12話
こんにちは。
1章はこの次の話で終わりです。
では、どうぞ。
小学6年の秋頃。
小学校卒業も間近なこの頃、魔術師を目指す子供が本格的に魔術の勉強をし始めるのが一般的な例だが、怜も唯笑も深く気にするでもなくいつも通りの日常を過ごしていた。
ただ、この日はいつもとは違って、放課後に市民図書館ではなく喫茶店に立ち寄っていた。
喫茶店『ソーサリータクト』。舞月財閥が全国に展開するチェーン店だが、他のチェーン店とは違いここの本店はアンティークな喫茶店になっている。席と席の間に仕切りが用意され、席同士の目視は困難だ。天井も高く、店内のBGMも相まって他の席の話し声は聞き取りにくくなっている。込み入った話をしたい人たちにはうってつけで、怜たちが住んでいるここ桜坂市の魔術師や重役は誰もが利用したことがあるほどである。
その喫茶店に「いやー、ここ入るの6年ぶりだな」と入っていく唯笑に続いて怜も「俺も久々だな。最後に任務を受けた時以来じゃないか」と続く。
予約していた席にそれぞれ腰掛けて各々で注文を済ませる。
「前も使ってたことあったの?」
「ああ。椎名たちと会話するはよくこの場所を指定されていたからな。それに、任務内容を聞くときも重宝する」
「うん。舞月財閥が商談をするときに使いやすい喫茶店が欲しくて開業したらしいよ?」
「マジか。行動力凄いな」
「この行動力とあの発想力はぜひ見習いたいところだね」
「あの、って唯笑は知り合いなのか?」
「ご令嬢の1人を一方的に知ってるだけだけどね。計画の主軸に関わるわけではないけど、『今回』、幸せになってくれればいいと思う」
「なるほど……6年前もここを利用したのはどんな用事だったんだ?」
「『前回』の怜と少し話をしたんだ。おかげで協力してもらえたよ」
「ああね」
怜たちが雑談をしていると、注文した品が伝票とともに運ばれてきた。
店員に軽く会釈をして見送った後、唯笑が魔術式を展開して防音の結界を貼り、傍聴対策を施した後で、『伝達』を略式で起動した。
唯笑の声が怜の脳内に響く。
『さて。これで準備は完了した。今から、これからの行動指針について会議を始めようか』
唯笑はそう微笑んで、鞄からファイルを取り出してプリントを取り出し、次々と広げる。数直線に様々なことが箇条書きにまとめられているタイムスケジュール、数枚の写真が怜の目に入ったが、唯笑の方へ視線を戻した。
『今までの6年は前座だよ。正直、この段階で介入できることはほぼなくてね。でも、これからの6年は激動になる』
『そのすべてを今回は情報共有してくれる。その認識で良いのか?』
『ほぼすべて明かすよ。でも、……まだ言う覚悟ができてないことがあるから、そこだけは伏せさせてね』
『了解。今ほとんど話すんだろ?その時点でとても助かる。言いたくなったときにでも教えてくれれば良い』
『ありがとう』
そう言ってコーヒーを一口含み、唯笑は説明を始めた。
『まず、今の孤児院はこれ以上滞在すると『教会』に売られかねない。どういう扱いをされても、私達に有利に働くことはないだろうから、近い内に出ていこう』
『そうだな。それは賛成だが、どの時期にするんだ?流石に路頭に迷うのも困るだろう。かといって宛もないし』
『時期は卒業式の後。『教会』の情報をなるべく抜いてから出よう。今後の交渉に使える』
怜が頷くと、唯笑は続きを話し始めた。
『次に。宥ちゃんと有希くん、紗季ちゃんは深く介入しなくてもちゃんと会えるはず』
『それは毎回確定か』
『大丈夫だよ。でも後ろ盾がないと厳しいから『軍』や『陰成室』に取り入ろう。『軍』は『教会』と敵対しているから情報は喉から手が出るほど欲しいはず。『陰成室』もうまいこと交渉すれば条件付きで承諾してもらえる筈』
『……なるほど、『軍』幹部が使えそうだな』
『Exactly』
唯笑のウインクを怜は軽く流す。唯笑は少し残念といった表情を見せた後、続ける。
『あと、今から3年以内に情報屋に交渉して、私達のオブザーバーになってもらいつつ、『評議会』からあるものを買収してもらう。これは詰み防止と個人的にやりたいことだし、私の方でやっとくよ』
