20話
こんにちは。
新キャラ登場です。
では、どうぞ。
『軍』との交渉当日。
この日は元々、汐宮に最後の意思確認をして、汐宮が同意すれば3人、同意しなければ2人で『軍』本部に赴いて交渉する、という予定で怜、唯笑は打ち合わせていたが、それは起床して早々と立て直しを迫られることになった。
汐宮が姿を消したからだ。
当初、怜と唯笑は2人して、『御伽学院』に見つかった可能性が脳裏に浮かんでいた。
しかし、見つかったにしては、少なくとも怜たちが起きるほどの騒ぎなどなかった。これは一体どういう状況だろうか、と疑問に思っていたところで置き手紙を見つけ、汐宮が自身の意思で立ち去ることを選んだと判断した。一応納得しつつ、怜はどこか引っかかると感じていた。
……これは本当に彼女自身の意思だろうか?と。
たった数週間ほどの交流であったが、汐宮は良くも悪くも真面目だと怜は感じていた。そんな彼女は、置き手紙ではなく口頭で別れを切り出すのではないだろうか。よしんば口で言い出しづらかったとして、怜にとっては違和感のある言動が直近5日間で複数見受けられた。たとえば、先日のボードゲーム。彼女がそこまではっちゃける性格だとは怜には思えなかったのだ。
一応、怜から唯笑に相談してみたこともあったが、「宥ちゃんは確かに真面目だけど、馬鹿騒ぎも割と好きだよ。勿論少し気になるけど、私は心をそれだけ開いてくれたって前向きに捉えたいな」とそう評していた。
そうであれば怜も嬉しいとは思うが、それはそれ、これはこれである。
今まで、家族は心中、友人とは疎遠、1人逃亡生活をしてきた彼女が、怜との出会いでも話を聞かずに特攻してくるほどには人間不信に陥っている彼女が、そんな都合よく数週間で心を開くのか?
それも否定して心を開いていたと仮定しても、ここ数日は様子がおかしくはなかっただろうか。
本人と直接話さないと分からない。そう結論付けた怜が唯笑に声をかけた。
「唯笑。すまないが、今日の交渉は唯笑1人で行って欲しい」
「怜……」
唯笑が怜の方を向き、不安げに見る。
「これは、『世界救済』に必要な交渉だよ。私1人でもうまくやれなくはないけど、怜がいてくれた方が確実なんだよ。失敗なんかあっちゃいけないし、妥協だってあまりできない。それでも、行けないって、……宥ちゃんを探すっていうの?」
「……ああ。俺は、『人を助ける理由なんていらない』『一緒にいてあげるくらいはしてあげる』『幸せになって欲しい』という言葉を嘘にはしたくない。それに、唯笑だって言ってただろ?『自分が関わる全ての人が幸せであって欲しい』って。絵空事だと今は諦めているかもしれないが、俺はきれいな考え方だと思っているんだ」
「……でも、」
「大丈夫。唯笑ならきっと成功する。俺はそう信じているし、失敗したとしても皆でまた次を考えよう。その時は俺も手伝うさ」
そこまで怜が説得すると、唯笑は覚悟を決めたようだった。
「……決意は固い、か。そこまで言われちゃ仕方ない、行っておいでよ。絶対、見つけてよね。私もちゃんと成功させるから!」
唯笑が不安を打ち消すように笑みを浮かべるのを背に、怜は一刻も早く見つけ出すべく、拠点から駆け出していく。
正直、どこに行ったかの心当たりなど全く怜にはなかったが。
「必ず見つけて話を聞き出してやる」
怜は『決意』し、視覚、聴覚と身体能力を『強化』して街を縦横無尽に駆け抜け東奔西走して汐宮を全力で捜索した。
それが功を奏し、汐宮を発見することができたが、怜は眉をひそめた。もう1人いて、どうも会話しているようだったのだ。
怜は遮蔽物に身を隠し、念の為に『隠蔽』を使用し、聞き耳を立てた。
会話の相手は女性だった。
「ごきげんよう。汐宮宥、だっけ。『御伽学院』からの申請で貴女を処分するよう依頼を受けているの。是非死んでくれない?」
「……何者ですか?」
「え?私?嫌ね、貴女は昨日、少年から私の名前を聞いたと思うけれど」
