22話
こんにちは。
昨日の戦闘の続きです。
では、どうぞ。
怜が気がつくと、『影縫い』をされた状態で身動きが取れなかった。
『発光』で解除を試みた怜だったが、「ストップ」という古白の言葉に思わず動きを止めて古白を見れば、汐宮が『影縫い』をされたうえで、古白が展開している魔術式の対象に指定されていた。
人質にとられたようだ。
古白はハイライトの灯らない瞳のまま、真顔で怜に声を掛ける。
「君が魔力を使用した瞬間、自分はこの備品も君も殺す。よくよく考えたら、君を力ずくで止めるなんて回りくどかったや。さっさとこの備品を壊せばよかったんだ。君に情けをかけたのが良くなかったのさ。……最初から、そうすべきだった」
それだけ言って、あとは興味がないとばかりに汐宮を攻撃し始める古白。
怜は、汐宮を助けたい気持ちもあれど、怜自身が死ぬと唯笑の計画が台無しであることも理解していたため、迂闊に動けなかった。
古白はまちがいなく実力者だ。
『決意』で状況を打破しようにも魔力を消費したら少なくとも汐宮は死亡するし、それを巻き戻しても、汐宮を守りながら戦うにはさすがに相手が強すぎる。かといって戦闘後蘇生するにも、戦闘が長時間に及べば『循環』を使っても安全に蘇生はできないだろう。怜は冷静に状況を考察しようとしていたが、よりによって『国際魔術連合』に敵対したかもしれないという焦燥感もあって頭がショートしそうだった。
「大丈夫。君の目的は自分にとっては利しかない。だから、この備品を壊すのさえ邪魔しなければ、君がやらかしたことはちゃんと忘れてあげるね。君は黙ってみていれば良いんだ」
と古白が口角を上げて言ったが、怜は納得できなかった。
「できるわけないだろ。汐宮はもう俺の中では大事な友人だ。規定違反かもしれないが、それなら俺は『御伽学院』と交渉して譲渡を受ける」
「寝言は寝て言い給え。君は『教会』と敵対関係だから『御伽学院』とも敵対している以上、交渉の余地などない。そもそもたった数週間の付き合いの人間だし、信頼関係もなにもない。自分は、君の考えなしの攻撃で相棒を失うところだったんだ。じゃあただの友人くらい消えても君にはなんの支障もないだろう」
「相棒って誰だよ」
「……自分は、」
古白は怜に振り返った。
「自分は、燿心白。古白曜の、別人格だ」
「は?」
怜が戸惑っている間、燿の独白は続く。
「元々は曜が主人格だったんだ。自分は悪霊みたいなもので、乗っ取るつもりだったのに曜は心が強くて、支配しきれなかった。そんな自分でも、曜は実の姉妹のように接してくれた。居ていいって言ってくれた」
「……」
「でも、何万回も同じ時間を繰り返すもんだから。曜は精神が、魂が摩耗して、ついに自分が支配できちゃった」
「……」
「何としてでも、主人格を守る。だから、主人格の魂を保護した。その保護が破壊されたなら、自分が全てを費やしてでも。そうなってしまえば、この肉体は一見脳死のような状態になるだろう。だから自分は死ねない」
「……」
「この肉体の命も諦められない。だから、この保護を抜かれない限り自分は不死身になっている。……本当は、さっさと元凶を潰すだけしてトンズラこけばいいのだろうが、今のこの状況はそんなことでは解決しない。この世界にはまだ光がある。彼女は最期にそう言ったから、せめて見届けたいだけだ」
「……」
「自分語りもここまでだ。さっさとこの備品を壊そう。大丈夫、これが破壊されても世界は救われる。支障はない」
そういって『魔力撃』を再度展開した燿から汐宮に視線を移した怜だが、汐宮は笑っていた。
「……なんで笑う?」
「どうもこの廃棄物は壊れる覚悟を決めたようだ。当然だな、生きているだけで世界に悪影響を及ぼすのに現状を打破できるだけの実力もない、なんならせっかく助けに来た仲間の足を引っ張るグズでしかない」
