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同じ空の下で  作者: 桜油
序章・1章
16/140

13話

こんにちは。


今話で1章は終わりです。


では、どうぞ。

怜と唯笑は小学校の卒業式を迎えた。

桜並木の道を、珍しく足取りの軽い唯笑が鼻歌を歌いながら怜の数歩先を歩いていた。唯笑の髪は初めて会った時のような深海のごとき藍色のままで春風に靡いていたし、爽やかな青空のような瞳が細められていた。


「今日はまた上機嫌だな。そんなに卒業が嬉しいのか?」


怜の言葉に唯笑は怜のほうを振り返り、「いや、それもあるけどね」と立ち止まった。


「今日、やっと小学校を卒業できるなって」

「『前回』もその前も卒業してただろう?」

「やだもう。その後にまた小学校生活をやり直す羽目になってるんだから、卒業でもなんでもないじゃん。でも、今日卒業した後は『次回』なんてないんだよ。だから、『やっと卒業』なの」

「……なるほどな」


怜がそう納得していると、唯笑は怜に歩み寄り、『前回』と同様に黒い怜の髪に手を伸ばす。


「ほら、桜の花びらついてたよ」

「ああ、ありがとな」

「うん……髪の色、黒いまんまだね」


そう訝しげに唯笑がつぶやくが、怜も理由はわからないので黙るしかなかった。

唯笑の疑問はまだあるようだ。


「それに、目の色も灰色だし……」

「あいつは、暗めの茶髪に碧色の瞳だったよな」

「そうだね。んー、何でだろ?」


そう二人揃って首をかしげたが、「分からないことは仕方ないか。それにしても、桜綺麗だなあ」と唯笑が話題を逸らしたので、怜もそちらに合わせることにした。


「桜、たしかに綺麗だな。3月中旬にしては結構咲いてるんじゃないか?」

「うん。天気も快晴だし、式が終わったら花見でもしよっか」

「花見か。したことないから楽しみだな」


と2人で歩いていると、学校に辿り着く。校門には椎名が待ち受けていた。


「あれ、綴ちゃん。どうしたの?」


駆け寄る唯笑の言葉に、椎名は少し頬を赤く染めて答えた。


「……実は、遡行して割とすぐから、白星にお願いされて、音楽活動を始めたの」

「え?顔は出せないんじゃないの?」

「そうよ。だから安心して、顔出しは一切していないわ。動画配信サイトでMVを定期的に投稿しているだけよ」

「あー、なるほどね。綴ちゃんにとっても良かったんじゃない?」


と微笑む唯笑に、怜が会話に割り込んだ。


「でもどうして学校にいるんだ?」

「……卒業式に歌って欲しいってお誘いを頂いたわ」

「はあ?顔出ししないのにその誘いに乗ったのか」

「断ろうとしたわ。けれど、白星が『怜たちの母校でしょ?存分に卒業を祝おうじゃんか!』って」

「あー」


たしかに秩佐なら言いそうで、椎名が秩佐のお願いを断れるわけがないのも『前回』から変わっていないことだった。唯笑も苦笑いを浮かべていて、椎名はますます赤面した。


「だ、大丈夫よ。仮面をつけて歌うし、それは許可を頂いたの」


「まあ、楽しみにしてる」と返す怜を傍目に唯笑は懐からカメラを取り出して、怜に声をかけた。


「ね、怜。2人で写真撮ろうよ?折角の記念だし、今まで全然撮ってないし。いいでしょ?」

「……ああ、俺からもぜひ。椎名、頼めるか?」


と怜が椎名に視線を戻すと、椎名は鳩が豆鉄砲を食らったような表情を一瞬浮かべたものの、「あ、ええ。構わないわ」とカメラを受け取り、そのまま2人で写真を数枚撮る。椎名からカメラを受け取っては撮影した写真を見て笑みを浮かべた唯笑は、満足げにカメラを鞄に仕舞った後に「ついでに教室も撮ってくる!あ、そうだ。式終わったら花見だからコンビニでも行こうよ。綴ちゃんたちも一緒で花見しよ!」と言い去った。

