おれの幸福の象徴のようなものだった。


昔はこうじゃなかったし、こんな魔術師になるつもりだってなかった。小学校で両親から魔術を教わろうと思ったきっかけは、間違いなく、小学校で同じクラスだったあの2人に憧れたからだ。

きらきらしかった。周りから孤立していたかもしれないけど、それでも独特の雰囲気を醸し出していた2人。道行く老人を助けたり不審者を撃退したりしていたのを、おれは見たことがある。ヒーローのようで、おれも、『正義の魔法使い』になりたいと思って両親にせがんで、それでやっと基礎中の基礎である『伝達』を教えてもらった。あと、2人は時々以心伝心に連携して動くことがあったから、おれは興味本位で、独学で傍聴をできるようになった。2人の会話はとてもおもしろくて、授業中笑って先生を怒らせたけど。


そんな日常が、おれにとっての大切な思い出だったのだ。


……これが今では、『正義』とは程遠い毎日。


本当、胸糞悪い。明日処分する予定のこの子達を見殺しにする予定なのに、何がヒーローだ。

助けたいとは思っている。しかし、おれがそれをやれば、間違いなくおれは死ぬ。殺される。反乱因子として無惨に処分されるだろう。だから、おれの保身のために、この2人を殺さなきゃいけない。あの2人がいれば、きっとスムーズに、スマートに助け出せるんだろうな、と思っても、あの2人に助けを求める手段なんかないし、あったところでこんな昏いところを見られたくなんかない。昏いところは永遠に昏いままだ。

自分が思うより、おれはあの2人に憧憬を抱いていたのだと自覚する。


耐えろ、おれ。


血反吐を吐く思いでなんとか感情を堪え、平常を、平静を保っておれは『研究室』から外に出る。

すると、『研究室』に入る前にも会った少年とまた出くわした。


「お、待ってたよ」


そういう彼は、勝手におれについてきた。


「顔色悪いの?体調まずいなら衛生兵のとこ行ってくれば?」

「体調は問題ない」

「ふーん……僕も君とは話しやすくていいと思ってるから、ヘマだけはしないでよね」

「さいですか」


いつも以上におざなりに返すおれに特になにか言うでもなく、こいつはおれに世間話をしてきた。


「そういや知ってる?『軍』に『提督』直属の特殊部隊が追加されたらしい」

「知ってるけど、おれは戦闘下手くそだから最前線いかないし、使い捨てられるようなヘマをする気もない。関係ないだろ」

「戦闘下手くそって何の冗談だよ。いや、それはいいんだけど、どうも僕たちと同年代なんだって」

「はあ。それはまた、有望な魔術師を拾ったもんだな」


そう返すおれに、こいつはもっと深堀りした情報を出してきた。


「何でも、『教会』の孤児院から脱走して、『軍』に直談判したらしい。行動力凄いよなー」


動きを、止めた。

こいつはこいつなりに手応えを感じたのか、更に話を続ける。


「でさ、もっと凄いことに、『陰成室』とは同盟組むの確定みたいだし、『御伽学院』がずっと追いかけてた魔術師まで同じ部隊に入れ込んでるあたり『国際魔術連合』まで味方につけてる感じなんだ。マジでやばくない?」


『軍』の『提督』に認められるほど優秀な人材で、自分と同年代、孤児院出身。行動力の化身。


「特徴は、何だっけ?ああ、確か、黒髪に灰色の瞳のと、藍色の髪に空色の瞳のやつが要注意、だってよ。で、部隊名は『JoHN』。これ僕独自の情報網ね」


黒髪に灰色、藍色に空色。

『JoHN』……じょん。


「……」


微かに感じる、『あの2人』の気配。


「……おいおい、忘れ物か?」


おれはその場から踵を返し、再度『研究室』に入った。

先程まで吐き気を催すほどだった血生臭いにおいも、今はどうだっていい。とっくに定時を過ぎて疎らな廊下を必死に駆けていく。


まさか、いや、そんなわけがない。


……でも、もし『あの2人』だとしたら。


『あの2人』が、このクソッタレな魔術師界を変えるべく遂に行動を起こしたのだとすれば。


辿り着いたのは『観察室』。勢いよく扉を開き、『防音結界』と傍聴対策を早急に施し、あまりにも突然の訪室に驚く2人を抱き寄せる。

そして、2人へ囁く。


「一度しか言わない。しっかり聞いてくれ。」

「明日、君たちは消される。だから、今から逃げなさい。おれが最大限サポートする。おれがどんな目にあっても必ず無視すること。おれを助ける暇があったら、おれの命を無駄にしないよう逃げることに集中しろ。」

「そして、もし。もし、無事に逃げ出せたなら」


もし、許されるのなら。


「桜坂市近辺に逃げ込み、城月怜と真白唯笑を頼れ。彼らなら、必ず助けてくれる」


神なんて全く信じちゃいなかった。

だが、今、この時だけは、都合がいいなんて言われてもいいから、神に、奇跡の可能性に縋らせてくれ。


忘れられないあの2人の面影を、おれにとっての光を、もう一度。

今日は2話投稿します。


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