「そんなことはないだろ」
「なぜだ?事実だろう。こういっては何だが、君にはまだ継戦能力はあった。切り札を残している可能性もあった。自力で自分の核にも気づいた以上、自分が敗北する未来もあったかもしれない。そんな君があの時回避しなかったのは、間違いなく後ろにこの産業廃棄物があって、情に負けたからだろう。あれのせいで君は敗北したのさ。さて。最期に言いたいだけ言う時間を与えるから、思う存分思いの丈をぶつけるがいい」
そう言って燿は動きを止めた。怜が必死に考える中、汐宮が口を開いた。
「もういいですよ、城月くん。精一杯助けようとしてくれてたのは充分伝わりましたし、今まで本当に楽しかったです。久々に、誰かを信じてみてもいいかなって思えました」
「……」
「ああ、でも最期にあの子に謝りたかったなあ。きっと、私のせいであの子は家族から冷遇されてるかもしれないし」
「……」
「あ、大事なこと抜けてました。私のせいで城月くんに無茶をさせて、本当にすみませんでした。私が、ぐずで、生きてる価値もない疫病神で、本当に」
「黙れ」
怜は汐宮を凄んだ。汐宮は怜の殺気に驚いて閉口した。
怜は、初めて心底怒っていた。
「お前、自分勝手だな。助けて欲しいくせに声をあげない上に現状を変えようって努力もしない。知ってるか、助けられるのはあくまで助かる意思があるやつだけなんだよ。俺が最善尽くしたって、お前が完全に諦めてたら無理なんだよ」
「え、っと」
「ぐず?知るか。ぐずだと自分で思ってるならぐずなりにできることしろよ。頭回せ、やれることは全部やれ。逃亡生活してて生き延びれたのはそれが理由だろ?今だって同じようにするだけじゃないのか?生きてる価値ない?そんなことないだろ。少なくともお前は今俺を怒らせたのがその証明だ。お前も誰でも、生きていれば周りの人間に何であれ影響を及ぼすんだから、それこそ生きてる価値じゃないのか」
「でも、私には何も出来ないなんて、わかりきったことでしょう?」
「いいや、まだ選択肢は残されてるかもだろ。最初から考えてもないくせに甘ったれんな。お前はお前なりの選択をし続けろ。俺も責任負ってやるから」
「どうしてですか……私を諦めれば、貴方はもう傷つかなくて良いんですよ」
「諦め方なら知ってる」
『前回』、たしかに怜はなんの苦労もなく魔術師としてのエリート街道まっしぐらで生きていけただろう。
だが、本当は戦闘よりも、魔術の研究に没頭していたかった自分がいつも心の中にいた。それを忘れたフリをしていたことを、怜は唯笑や椎名たちとの交流を通じて思い出した。
忘失の底で、昔の本来あるべき自分が、泣いていた。
「けど、望むものもないのに生きるなんて地獄のようだ。だったら、せっかく出来たこのチャンス、俺は俺のやりたいようにやる」
「……」
「なあ、汐宮。お前、それで終わりで良いのか?俺は今、最高に自分らしく生きてる。お前もお前らしく生きていくべきだろう。そして、そうするための手段はあるんだ。今まではそうできないまま時間が流れたけど、俺達は自分で思ってるほどちっぽけなんかじゃないって、それだけは信じてくれないか?」
「……」
汐宮は黙り込み俯いた。
期待外れと言わんばかりの表情を浮かべた燿が、「……まだ情が抜けないか。今からこれを壊すのに、君は大丈夫なのか?裏には向いてないな」と呆れたように話し、怜が「そんなの初めて言われたな」と返した。むしろ「裏稼業に最適な人間」と言われていた怜にとっては新鮮な評価であると同時に、自身の変化をこの一連の出来事で顕著に感じていた。
そして、燿は『魔力撃』を起動した。
瞬間、時間が『停止』した。
まさかの多重人格?登場です。
自分の事情をペラペラ喋って、主人公はそれを信じてますけど、
実際真実かどうかは不明ですね。
評価、感想などいただけますと幸いです。