『その情報屋との交渉については宛があるのか?』
『そこでここの孤児院の情報を使う。あいつ、この孤児院のこと大嫌いなはずだよ』
『……ふむ』
『続けるよ。その後はしばらく動きがないから介入できることはないけど、私が着々と準備進めておくから怜は鍛えておいてね。……そして、17歳になって以降に確実に勃発する、『軍』本部襲撃。勿論介入するよ。刹那さんには生きてほしいけど、場合によっては難しいかな。一般人もなるべく助けていきたいね』
『防ぐ手立てはないのか?』
『一応ある。『前回』みたいに『教会』を徹底的に叩けば、その襲撃は回避できるよ。でも、それじゃ駄目なんだ。本質は別の所みたいだから』
『本質じゃない……?』
『うん。『軍』本部は囮でしかない。……本命がどこかはまだ話せないけど』
と再度申し訳無さそうに唯笑は眉を下げた。
『……そうか。わかった、続けてくれ』
『あ、えっと。それで『軍』本部襲撃の時は、怜にはなるべく戦闘を避けてほしいんだ』
『なんだ、俺が消耗することが不都合なのか』
『……うん。そんなとこ』
少し気まずげに視線を斜め下にそらした唯笑は、しかしすぐに切り替えて神妙な表情で語り始める。
『『教会』の最終兵器がその時に復活してしまうの。魔術黎明期に『史上最悪の殺戮』と呼ばれ、全世界の人口を当時の半分ほどまでに削り、封印された天災……その名を『実現の魔女』』
『『実現』……』
怜は息を呑んだ。
『『実現の魔女』は、ある条件を満たしたうえで『心象破壊』を使用することで、特定の人物に憑依する形で顕現する、言わば神。邪神ともいうべきそれは、いかなる魔術師がいかなる手段を持ってしても、いかなる干渉もできない』
『だから『決意』に頼るしかないと?』
『そう。『決意』なら『実現の魔女』に干渉できるのはわかってるから』
『……』
『怜にしてほしいのは2つ。1つ、『教会』の『神父』……全権代行、クリス・ユークリッドを止めること。2つ、『実現の魔女』を再び封印することだよ』
『……ああ、わかった』
『『教会』が呼び出したい理由は知ってるけど、これはちゃんと『彼』本人から聞いて欲しい。それも1つの『愛』なんだろうとは思うから。けれど、多くの人が悲しんでいる。だから止めないと』
『……唯笑は優しいんだな』
『……そうかなあ?』
唯笑が首を傾げた。怜は『いや、』と言いかけて、言いとどまった。
唯笑は悲しそうでもなんでもなく、穏やかな表情を浮かべていた。
『私はエゴイストだよ。出来もしないのに、『苦しむ人すべてを助けたい』『それが無理だとして、せめて関わった人すべてが幸福であったなら』と願っていたんだ』
『……』
『私が魔術師になったのはたしかに食い扶持を稼ぐためだけど。でも、『立派な魔法使いになっていつか人を救えたら』って思っていたのも理由なんだ。私は、『正義の味方』になりたかった』
『今がその『正義の味方』じゃないのか』
『ううん、違うよ。正義の味方なんて言葉なかったの。正義の敵はあくまで別の正義でしかないから』
『そういうものか?』
『そういうものだよ。正直、今でも後悔してるんだ。『彼』に私、なにか言ってあげられなかったのかなって。もしなにかが違っていたなら、その時点でこの運命も変えられたかなって。いや、今が嫌なわけじゃなくて、今も希望は持ててるんだけどね』
とちょっと慌てたようにフォローをいれた唯笑に、怜は『じゃあなんでそれでも『世界救済』を目指すんだ?』と尋ねた。唯笑はなんでもないように答えた。
『私は、誰かを悲しませてまで笑えないや』
全く持って合理的ではない。昔の怜ならそう切り捨てるようなセリフだったが、今の怜はそう断ずることはできそうになかった。
『会議はこんな感じかな。じゃ、帰ろう?』
と会計しに席を立つ唯笑の背を眺めつつ、怜はコーヒーを一気に飲みきった。
真白の言う『世界救済』の概要がこれで大体明らかになりました。
彼女が敢えて伏せた情報も、もう少し時間が経過すれば明かされることでしょう。
……なぜ伏せたんでしょうか?主人公になら、全て教えても支障はないはずなのに。
評価、感想などいただけますと幸いです。