しばしの沈黙を破ったのは怜だった。


「……本当は他に要件があったんじゃないのか?」

「そうね。でも唯笑がいるところで話せない内容もあるから、それでいいの」


椎名はそう言って怜に向かい合った。


「……なんというか、やっぱり変わったわね。いい方向に」

「どうしたんだ、藪から棒に」

「いえ、貴方なら本当に唯笑の絵空事を現実にできるかもって漸く思えるようになっただけのことよ。唯笑も割と甘えられているんじゃないかしら」


という椎名の言葉に、それならいいのだが、と怜は返しながらも、何がいいのかはよく分かっていなかった。

怜の印象としては、『心象破壊』の論文を読んで以降、唯笑から遠慮をされることが減ったり、表情が曇ることがないように感じていた。それが心理学的にいい方向なのは怜にも理解できているが、自身がそれで安心のような感情を抱く理由が曖昧だ。

怜は、唯笑についてどう思っているのか。それが最近考え込む内容である。

椎名の言葉は続いた。


「唯笑、肉体年齢に引っ張られている影響もあるけど、今まで散々な人生だったからトラウマが多くてパニックになってしまうこともあったの。でも私じゃ救えない。私は唯笑とはどうしても目的は同じにならないから」

「……」

「周りが敵だらけで、騙され、裏切られ、傷つき、敗れ、非難され、誤解されて。ありとあらゆる酷い目に遭って、理不尽に耐えてきたのが彼女だわ。そんな唯笑が貴方を頼ると聞いた時は不安でしかなかったけれど、今の貴方を見ていると期待してしまう自分がいるのよ。情けないわよね、期待なんて、何もできない人がするだけのものよ」

「……」

「お願いだから、あの子を救ってね。私はハッピーエンドが好きなんだから」


そう微笑む椎名に、怜は「……確証は出来ないが、最善の努力を尽くし続けよう」と返し、それに椎名は「出来もしない約束するより誠実ね」と更に笑みを深めた。

怜はふと気になったことを尋ねた。


「椎名はどうして巻き戻ったんだ?」


椎名はそれに、どこか遠くの記憶を呼び起こすようにゆっくりと話した。


「大切な人がいたの。どうしても助けたい人が3人」

「……」

「逆行者とか、異常性とか、そんなのではなかったわ。ごく普通の人たちだった。戦争を終わらせたくて必死にあがいた2人の魔術師と、少しでも平穏な空間を得ようと1人必死に歌っていた一般人」

「……」

「2人の魔術師が私を生かして逃がしてくれた。私が覚悟を決めてなかったから2人が死んでしまったって、ずっと責めてたわ」

「それは、」

「いいの、もう私の中では解決したから。……そうして塞ぎ込んでいる私だけど、特殊な立場だから、2人が殉職した後も私への勧誘、そして私へ発破をかけるような言葉はたくさんあったわ」

「……」

「でも、特別な人間が特別な言葉で手を差し伸べてくれるよりも、どこにでもいる『彼』が、精一杯の特別な言葉で笑っていてくれたことが、何よりも心に響いたの」


そう語る椎名の声は、ずっとどこか甘かった。怜は相槌をうつのに精一杯だった。


「不格好な声で、みんな無視していた曲。今でもメロディーは頭に浮かぶわ。とても素敵な曲で……『彼』の近くにいたいって思ったわ」

「……」

「まあ、あとで聞いたら、別人へのラブソングだったみたいだけど」

「別人かよ!」


思わずツッコミをいれた怜に椎名は笑った。


「そうよ。初恋して早々と失恋。だって『彼』、亡くした相棒のことをずっと大事に想っていたもの。亡くなる直前も想っていたのは彼女のことだったでしょうし、諦めるしかないでしょう?」

「……」

「できれば『彼』とともに時間遡行をしたかったのだけど無理だったわ。だからこそ、私は彼に幸せでいて欲しい。それは今だって変わっていないわ」


怜がそれに口を開く前に、唯笑が「おーい、式始まるよー」と呼びに来たので、怜は慌てて会場へ向かった。椎名も続いて中に入っていった。

この後、無事に卒業式は終わりました。

クラスメイトとの絡みは小2のときの『伝達』を傍聴した同級生としかないので、

二人ともそこまで感慨深く感じてないです。


評価、感想などいただけますと幸いです。

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