表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同じ空の下で  作者: 桜油
スピンオフ『終わりを解く、始まりの糸』
116/140

こんにちは。

スピンオフ1話目です。

御厨愛知の視点で御伽噺は語られます。


※★★★は視点変更の目印です。

とは言っても、どこから話せばいいんだろうね。

最初から話すにしても、色々覚えることが多くなるというか、専門用語が多くなっちゃうし。

......じゃあ、彼との出会いから話すことにしようか。


私は、世間からは『ニート』と称される類の人間だった。


昔から体が弱くて、ちょっとしたことで体調を崩して。その度に、家族にはいつも心配と迷惑をかけた。

それは、両親を『災害』で亡くした後も変わらなかった。

そう。昔、『災害』が頻繁に発生してたんだ。災害が起こるとね、人は人として死ねなくなる。今まで積み重ねた想い、歴史、証の全ても捻じ曲げられてしまう。

その災害への対処法は、たった一つ。ある企業が開発した術式で、災害を引き起こした人を殺すこと。

だから、皆を救うために、一人を殺すのが当たり前の時代だった。


姉は、世界を救う...というより、両親の敵討ちの為に戦うための勉強をしてた。昼は勉強、終わったら学費と生活費と私の治療費の為に必死に働いて、その後は勉強に置いていかれないように鍛錬。いつ休んでいるのか、という様子で。

過酷な戦いだから、私が力になれることなんて何も無かった。姉の力になりたくても、その為に何か行動を起こすことが、姉の重荷になっていたから。


聡明なんかじゃ前を向けない。けれど、理由がなかったら腐っていくだけ。


どうしようもない毎日に終止符を打ったのが『彼』だった。


『彼』と出会ったのは、ありふれたソシャゲを暇つぶしに遊んでた時。

退屈を持て余して、ゲームでもなんでも極めようとしてた。ほら、ニートなだけあって時間だけは無駄にあるから、そのソシャゲではトップランカーでさ。

それでね。トップランカーだから色々日課とかもあるけど、飽きてきたし、ゲームで頂点まで行っても、ゲームはサービス終了したら何もかも無くなるでしょ?それにプレイ人口も少なくて...一時の快感、達成感しかなくて、とても虚しかった。

それで、今日で終わりにしようって思って、...なんとなしに初心者広場を覗いた。過疎気味なゲームだから閑散としてるんだけど、...今思えば、誰かに、『私』を見つけてほしくて、...『私』が生きてる証が欲しかったんだと思う。

そこにいた初心者が『彼』、暖。

暖は、素直な初心者だった。私に教えて欲しいって頼んできて、強引にフレンド登録までして...それを無下に断ることは、なぜかできそうになかった。

生まれてから今まで、ゲームを1回もやったことがなかったからぎこちなかったけど、反射神経と判断力が高くて、あっという間に実力を伸ばしていったよ。どんなゲームだって私と並んで一流になれるくらいで...気づけば、暖と会うためにゲームをするようになってた。

後で知ったことだけど、暖は姉が憧れた術師で、相当高い実力のある人だったみたい。不幸な事故で前線に立てなくなって、それで休業せざるを得なくなって、暇つぶしにと上司からゲームを勧められたんだって。当時は不健全なことを勧めるなあと思ったけど、リハビリだったのかも。


そんなある日、暖は上司からの頼みで、落第しそうな人の家庭教師を始めるからログイン頻度が下がるって謝ってきた。

暖と話す機会も沢山あって、暖が姉と同業者なのを知ってた私は大丈夫って答えた。...答えるしか、なかった。

だって、毒にも薬にもならないごみのような私より、暖のほうがずっと世界のためになってる。それを止めるなんて、毒にしかならない。薬になれないのなら、せめて毒にだけはなりたくなくて、平気なフリをした。

時々、ログインしてくれたよ。今までより明らかに頻度は落ちてたけど、だからって暖の腕が落ちてるなんてこと無かった。私がいない時に練習してたのかも。


そうして、暖と私の関係が変わることなく...互いの顔も知らないままで、数年がさらに経過して。姉も卒業して、正式に術師として、1人を殺して世界を救うようになって。

暖が、復帰することになった。全然ログインできなくなるってまた謝られちゃって、謝らなくていいって、頑張れって背中を押すしかできなかった。気の利いた事なんて言えなかった。


彼のいないゲームは酷く退屈だった。暇だった。空虚だった。何をしたってモノクロだった。

連絡が私に来たんだ。決して来て欲しくなかった未来。⋯⋯姉が、災害に巻き込まれたって。

その姉を助けるのに暖と、姉と同期の女の子...暖の生徒さんが向かうことになったけど、危険性が高くてね。死ぬ可能性の高い『救助活動』だからオペレーターがいなくてそれで暖たちも潜れないって話。

