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同じ空の下で  作者: 桜油
スピンオフ『終わりを解く、始まりの糸』
115/140

お久しぶりです。

お待たせしましたが、告知の通り、後日談にして前日譚、開幕です。

本編未読でもお楽しみいただけますが、ネタバレのオンパレードになるので、本編読了後のほうがより楽しめるかと思います。

では、どうぞ。

唯笑から聞く限り、あの最後の戦いの後、世界情勢は大いに荒れたようだ。

『軍』全権代行の短期間での交代。

大規模な犯罪シンジケートと化していた『教会』の『協会』への改名。及び、殉職した前全権代行の後任として新しく就任した全権代行の大幅な改革。

長らく犬猿の仲だった『軍』『協会』が講和条約を締結し、更に同盟関係になった事実。

情報屋界隈で名声を恣にしていた拝郷本音の『計画』が白日のもとに晒されたことによる、彼の立場の失墜。及び、彼の死亡の発覚による諜報関連の恐慌。

『国際魔術連合』全権代行の古白曜が実は『御伽学院』全権代行の燿心白と同一人物であった事実、そして彼女の失踪。

……そんな混乱の中、よりによって『全権代行』が不在にしている状況で、唯笑が『国際魔術連合』に赴くこともできるわけがなく。

しかも、『JoHN』の全権代行の俺が帰還した後、今度は『評議会』から少年兵が監視員と共に脱走した事件があった。

そして、それをきっかけにその少年兵や、実は利用されていた桜乃さんのお子さんたち、俺が知らない間に唯笑や拝郷が介入していた、元々『評議会』の実験体だった少女、ついには司の弟分の少年まで巻き込んだ『評議会』絡みの騒動があった。その対処で俺たちは多忙を極め、『JoHN』としては最大の宣伝になったと言えるが、それでもなかなかに骨が折れた。

せっかく平和になったはずが、それが原因で『軍』と『評議会』が冷戦になったし。

……まあ、俺達も求められれば『軍』の味方をするのだが。司たちや、司たちが目をかけている少年少女の害になるのがわかっていて『評議会』に味方する選択肢は俺の中では全くない。

でも、どうせなら、平穏な日常を唯笑と謳歌してみたい。

『軍』の全権代行となった育もそう考えているのか、今のところは、先の一件以外は特にこれといった依頼をしてきていない。


そんなこんなでドタバタしていた俺と唯笑だが、やっと、『国際魔術連合』に正式に挨拶ができることとなった。

一応刹那さんのおかげで、正式に挨拶ができていない今までの活動も問題ない裁定にはなっているらしいが……それでも、否、だからこそ、挨拶くらいはしておくのが筋だろう。

それに、だ。あの古白の後任者がどういった人となりなのか、純粋に興味がある。

噂では、魔術の知識、研究、論文といった方向で優れた誠実な女性だとのことだったが、どうも信じがたい。

というのも、全権代行は魔術組織の頂点。魔術師の中でも優れた人が大抵就任する役職。魔術師は悲しいかな、お人好しや真面目な人ほど早死しやすいという業界の性質も相まって、全権代行ともなると大体は曲者なのである。

『協会』の有栖は自己肯定感低すぎな回避タンク。凡人と自称しているが、悪い魔術師には油ぶっかけて燃やして爆発させてマイムマイムするぐらいにはちゃんとイカれている。伊達にあの『教会』で犯罪歴ほぼなしで生き残っていない。

『教会』クリスは言わずもがな。妻に生きてほしいから世界をぶっ壊すとか、気持ちはわかるが落ち着いてほしい。……あれ?似たようなことをした俺も同類かもしれない。……気づかなかったことにしよう。そうしよう。

『陰成室』の執行はやっぱり魔術論文オタク。未だに俺の『アイ』の話を聞いてよだれ垂らしては魔術で再現しようとしてるし。

俺の『想い』が魔術で再現できるわけ無いだろ、と言ってみたのだが。

彼女から、


「当たり前じゃん。自分の知ってる真白が何の憂いもなく生きてる世界がいいから世界も真白も再生するとか、どんだけ真白が好きなのよ。そうじゃなくて、あんたのその『愛』と同じくらい強い気持ちで、なんかすっごいことできないかなーって思ってるだけですー」


と呆れられた。


話を戻すと、『御伽学院』『国際魔術連合』の古白は『宇宙人』だった。しかも満足してしれっと消えたし。

多分目的果たしてないから、俺が死んだ頃に違うやり方で色々やってそうな気がする。

まあ、古白の痕跡が微塵も見つからない以上、俺にはどうしようもない。その時代を生きる人たちがなんとかしてくれるだろって楽観しておこう。

『評議会』も『教会』に全面的に協力していた時点で割とお察し。

今は魔術師活動を休止しているが『放蕩の茶会』の椎名も忘れてはいけない。常人の皮を被っているが、ちゃんと過去を知ってみれば、『前々回』の友人たちを生かすためにタイムマシンを自力で開発して時間遡行、歴史改変した後に『今回』、『前々回』に似た経歴をたどる『友人』に幸せであってほしいと推し活する強火担だ。

