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同じ空の下で  作者: 桜油
2章
30/140

26話

こんにちは。


椎名たち、主人公の友人に少し触れた内容で2章は終わりです。


では、どうぞ。

21時、『ソーサリータクト』に怜が入店すると、店の入口で寿乃は待ち受けていた。


「よっ。遅くに呼び出してごめんね?」


怜の姿を見つけるなり声をかけてくる寿乃に、怜は肩を竦めながら奥の席へ移動した。


移動している間も寿乃は、「この店、夜も良い雰囲気でしょ」「私、昔から夜の方が好きなんだよね」と話しかけるが、怜は同意はしつつも返すことはなく着席する。そのまま流れで防音結界を張ろうとした怜だが、寿乃は「今は客いないし、聞かれたとしてもそこまで支障ないから、普通に話そ?」と止めて注文をする。


「さ、怜も何か頼む?」

「いや、頼まないが」

「えー、何でさ。あたしが奢るし、帰りも送るから補導の心配もいらないよ?」

「補導は『隠蔽』で対策できるだろ。それに、そういう問題じゃない」

「ん?じゃあ何で?あ、寮の門限とか……いや無かったか」

「出てくるのも一苦労だったんだ。なんとか、1時間後には帰るって約束で出れたんだが、破るとうるさそうなんだよ……提督が」

「提督が!???え、過保護じゃない?」

「ああ。宥や唯笑に対しても結構過保護な気もするけど、俺はもっとやばい。一体俺の何があいつらをそうさせてんのかさっぱりだよ」

「ええ、めっちゃ面白いじゃん。ちゃんと理由探ってくるからさ、ネタ話にしてもいい?」

「原因探ってくるなら是非そうしてくれ。気持ちはありがたいが、正直困惑のほうが大きい。あと単純に面倒」


とげんなりした怜に、一頻り笑った寿乃は、「そういうことならさっさと本題入らなきゃね」と言った。


「ちょっと話がしたいのは他でもない、とある馬鹿のこと。まあ、ネタ話だって体で1つ聞いてよ」

「夜中に呼び出してすることがネタ話?」

「うん。『異常性』を持つ君に言っておきたい豆知識があるんだ」

「唯笑に話せない理由は?」

「君にだから話したいんだよ」


それは答えになっていないと思うが。怜が指摘するが、寿乃はもう聞く気がないのか、「じゃあ、ちょっと喋ろうか」と切り出したので、渋々怜は口を噤んだ。


「不思議に思ったことはないかな?なぜ、あたしたちが偽名を名乗っているのか」

「ひっそり生きるため?新生活がしたかった?ここには『本物』がいるから?」

「違うね、そんなチャチなもんじゃないよ」

「10年は前かな。『軍』と『教会』の戦争を食い止めたくて必死だった少女がいた。彼女は魔術師としての才能なんてないけど、その代わりに自身が作った機械で皆をサポートしてたのさ。……『人々を笑顔にする』為に作った機械で人が傷つき、殺されることをわかっていても尚、ね」

「そんな少女の嘘に気づいていた、直属の上司をやってる少年がいた。彼は、少女がこれ以上傷つかなくていいように、戦争を一刻も早く終わらせるべく、ずっと前線に出続けては指揮や特攻をしていた。……魔術で人を殺すなんて、彼が一番したくないことのはずなのにね」

「そんな様子を知っていた1人の少年が、ある日、決意した。『じゃあ自分が全部終わらせる』って」

「今まで戦闘経験すらない。ただ少女の研究の助手をしていただけの男の子だったけど、2人が苦しんでいるのを見ていられなかったんだ。そしてその少年は、ある知人に頼み込んだ。『この魔術だけでいいから教えて』『あの2人を後ろに下げて、なんとか自分を前線に出してほしい』と」

「知人は承諾した。提督には2人の事情を伝えればすぐに通りそうな内容だったし、教える魔術も『強化』だ。前線は前線でも、最前線じゃないところで自分が護衛すればいい。……そう、思っていたからね」