周り...姉さんを助けられない、私は無力で役立たずなのか、未熟だ、って、酷く悔しくて...悔しくて仕方なかった私に声をかけたのは暖だった。


★★★


司令室は混沌としていた。


『現象発生から15時間経過。確定まであと8時間59分です』

『まだオペレーターは見つからないのか?』

『色々掛け合っていますが、......交渉は難航しています』

『厄介だな。術師は問題ないというのに』

『その術師も信用ならないと断るオペレーターまでいます』

『なんだと?全く......知識もなければ度胸もないオペレーターなどこちらが願い下げだ』

『いやしかし、このままでは被害者は見殺しになりかねません』

『......私が指揮をするしか』

『なりません。オペレーターには専門知識が必要になる場面が多々あります。前線の経験があっても、適切に後方支援を行うのはそれに資格がない貴女が指揮するのは規定違反でしょう』

『私たちだけで侵入してはいけないんですか?』

『留唯。それは規定違反だし、それに俺たちにとってあまりにも危険すぎる。残り時間不明、内部データも覚えて行っても後で変わるかもしれないし、覚え違いがあって迷ったら尚更危険だから』

『でも、でも暖先輩!!このままじゃ、媛乃ちゃんが!』

『念の為確認だ。お前はどうなんだ?』

『......残念ながら、資格はありません』

『クソッ!我々には、何も出来ないのか!?』


その中、ただ1人、ただじっと俯いて服の裾を握りしめている、身に染みる悔しさに覆われているだけの無力な少女がいた。

少女とて重々承知だった。

こんなことは日常茶飯事だと。

身を粉にして自分を守ろうと戦い続けていた姉。姉は勤勉で、どれほど苦しくてもそれを一切表に出すことも無く、愛情を妹に注ぎ続けた。優秀な成績を修め、社会人となった今もこつこつと実績を積み上げ続けている。

しかし、努力を重ねただけ報われるほどこの世界は優しくない。

悔しかった。必死に生きてきた姉が誰にも助けて貰えず朽ち果ててしまうのが。

苦しかった。暖は誰かの力になれるはずなのに、その力を認められていない現状が、少女と少し重なるようで。

家族だからと呼ばれた少女にできることは何もない。

そもそも呼ばれたかったのか、呼ばれたくなかったのかすら少女には分からない。

姉の死に様をこのまま見せつけられる羽目になる。

人として生まれたのに、人として死ねなくなる姉。

本当の心などきっとどうでもいい。嘘偽り言えることはただ1つ。


こんなの、正しい終わり方じゃない。

せめて、姉は、正しく終わって欲しい。


そして、それが少女にとって全てだった。


『なあ』


ふと、声が降ってきた。

一時期は毎日頻繁に...それこそ、姉の声より、両親の声よりも聞き馴染みのあった男性の声は、波ひとつない海面のように穏やかだった。

見上げると、男性は......暖は、その深海のような瞳でじっと少女を見据えていた。


『......何?』


少女の問いに、彼は確信を得たように少し首肯して、決心したように口を開いた。


『お前の姉を助けたい。どうか、お前の頭脳を......気持ちを貸してくれないか』


『......は、』

『暖、本気で言っているのか!?』


動揺する少女の心中を代弁してみせたのは、先程まで苦悩していた責任者だった。彼女とは気心知れない仲なのか、目上に彼は『そうだが』と力強く頷いてみせた。


『彼女は一般市民だ、あまりに酷ではないか?』

『だが、俺の知人の中では一番頭脳面において信頼出来る実力者だぞ。下手なオペレーターよりもずっと上手く指示を飛ばせるだろう』

『資格がない以上規定違反じゃないか!』

『そうだな。じゃあこのまま多くの人を犠牲にするか?』

『......それは、』

『規定とは人を守るためにある。だが、縛られすぎて結果見殺しにするなど、あまりにくだらない。そんな規定など違反してしまえ』

『なら、私が』

『翠さん』


彼に優勢だった言い争い。責任者、翠さんの言葉を彼は遮った。


『翠さんを信じていない訳では無いんだ。とても世話になった。感謝してる。翠さんの現場の経験だってきっと役立つ』

『......』

『それを踏まえて、それでも俺は、翠さんより愛知に俺たちの命運を託したい』

『......そうか』


がっくりと項垂れた翠さんは呆れたように力無く笑った。


『お前は、本当、昔から変わらないな』

『そうか?......よく分からないが』


暖は首を傾げ、そして少女へと視線を戻した。


『さて、......愛知。そういうことだから、オペレートをやって欲しいんだ。頼めるか?』

『......私で、いいの?』

『お前がいい。愛知の指揮なら絶対救えるから』


心が揺れた。

暖は、更に畳みかけた。


『大丈夫。愛知は、自分で思ってるほど無力じゃないから』


瞬間、凍っていた心が溶けて、解ける。

そんな音が聞こえた気がした。


★★★


かくして、私は、暖とその生徒さん...留唯の専属のオペレーターになった。


なんとか姉さんを助けることが出来た時は、感無量だった。

私でも姉さんの、暖たちの、みんなの力になれた。それが、堪らなく嬉しかった。姉さんには沢山怒られたし、心配する姉さんと喧嘩も沢山したけど。...でも、最後は姉さんも、『仕方がないな』って笑って認めてくれた。


今でも、暖の言葉は私の糧、礎......心臓になっている。

明日、続き2話分あげます。

現時点で、明後日投稿の分までは出来てます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