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同じ空の下で  作者: 桜油
2章
18/140

14話

こんにちは。


幕間Ⅰが短めなので本日2話投稿です。

新キャラ登場……とはいっても、すでに名前だけは出ていたんですけどね。


では、どうぞ。

小学校の卒業式から1週間後。


怜と唯笑は、事前に話し合っていた通りに孤児院から脱出してきていた。

必要最低限の荷物だけ鞄にまとめ、他の不要な物をすべて処分し、孤児院長にも『里親を見つけたので』と説明したので、抜かりはない。里親についてはフェイクだが、孤児院に探りを入れられても『軍』にさえ加入してしまえば問題なくなる見込みであった。

唯笑は「まだ『軍』との交渉はしてないけど、しばらく滞在できそうなところに宛があってね」と言いながら歩いていくので、怜はその後を追っていた。


やがて国道沿いの高架下まで辿り着くと、唯笑は立ち止まって怜の方を振り返る。


「ここだよ。ここにね、秘密基地みたいなとこがあるんだ」

「秘密基地?」

「そう。まあ私が使ってたわけではないんだけど、『毎回』ここに秘密基地の痕跡があるから、『今回』使ってみようかなって」

「ネカフェとか、カプセルホテルを使わないんだな」

「当初はその予定だったけど。孤児院がケチだったから、思ったより小遣い貯まってないんだよね」

「ああ……まあ俺たちはまだ小学生だからそんなもんじゃないか?」

「そうだけどさあ。『教会』が運営してるんだし、もうちょっとくれたっていいじゃんね」


と唯笑は口を不満げに尖らせた。怜は苦笑を浮かべる。


「で、ここはどうなんだ?」

「一応軽く下見したんだけど、そこそこだったよ。ここに数週間滞在するだけなら、余程のことがない限り体調を崩すことはなさそう」

「数週間か。その間に『軍』と交渉はできそうか?」

「勿論。もう材料も充分だし、アポイントも来週だからね。その時は紹介も兼ねるから一緒に来て欲しいな」

「ああ、来週か。なら大丈夫だな」


談笑しているうちに例の秘密基地の入口まで到着する。唯笑が持っていた荷物を下ろすと、元歩いてきた方向へ歩き始める。


「どこに行くんだ?」

「今日のご飯でも買ってくるから。荷物の搬入をお願いできる?」

「ああ、わかった。気を付けてな」


振り向かないまま手を軽く振りながら去っていく唯笑に怜は背を向け、扉と対峙すると、違和感を抱いた。


……中に何者かがいる。


その正体について、怜は軽く思案した。

ホームレスだろうか?いや、唯笑が下見をした以上、ホームレスが使用しそうな拠点は候補から外すはずだ。

孤児院からの追手だろうか?否、初日から追跡されるほど杜撰な偽装ではなかったはずである。

しかし、他に中にいそうな人物に心当たりがなく、怜は首をかしげつつも『障壁』を構え、複数の魔術式も構築する。

クリアリングを実施するのが確実だが、一般人だった場合に目も当てられない事態になるのを避けたい。怜は社会的リスクを厭った。


やがて怜は意を決したように扉を乱暴に開けた。瞬間、部屋の奥からなにかが高速で飛び、『障壁』に弾かれた。落ちたそれを拾い上げると、鋏だった。


「……鋏?」


世の中には武装している魔術師が多く、使用される武器の種類も様々だが、鋏を使う魔術師は怜は1人しか知らない。

「まさか、」と怜が口を次ぐ暇もなく、さらに鋏が数丁投擲される。体を少し逸らして避けた怜が前を見据えると、そこには1人の少女がいた。

あまり整えられておらずぱさついた栗色の長い髪はズタズタのリボンで雑にまとめられ、すぐ近くの廃棄場から拾ってきたと思われる、地元の私立中学校の紋章が入ったボロボロのセーラー服を身に着けている。靴は長い距離を悪路でも構わず走ってきたのだろう、使い古されているスニーカーで、タレ目がちな紫の瞳は恐怖、不信感からか焦点があっていない。そして今にも侵入者を追い出すべく、怜にとって未知の魔術式が複数展開されていた。


怜はその姿を見て確信した。

間違いない。彼女こそ、『前回』に『城月怜』の組織『JoHN』の幹部だった魔術師『汐宮宥』だと。


彼女は口を開く。


「……『御伽学院』の中では手練れみたいですね。しかし制服は着ていない……実力者なら服装自由という校則がいつの間に追加されたんでしょうか?」

「『御伽学院』の一員じゃないぞ。大体あそこ、女性しか加入できないんだ」

「へえ、だから女性しか見かけないんですね。……なら、『教会』の方でしょうか。ついに『教会』まで出張ってくるのですね」

「違うが。ほら、『教会』の制服じゃないだろう?」

「ほら、とか言われても信用できません」

「そりゃそうだ。『教会』の制服とか知るわけないな」


肩を竦めた怜を、彼女は睨んだ。


「そもそも、貴方がたは先程まで外で会話されていた方ですよね?全て聞き取れずとも、『教会』の孤児院にいたこと、『軍』と交渉する予定があることを踏まえれば、『軍』との交渉に私を利用しようと考えている『教会』が一般に紛れるため私服で私を襲撃してきた、と考えるほうが自然ではありませんか?」

「……」

「図星だからだんまりですか。まあいいです。話が通じそうな方ですし、ここは1つ話し合いをしましょう。私は捕まる気など毛頭ないですので、帰っていただけませんか?貴方のお仲間も同様です」