「……?」
「まあ、外見の特徴なんて1つも聞いてないから知るわけ無いという話よね。どうも、『国際魔術連合』の古白曜よ。よろしくね」
女性の言葉に、潜伏している怜まで声を上げて驚いた。
永世中立のはずの『国際魔術連合』がなぜ『御伽学院』に協力するのか、全く読めないからだ。
女性―古白は続ける。
「貴女を殺すとは言ったけど、貴女には些か同情はしていてね?だから、貴女の質問に何でも答えてあげましょう。それで殺される理由もわかって、貴女は納得して死ねると思うわ?」
「……」
「あはは、見ず知らずのお姉さんの言葉なんか信用したくないの?別にいいけど。どうして『彼』が変わったのか、気にならない?」
「それは、私が」
「疫病神だから?」
「……はい」
「うーん。当たらずとも遠からず。一応言うと、彼……城月怜、そして真白唯笑は、微塵も君のことをそう思っていないけど、それはわかってるの?」
「……優しいですから」
「そう、正解。それに、彼が悪影響を受けることは確実にない、……し、彼女も少なくとも今は問題ない。君の体質、不幸、すべて持っていく人がこの街には存在している。まあ本人は自覚ないけれど」
「そう、なんですか」
「貴女は彼の変化を自分のせいだと捉えたけど、自意識過剰ね。あれはむしろ、彼にとっても彼女にとっても良い変化よ」
「……」
「そして、今貴女が2人と別れれば、二度と彼らとは対面できない。この街をでなくても『軍』に加入して簡単に関われる位置ではなくなるし、この街を出れば貴女は疫病神に逆戻り」
「……どうして、私は疫病神なんですか?」
「『御伽学院』のせいと言っていたけれど、あれは大正解よ。貴女の両親は『御伽学院』『評議会』の所属で、生まれたばかりの貴女を実験体として差し出した。そうして貴女に付与された魔術が、『心象操作』」
「……あ、」
「貴女もお察しのとおり、人の悪感情を増幅し、逆に幸福感などは減衰させる効果がある。その力で間抜けにも両親は互いに絞殺して心中したし、貴女のお友達は舞月財閥のご令嬢なもんだから、財閥が『御伽学院』の情報を独自に入手して貴女を危険視、友人を貴女に近づけさせないようにした。そりゃ娘の方が大事でしょうねえ、違いない。で、そんな喜劇を貴女が存在するその事実だけで生み出せるんだ、疫病神以外の何者でもないでしょう?貴女は死んだほうが世のためよ」
「……」
「ちなみに付与されてるそれを消そうにも結構面倒な処置になるわ。膨大な魔力を使わないといけない。魔術を打ち消せるようなものがあればまた別だけど。どっちにしろ彼女の『世界救済』という夢は貴女のせいで遠ざかった。彼女の中では『心象魔術』は決して完成しちゃいけないものだった。でも、貴女がいたから完成したんだ。それを彼女が知ってるかどうかは知らないけど、気分悪いだろうなあ」
とニタニタしながら語っていた古白が、「ねえ、この話を聞いて貴方はどう思う?そこに隠れてないで意見を聞かせてよ、城月怜?」と呼びかけた。明らかに怜のほうを向いていたので、カマかけではないと判断して怜は潜伏をやめて姿を現した。
汐宮の表情は、怜が見てもわかるほどに悲哀と絶望に満ちていた。怜の姿を視界にとらえてもなお、汐宮の表情は変わらず、何も言葉は出てこない。
そして古白の顔を見ても、怜には何を考えているのかさっぱりわからなかった。
どういったつもりで『御伽学院』に協力しているのか、どういう意図があって汐宮に事情を語っているのか、どうして非公式魔術師の扱いであっただろう怜たちのことを認知しているのか、そして何より……その割には、いると分かっている怜に対して随分有利な情報を落としたこと。
もうそれなら、心のまま答えるしかないだろう。だから怜は答えた。
「別に、どうでもいいな」と。
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