『軍』は国を担うだけあって、流石に稀に見る聖人ばかりが全権代行になっている。

刹那さんは言わずもがな、采和とも関わりこそ薄いものの司たちや唯笑の話を聞けば、良い人なのだろうという予測は容易だった。今の全権代行の育も、兄想いの優しい魔術師だ。ツンデレ気味ではあるが。

俺の両親は分からないが、桜乃さんや刹那さんがべた褒めするならきっと素晴らしい人だったんだろう。俺も鼻が高い。

ただ、これは『軍』の営業形態が特殊なだけだ。例外とすべきだろう。


大きい組織としか関わったことはないが、小規模、中規模の組織だってきっとそんな感じで変人ばっかりなんだ。

ましてや魔術師の頂点『国際魔術連合』だぞ?古白を全権代行に据えるようなトチ狂った人選をする組織だぞ?絶対まともなわけがない。


「怜は人のこと言えないと思う。『異常性』に自我が芽生えてしかも懐かれるとか聞いたことないよ。そんだけ愛されてて、私は幸せだけどね」


俺の見解を唯笑に聞かせれば、唯笑はそう苦笑を浮かべた。解せぬ。


さて、そんな俺の独断と偏見はそのままに『国際魔術連合』本部にアポイントをとる。面談当日、本部に赴いた俺たちを丁重に事務が対応、案内してくれた。

魔術が絡まないところではどうもまともらしい。それもそうか、曲がりなりにも国際的な機関だ。


そして、華美すぎず地味すぎず、適度に威厳を感じられるような面談室に通された俺達を待ち構えていたのは、同年代くらいの女性だった。


銀髪で、腰くらいの長さのストレート。澄んだ海のような瞳は落ち着いた大人のような雰囲気で、気配が希薄でありながら重厚だった。

そんな女性が、俺と唯笑の姿を見て、少し目を瞠ったと思えば一瞬で穏やかな笑みを浮かべて立ち上がった。


「初めまして。『JoHN』全権代行の城月怜さんと、その補佐の真白唯笑さんで合ってるかな?」


透明感のある声だった。

自然と落ち着くその声と雰囲気に、思わず素直に、そうです、と頷く俺と唯笑に、そっか、とどこか懐かしむように目を細めた彼女は、俺たちに対面のソファに腰掛けるよう誘導した。

俺、続いて唯笑が失礼しますと一言断って座るのを見て彼女も腰を下ろすと、早速口を開く。


「実はね、貴方たちにはずっと会ってみたかったんだ」

「そうなんですか?」

「うん。『JoHN』という名前が素敵だし、もうすでに沢山頑張ってるから」


そんなに沢山頑張っただろうか。

『軍』の一部隊としての期間の任務を換算しても、刹那さんの意向もあって正直、小規模な魔術組織と大差ない実務内容、実績だったと思うが。


同じように思ったのか、唯笑と目が合っては互いに首を傾げた。

俺達に、ふふ、と微笑んだ彼女は「仲が良いんだねえ」と本当に微笑ましそうに、砂糖を煮詰めたような、恋い焦がれた人に再会したような、大切な宝物を眺めるような視線を向けてくる。

赤の他人から向けられるにしては随分と好意的な感情の込められたそれ。しかし気味が悪いとは思えず、どこか気恥ずかしくて視線をそっと逸らした俺達に構わず、彼女は続けた。


「私は、同じ空の下で皆が笑って手を繋ぎあえる未来がほしくて、ここまで頑張ってきたんだ。貴方たちとなら、その夢にもっと近づけるって確信してるよ」

「……過ぎた言葉ですよ」

「ううん。貴方たちは既に、その成果を出している。現に今、私達は会えているからね」


そこでやっと、気付いた。

……彼女は、知っている。俺達の今までのことを。

その場に緊張が奔った。だが、その緊張を解くのもまた彼女だった。


「紹介が遅れたね。……私は、御厨愛知。今はただの魔術師として生きているよ。また、友人になれると嬉しい」


今は?……また?

唯笑に知っているかと目で問えば、唯笑はゆるゆると首を横に振った。しかし、唯笑の警戒は解けているので、余計に分からない。

唯笑の性格というか、今までなら、唯笑が知らない情報なら警戒か不安があったように思うが。

困惑していたら、脳内にノイズが聞こえた。

『伝達』とは違うこの感じ……『アイ』だ。『アイ』から話しかけてくることは全くないが……このタイミングなら、御厨について情報だろうか。

情報が少しでもほしいので意識を集中すると、はっきり聞こえた。


『少なくとも彼女に悪意はない。現に『今まで』介入された試しがない。』


……真の中立的立場ということだろうか?