そう彼女が淡々と喋るが、怜はそんなの関係なしに頭を抱えたかった。

中途半端に話を聞かれていて、その上であらぬ方向に誤解されていたのだ。唯笑とは『伝達』で会話すべきだったと思うも、覆水盆に返らずである。


はあ、とため息をついた怜は、「俺はここの拠点を使いたいだけで『教会』などは無関係だがな。そちらこそ、話し合いをするというなら武装を解いてくれないか?」と問いかけたが、彼女は動かず怜の様子を窺っていた。


交渉は決裂した。突如彼女が跳躍し、『魔装』の魔術式が瞬時に複数展開されて鋏が生成、怜の元へ飛んでくる。怜が避けようとすると一瞬『停止』し、怜が気づくと鋏との距離が大幅に縮まった上にとんでくる鋏の数が激増していた。

未知の魔術式の効果だと推測しつつもまだ効果がよくわからないまま、怜は左へ駆けて鋏を回避する。怜も『魔装』を展開してナイフを数本投擲したが、また魔術式が展開されてナイフが『停止』する。気づけばすでに彼女が回避した後で、更に怜へ向けて鋏が飛んできている。『障壁』や『魔装』のナイフで弾きつつ回避を続ける怜だが、早々に「これじゃいたちごっこだな」と感じていた。


「手品師とかやってみろよ。絶対稼げるぞ」

「冗談もやめてくださいます?貴方たち『御伽学院』『教会』のせいで、私は普通から程遠い逃亡生活を強いられているのに、手品師になどなれるはずないでしょう?この魔術だって、逃げるために、魔術の知識なんかないまま自力で作った代物です。それを手品などと、見縊らないでくれませんか!」

「しかも魔術の知識もなく自作かよ、天才じゃないか」


前半はともかく後半はわりと本音だった怜だが、彼女はお気に召さなかったらしく、一笑に付したあとに紫色の瞳を細めた。


「終わりにしましょう」


瞬間、略式が使用され時間が『停止』する。


「今まで、貴方たちのせいでずっと忌み嫌われてきた。唯一の友人も巻き込まないよう距離を置かざるを得なかった。でも、逃げるために身に着けたこの力なら、」


と彼女は数百本以上の鋏を投擲していく。投擲された鋏は、怜の目前で停止した状態でとどまる。


「何もわからないまま、死んでください」


瞬間、魔術が解除される。投擲された鋏は速度を取り戻し、次々とその切っ先が怜の肉体に刺さっていく。

怜が音もなく崩折れる。彼女が安堵の表情を浮かべて怜の死亡確認と死体の処分に動く。

瞳孔や脈を確認し、死を確信した途端、怜の肉体が発光した。


「っ!?」


咄嗟に彼女が後ろへ跳躍すると、肉体が消失し、代わりにその光が弾幕となって彼女を襲う。動揺して『停止』を使用した彼女が更に背後に跳躍したが、着地した瞬間に今度は床が光を発して魔術式が展開される。

彼女が床を見ると、光は消えたが影にナイフが刺さった為に身動きが取れない状態になっていた。


「『影縫い』……!?」

「ああ、焦った」


と聞こえるはずのない声ー怜のそれに、彼女が目を瞠る。

反射的に『停止』を使うが、彼女は『影縫い』は初見であり、解除方法など知らない。身じろぎするだけで、特に状況が好転しないまま解除される。

怜は続ける。


「『影縫い』の解除方法なんて、裏でやっていくうえでは基礎中の基礎だ。言葉は知っているようだが解除出来てないあたり、本当に実践でしか魔術を学んでいないんだな。それであれが開発できるなんて、凄いとしか言いようがない。和解できれば魔術の論文とかで色々話したいな」


『影縫い』。相手の影に魔力を帯びた武器や『魔装』を刺すことで、半永久的に相手の身動きを封じる技術である。

怜はこれを先程、彼女を狙うと見せかけて『魔装』のナイフを投擲したが、本命は床に刺して適切なタイミングで『発光』で影を作ることで『影縫い』を成立させようと目論んでいた。想定外に手こずったので、そのナイフを仕掛けた直後まで『循環』で自身のみを巻き戻さざるを得なかったし、油断を誘うために『魔装』の応用で身代わりを用意するなど更に手間もかかったが、そこまでしてでも怜は彼女を殺したくなかった。


彼女にはわけがわからない状態だったが、それでも、と再度『停止』が使用されるも、彼女は目を瞠った。怜がいつの間にか至近距離まで接近していたからだ。『強化』で身体能力を強化して『縮地』という技術を使っただけだが、これも彼女には知り得ないことだった。

彼女は鋏を手に構えたが、怜がすかさずその腕を掴んだ。


「なっ……どうして、」

「これに関しては、俺の『異常性』が理由でしかないな」


苦笑いを浮かべた怜はすぐに表情を引き締め、彼女に『稲光』……電撃の魔術を人が気絶する程度の火力まで絞って起動した。

彼女はがくんと倒れ込み、そのまま意識を失った。

初期プロットでメインヒロインだった汐宮ちゃんが登場しました。

尚、初期プロットと簡易版では設定が異なります―簡易版の終章以降、『没になったプロット』参照―し、

本作では、簡易版を読んでいただけたなら現時点でお察しの通り、簡易版とも大きく設定を変更しています。


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