モノローグⅠ
こんにちは。
今日から2章です。
別視点のモノローグを入れてみました。
では、どうぞ。
自身のすべての価値観と倫理観を犠牲に、幸福が約束されるとしたら?
それでも多数の人間は幸福を選択するかもしれない。
しかし、すべてが終わるまで……思想も精神も混沌の闇に溶けるまで、あらゆる不幸が、犠牲が私を犯すとするならば?
それでも幸福を選ぶ人間のほうが多数派だと言えるのだろうか?
私は迷っている。
あるいは、最初から選択肢などなかったのかもしれないが。
ことの発端は、交通事故だった。
家族旅行に行っていた私、兄、両親を突如襲った交通事故。両親は即死、兄も私を庇った為、もう長くはない。奇跡的に無傷だった私は、家族の無惨な姿にショックで気が遠くなりながら、生きて欲しいと強く願った。
魔術など教わっていない私には、蘇生できるような魔術も回復できる魔術も何もわからない。できることは、眼の前の現実を『否定』することだけだった。私が初めて自身の『異常性』である『否定』を使った瞬間、兄は息を吹き返した。両親まで蘇生してしまえば自身が消えかねないことを無意識に察知して止めたものの、もう限界だった私が意識を暗転させ、次に目覚めたときにはすでに『教会』本部まで拉致され、幽閉されていた。
おおよそ人間扱いなど受けられず、あくまで実験道具のような扱いだった。だが、本部の最も偉い人……『神父』は、恍惚とした表情で、ハイライトの灯っていない瞳で私を見ながら、「これで長年の夢を果たせる」「そうでなくとも、足がかりにはなるだろう」と話すので、私の『異常性』が狙いだということはわかった。
私を、いや『否定』をどうやって見つけたのだろうか。私を誘拐するために家族を殺したのか、家族を殺すのが元々の狙いだったのか、はたまた全て偶然だったというのか。いずれにしても、一生分の運など尽きている。私では逃げることは出来ないだろう。
彼らは、『否定』で『死』を克服できないか、と考えているようだった。私の遺伝子を利用したクローンなら不死だろうとか、『否定』を使えば何回でも蘇生できるとか、『否定』がそもそも死を跳ね返してくれるとか。連中がなにかを思いつけば私は忽ち実験動物に成り下がり、飢餓、脱水、電力、毒物、酸、窒息、炎、凍傷、苦痛など、ありとあらゆる手段で苦しめられた。
しかし、逆らえばどうなるかは想像に容易い。私は、『私にとって都合の悪い物の一切を信じない、だから大丈夫』という金科玉条を胸中で何度も呪詛のように繰り返しながら、日々の地獄をやり過ごしていく。
笑えなくても、泣けなくても、食べ物から味を感じなくなっても、痛みを感じなくなっても、ぼうっとする時間が増えていったとしても、心が悴んだとしても。
全ては、いつか夢見た優しくて、誰にも好かれる『ヒーロー』が、汚くなった私をそれでも助けに来てくれる、その時まで。
そんな夢を見てしまったから、眼の前の現実を見て、『幸せ』なんてなかったと思い知らされただけで、心が折れる音がした。
「どうしてよ」私は思わずつぶやいた。
どうして。
どうして、貴方がここにいるの……?
眼の前の人物は、悔しそうに顔を歪ませるだけだった。
いつもより短いので、今日は2話まとめて投稿します。
評価、感想などいただけますと幸いです。