「予想は大きく裏切られた。彼は最前線で『強化』をふんだんに使って……いや、違うね。暴発させて、クリスのところに特攻を仕掛けた。魔力が少ない彼は、そうするしか『強化』を最大の出力で使用することができなかったし、脳のリミッターの解除を狙う目的もあったのかも」

「彼を追うのに精一杯だった知人は、ついに彼の特攻を止められなかった。……彼は、『強化』の暴発を使って、クリスに自爆特攻をしてしまった……」

「凄まじい威力でね。クリスは四肢を全て欠損、臓器もいくつか損傷、脳も一部欠けるほどの大怪我。……しかし、なぜか彼は無傷。それで終わるわけないのに、知人は安堵した」

「これは後で聞いた話だが。彼は、『容赦』という『異常性』を所有している。元々無自覚だったが、裏で過ごす内に自覚したようだ。効果は、『周囲の負の力を集め、無かったことにする』。制御できていなければ、集まった負の力は自身に不幸として襲いかかるし、逆に自覚した状態で制御できていれば、その不幸を相手に押し付けられるらしい」

「だが、彼は魔力が少ない。しかも、そんな使い方をするのは当然初めてのこと。……ところで、『異常性』は、駆使しすぎると記憶が消えるでしょ?」

「……だから。彼は、自分の名前を認識できなくなった」

「呼んでも、書いてみせても、全く言語として認識できない。当然、名乗ることもできないし、署名なんて以ての外」

「事前に彼の体質……『異常性』の詳細さえ知っていれば、最初から教えなかったし前線にだって出さなかった。無知は罪だとその時実感した」

「彼は心配させたくないと言った。知人は、2人から責められることを酷く恐れた。……だから、嘘をついた」

「『戦争も落ち着いたから隠居しよう。隠居にあたって偽名を用意しよう』とね」

「まさか、それ以来、自分が7年も嘘をつき続ける羽目になるとは思わなかったけど」

「それ以来、あたしは嘘つきでさ。演技力も身についちゃって、騙せない人もものもなくなっちゃったんだ」

「本当は早く言うべきだったかもしれない。けれど、あたしって結局誰も信頼してないってのがどんどん浮き彫りになるようで、自己嫌悪してたの。それに、白星が本名名乗れないのはあたしのせいだって自分を責めてた。あたしが保身のために嘘ついたのも、白星に謝れてないのも、あたしの本性が不気味でしょ?」

「あたしなんて嫌いだよ。あたし、救いようがないほど馬鹿でしょ。やっと数年前、本当のことを言えたけど、みんなして『問題ない』って変わらないんだもん。みんな馬鹿」

「『今回』のあたしはここにいるあたしよりマシ。だって素直だもん。あたしなんかどうでもいいから、『今回』のあたしには嘘をつかせないであげて。そしたら……あたしも少しは変わるかもね」


「……なんてね」


そう言って、寿乃は急に今までの苦しそうな表情を一変させた。


「ちょっと喋りすぎちゃったかなあ。でもただの法螺話だから良いよね。そろそろ君の門限に近いし帰ろっか。次にあたしがその気になったらもっと不思議なネタ話してあげるから、お楽しみに!」


とヘラヘラする寿乃に、怜は目を瞑った。

ああ、多分この人のこの性質は、世界が救済されるまでは変わらないんだろうな、と。

だから、怜はその冗談らしい言葉に何も返すでもなく、「結局、『異常性』を持つ俺への豆知識って何だよ?」と尋ねた。

寿乃は、どこか安堵したような笑みを浮かべながら言ったのだった。


「1つ。使いすぎにはマジで気をつけてね。2つ。『異常性』が後から芽生えることもあれば、後天的に変異することもある」

明日から3章ですが、早速モノローグがあるので明日は2話分投稿します。


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