25話
こんにちは。
またまた、名前だけは出ていた彼女が初登場になります。
では、どうぞ。
『軍』提督、黒守刹那との顔合わせから数週間後。
提督は話していた通り、比較的簡単な任務しか怜たちには出しておらず、おかげで宥も少し慣れてきた頃を見計らったのか、任務が特に無く休養日とされた某日、唯笑がある宣言をした。
「『陰成室』に交渉に行こっか」
「……唐突ですね?」
と驚く宥とは違い、怜は事前に『陰成室』と交渉する予定は聞いていたので大して驚いてはいなかったものの、別の観点から疑問を呈していた。
「『軍』とは違って予約はしなくていいのか?それに、提督から許可は出ているのか?」
「そこは大丈夫。白星くんが予約ぶん取ってくれたし、刹那さんも、私の話を聞いてからは『陰成室』と同盟関係になるの賛成らしいよ?」
そうドヤ顔で語る唯笑だったが、ふと不思議そうに怜を見た。
「っていうか、怜って刹那さんたちと知り合いなの?」
「は、いや、何でだ?」
「だって、怜の姿見た時、刹那さん若干動揺してたじゃん?しかも、何か、顔合わせしてから少し私への対応も甘くなってる気がするんだよねー」
「うーん。そういや『前回』も面接の時に似たような反応された気もするけど、名乗った後は別に大して変わらなかったぞ」
「『前回』から変なの?『今回』が変なだけかと思ったけど……もっかい過去洗い出さなきゃかなあ?」
と首を捻る唯笑だったが、「あ、伝言!怜に伝言もあった!」と急に話を変えた。
「はあ?伝言?提督から?たったの数分しか話してないほぼ赤の他人の部下な俺に?」
「そう!それも何かめっちゃ優しいの!いくら裏魔術師界の聖人、唯一の良心な刹那さんにしたって怜にゲロ甘なんじゃない!?弟と同じくらい優しくするじゃん!」
「それはそうだけど、はよ伝言言えよ……」
「そうだった!」
唯笑は慌てて懐からメモを取り出し、怜に見せた。怜は少し目を通して、
『日々の生活、任務で行く先、押し寄せる災難。不安なことはあるだろうが、埋もれた記憶、いつか見た夢を思い出して欲しい。いつでも、城月の声を聞かせて欲しい』
「……え、一周回ってむしろ提督らしくないな」
と独り言ちた。
「でしょ、でしょ!?」と激しく同意を求める唯笑がぴょんぴょんと跳ねる中、1人冷静な宥が、「あの、」と控えめに手を挙げた。
「何はともあれ、今日は『陰成室』との交渉で予約をとって頂いてるんですよね?早く準備をして出発しませんか?」
怜と唯笑は2人とも猛省した。
そんなこんなもあって出発した3人は、指定された会談場所、喫茶店『ソーサリータクト』に足を運んでいた。
唯笑は向かっている道中、怜と宥に向けて説明をしていた。
「一発で同盟関係になるのは正直無理だよ。前提条件をクリアしないとね。その前提条件をうまいこと設定するのが今日の目標。ま、交渉役はいつもどおり私だし、変な態度とらなきゃ大丈夫!難しい事考えなくていいよ」
「ちなみに前提条件としてはどういったものを設定する想定なんだ?」
「うーん。相手の出方次第かな。数年以内に達成できるものが理想的なんだけどね。無理しなくても実現できる内容だと尚良し……ま、今の全権代行なら内容はある程度推測できるし、すっごいイレギュラーが発生しなきゃなんとかなるレベルだと思うよ?ぶっちゃけ1人でも問題ない」
「じゃあ何で俺や宥まで連れてきたんだ?」
「そりゃあ、めっちゃ良い喫茶店だし。今後も魔術師として生活していくなら知っておきたい場所だから宥ちゃんに紹介したいじゃんね。で、宥ちゃんが隠れる用に怜は壁になっといてくれれば」
「壁かよ……まあ良いけど」
なお、終始宥は無言であった。緊張しているのであろう、と怜は特に触れなかった。
そう話している内に件の喫茶店に到着し入店すると、割と奥まった方から、「あ、来た。こっちこっちー」と女性が怜たちに近寄ってきた。その女性もやはり、怜が『前回』見知った顔ー執行寿羽であった。
執行寿羽。寿乃千早の元である。
執行は席まで誘導した後、慣れた動作で防音、傍聴対策結界の略式を展開する。
そして、端末を弄りながら目線だけ怜たちに合わせ、「君達が秩佐の話していた『特異点』だよね?」と早速切り出した。
「そうだよ。私は真白唯笑、こっちの男が城月怜、私の相棒。さっきから緊張して震えまくってる女の子が汐宮宥、私の仲間ね。今のところ、ここの3人と白星含む4人の協力者だけだけど、もっと仲間を増やす予定」