一先ずそれを信じることにした俺が思考をそちらに戻すと、唯笑と御厨が話し込んでいた。

話に集中していなかったので置いてけぼりになってしまったが、どうも『JoHN』の今後の方針について話しているらしい。

サークル型の本当に小規模な魔術組織として運営していくが、準備が整えば、『軍』とは違った視点で支援を始める予定だ。唯笑は、比較的話が通じそうなタイプの魔術師と判断できる御厨と交渉してその計画を進める気なのか、かなり詳細の部分まで話をしている。たしかに『国際魔術連合』から協力、認可を受けられれば大分スムーズに支援を展開できるだろう。別に異論はないため黙ってそれを見守っていると、交渉は落ち着いて、やがて『休憩にゲームでもしましょう』と提案された。


「ゲーム?ゲームなんてするんですね」

「うん。昔はゲームばっかりしてたから。旧友とチェスをしてた時が一番楽しかったな」

「へえ。強い方なんです?」

「うーん。彼は強い方だと個人的に思うけれど」


彼にはとても苦戦させられることが多かったから、と話す御厨は、愛おしそうに、手元に持ってきていたチェスのポーンを指でなぞった。

チェスなんてやってみたこともないが、嘸かし楽しい思い出だったのだろう。話を聞いているこちらまで微笑ましく感じた。

唯笑もチェスをやったことはなかったらしく、「ごめんね。ルールも知らないし、御厨さんには勝てそうにないや」と一言謝る。御厨もそれに気分を害するでもなく、「大丈夫だよ。じゃあ別のことをしよう」と穏やかに返していた。


……前言撤回しよう。

『国際魔術連合』は国際機関らしくまともだった。

近年稀に見る聖人が、真っ当な経歴を以て全権代行になっている。


御厨と会うまで脳内に並べ立てていた『国際魔術連合』全権代行新任への偏見を掻き消しては御厨に脳内で土下座する俺に、唯笑が伝達で『めっちゃまともじゃん。後で、ちゃんとした意味は伝わらなくていいから謝っときなよ』と詰ってくる。

ごめんって。でも、普通そうは思わないじゃないか。


まあ、唯一不思議なのは、御厨の俺達に対するやけに親しい感じの視線。そして、業務的な面談は終わっているのになかなか帰そうとしない……というよりは話し足りなくてうずうずと落ち着かない様子であることだが。そこまで悪影響でもないので、それは良しとした。


閑話休題。

別のことをしよう、と提案したはいいものの何をどうすればよいだろうかと云々唸る御厨に、唯笑が「じゃあ、御厨さんが魔術師になったきっかけとか聞いてみたいです」と声をかけた。

確かに気になる。こんな聖人が魔術師になるとは、一体どうしてそうなるのか。

御厨は少しぽかんとしていたので、地雷を踏んでしまったのかと不安になったが、それは杞憂だった。


「ああ、大丈夫。それを聞かれるとはあまり思ってなかっただけ」

「そうですか?むしろ御厨さんのような方なら、いろんな方から聞かれると想いますけれど」

「酒の肴にもなるって桜乃さんや拝郷も言ってました」

「そうかな?……実は大した理由でもないんだ。魔術師になれば、会えるかなって思った。ただ、それだけで」

「なるほど。会えましたか?」

「うん、無事」

「それは良かったですね……」


となんでもなかったように話を続けていた唯笑と御厨だが、俺は疑問がまだあったので口を挟んだ。


「なら。最初に話していた、『同じ空の下で皆が笑って手を繋ぎあえる未来がほしくて、ここまで頑張ってきた』というのは?」

「……確かに、そう言っていたね」


唯笑も思い出したのか神妙な顔をして、俺と唯笑が揃って御厨の顔を見つめると、御厨の瞳が少し揺れた。

希薄で重厚、近くで見れば透明で、質量が伴えば青く見える水のような澄み切った気配が、ぐらり、ぐらりと振り子のように揺れる。

動揺しているにしては、少し、感傷的な印象を受けたそれは数秒で戻る。

そして、長いようで短く、短いようで長かった沈黙を破り、御厨は俺達から目を逸らさないままにそばに控えていた事務員にお茶汲みを頼んだ。

お茶が運ばれてきた後、一口それを含んで、御厨はやっとそこで言葉を紡いだ。


「それなら、御伽噺でもどうかな。貴方たちの『努力』へのお礼に」

「……それは、さっきの質問の回答になりますか?」

「うん。長話になるけれど、時間は大丈夫かな?」

「えっと、」


予定帳をめくる唯笑に構わず、俺は是と返した。

咎めるように唯笑が俺をジト目で見たが、俺はこれを聞いておくべきだと感じたから仕方ない。

唯笑も俺が梃子でも折れないことを察してか、はあ、と少しため息をついて、仕方なさそうに予定帳を仕舞って視線を御厨に戻した。

御厨はありがとうと一言述べた後、ゆっくり深呼吸をして語り始めた。


「そう。これは、遥か遠く昔の物語。天地を裂き、全てを消し去った大災害」

「……」

「誰の記憶にも、記録にも遺らない。それでも、私だけは忘れない物語」


そうして『御伽噺』が始まった。

すぐに、1話目もあげます。

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