「ふーん、そっか。あたしは執行寿羽っていうんだけど……さすがに唯笑さんと怜くんは知ってるか。じゃ、経歴は割愛するから宥さんはどっちかから後で聞いといてね。で?白星がどうしてもって言うから時間を作ってあげただけで、あたしも忙しいんでね。さっさと本題入ろっか。何してほしいわけ?」
と素っ気ない態度の執行は、手元の端末をいじる手を止めないままだが、唯笑は気にすることもなく要望に応えた。
「『軍』との同盟関係だね」
ぴくり、と執行の端末をいじる手が止まった。
「……ふーん?具体的には?」
「戦力としての参加は原則強要しない。ただ、『緊急時における『軍』所属の兵の救護』をお願いしたい。あと、一部資料についての開示を『軍』の一定階級以上の者が依頼した場合、開示請求者の情報の通達、審査を一切行わずに請求者に提供してほしい。あ、『国際魔術連合』への通達はしてもいいよ。必要なことでしょ」
そこまで唯笑が話すと、執行は「なるほど。それで?利点はあるの?」と至極当然の質問をした。
こう返ってくるということは、少なくとも一切取り合わず断ることはないことを意味していた。むしろ、割と前向きな可能性すらある。そのように怜には見えた。
「『陰成室』としては……そうだね、この書類を見てくれない?」
と唯笑が書類の入ったファイルを4つ差し出す。『循環』『停止』のスクロールと、『異常性』に関する論文ー唯笑が所有する『令呪』をテーマにしたものと、いつの間にか唯笑が仕上げていたため怜が内容を確認していないものの2つである。
執行はそれぞれ流し読みをし、若干身を乗り出したような格好で、「興味深いね。実に、興味深いよ。これをくれるんだ?」と目を心なしか輝かせていた。
「そうだよ。他組織に一切公開しないことを条件にこれは全部提供する。もしこの内容を把握している可能性があるものが脱退する場合、確実に記憶を処理してくれれば構わない。同盟関係が継続されるようであれば、定期的に『異常性』に関する考察、論文、研究内容や結果は提供し続ける所存」
「……いいじゃん、いいじゃん。うん、最高だね。これだけでも受けない理由はないけど、『陰成室』としては、って言ったよね?あたし個人でも受ける利点あるってこと?あたし個人も既にハッピーだよ?」
「『軍』に残してきた君の旧友が、『軍』から距離をおいた平穏な生活を送ること。これを、数年以内に実現する」
瞬間、空気が凍った。
「……冗談でしょ。あいつ、意外と頑固だよ?」
「本気だよ。さっき『軍』の救護をお願いしたのもこれを前提にしてるから。これが実現できるまでは契約は締結されないと、そう思ってほしいかな」
「つまり、あのめっちゃ面白そうなのがあと数年お預け食らうわけ?うわー、一気に萎えた……」
と先ほどまでのテンションの高さは何処か、執行は天を仰いだ。
少し沈黙が流れ、執行が再度口を開いた。
「……出来なかったらどうすんの?」
「出来ないことはありえないよ。もうその未来は確定しているから」
「『特異点』だから知ってることなわけね。はーあ……そんだけ言うのなら、出来ませんでしたはマジでないからね。そうなったら手元の資料全部公開してやるわ」
「お好きにどうぞ。万が一その未来が訪れなかったら、もう終わりだからどうでもいいよ」
「怖いもんなしかよツマンネ。へいへい、分かったよ……数年待てば良いんでしょ、待てば」
「その通り!あ、一応君のとこに逃げるよう誘導するから、その時は『桜坂学院』に学籍だけでも入れとけって指示しといてね?」
「あーはいはい、分かりましたよーだ。そういうことでいいから契約書はよ」
「うんうん。じゃ、これが契約書ね」
と唯笑が差し出した契約書をまた流し読みした執行が雑に署名して、慌ただしく店を去っていった。
「あ、ちょっと。契約書、私の分の控えもちょうだい!」
と唯笑がその後を追い、怜と宥の2人だけが残された。
「本当にずっと壁だったな……」
と怜が言いながら防音結界を解除し、宥が落ち着けるようドリンクを適当に注文していると、怜の端末に連絡が入った。
それは寿乃千早からだった。
『『ソーサリータクト』に今日21時集合ね。1人で来て。ちょっと話したいことある』
『いや今日行ってきたばかりなんだが』
『だからこそだよ。ちゃんと来いや』
『新手の嫌がらせか。分かった、行く』
次回で2章は終わりです。
評価、感想などいただけますと幸いです。




