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同じ空の下で  作者: 桜油
8章・終章
113/140

モノローグⅣ

こんにちは。


今日は???の視点からです。


では、どうぞ。

最初はどのくらい前のことだったか。


何回も世界は繰り返され、その度に世界が、時空が歪んでいく。

そんな中、ワタシはいつの間にか『ワタシ』としての自我を得て、『ワタシ』を『決意』という『異常性』として『高式暁』が行使していることを知覚したのが全ての始まりだった。


暁は、どこにでもいる普通の少年だった。


たしかに、背景は、経歴こそは普通とは程遠いものだった。

ある少年のコピーとして造られ、偽の記憶を植え付けられ、血が繋がらず、それどころか『道具』としか認識していない赤の他人を、実の両親から真の愛情を受けて育ったと認識していた。魔術師として育成され、自覚もないまま『教会』に利用され、自我を『実現の魔女』に塗りつぶされ、世界を滅ぼし、挙げ句の果てに実の妹を殺してしまう。

だが、暁は、感情が希薄でありながらも、その実真剣に、『こんな自分だって幸せになれるはず』と、『立派な魔術師になれば、いつか胸を張って自身を誇れる日が来る』と信じていた。

そして、理想と現実の差に心を押しつぶされ、絶望と失望に染められた。

そんな、普通、平穏を夢見る。普通の少年だった。


暁は、『ワタシ』の存在など望んでいなかった。

それはそうだ。『ワタシ』さえいなければ、暁は普通に人並みの幸せを得られただろう。『ワタシ』の存在が、暁の出自そのものが、暁を呪っていた。暁はずっと望まない人生を送ってきたのだから。


『ワタシ』は所詮、単なる『異常性』でしかない。

『ワタシ』を望まないのであれば、本領発揮など出来よう筈もない。

『ワタシ』が『ワタシ』としての力を振るったのは精々、暁が記憶の限り世界を再現することを願った時くらいだった。


それだって、明日に希望など見いだせなくなった暁が、今度こそ、という切実な願い、自分を利用した魔術師が自分を利用しても尚果たせなかった役割を果たせたら、という健気な祈り、正気に戻してくれた彼女くらいは助けたい、という同情心だけであとは空虚なものだった。

それだけで、世界は繰り返され続けた。

そして更に歪んでいき、愈々後が失くなっていった。


……5回前。とある変化が起こった。

とある女の子が、生き残った。暁は、その少女に力の一部を託した。


暁は、毎回自分に酷く失望している。

その回も例に漏れず、暁は自分に自信など欠片ほども持てなくなってしまっていた。そして偶々、もう一人生き残りがいたものだから……その女の子に無責任に世界の命運を託してしまったのだ。

道連れなのか、妹への情けか、自分が殺そうとした少女に何か想うところがあったのか。きっと全部だ。


そこからも繰り返し続けた。


そして『今回』。


『今回』の『高式暁』は……彼女の『令呪』と世界の法則が辻褄あわせをしたからか、身体ごと『城月怜』と入れ替わり、城月怜として生きることになった。

それ以外はあまり変化がない。

彼女が傍に寄り添ったからか、彼女に対しての感情が深いこと、仲間や信頼できる大人に囲まれて育ったことが大きな変化として挙げられるけれど……まだ、『自分』を認めることができていない。彼女が自分を信じてくれているから歩み始めているだけだ。彼女がいなければ、簡単に心が軋み、壊れるだろう。


……でも。


『『愛』。『I』とも『Identity』とも解釈してもらって構わない。俺が行使している力は、『初回』以降の『俺』を支え続けて、唯笑と出会う場をくれたこの『自我』も含めて、『アイ』』


貴方は、ワタシを必要としてくれるのですね。


『『アイ』』


ワタシの名前。

数多くある『異常性』、何万回も何億回とも、永久とも思える時間の中で存在した全ての『ワタシ』の中でも、ワタシしか持っていない、ワタシの、ワタシのためだけの名前を、貴方はくれた。


大切な少女を喪って絶望の奥底に沈み、失意に呑まれてしまった貴方に、『ワタシ』は手を差し伸べるくらいしか出来なかった。なのに貴方はワタシを見留め、名付け、『今まで』の『ワタシ』すら受容し、 望んでくれた。


決めた。ワタシは貴方の為に稼働する。

彼が思い描き、願い、望むままに、その名前のとおり『ワタシ』らしく『愛』の力で全ての障害を克服し、打破し、実現しよう。全力以上の成果で応えてみせよう。ワタシは、貴方のためだけの『チート』だ。


……だから。


世界を救って、『実現の魔女』を打破して、その代償に消失して終わりなどという結末は認められない。

妹や大切な女の子の未来を願ったのは違いないけれど、『自分に幸せになる資格などない』と心の奥底で想っているから、拭えない傷が深くて、『自殺』に近い方法を取ったのでしょう?


何回も繰り返して、知りたくもなかった事実を知って、殺したくもない相手を殺さざるを得なくて、それで傷ついた心を癒やすことなどワタシには到底できない。


声があったなら、貴方のそんな悲しみ、苦しみを全て抱いて叫んで喚いて嘆きたい。


手があったなら、貴方の背負った傷ごと抱きしめたい。


でも、貴方は強い。大切な仲間のため、自分の夢のため、大切な女の子のために、しっかり傷つきながら、前に進んでいけるだけの強さを、覚悟を貴方は持っている。きっと、もっと時間さえあれば、貴方は貴方が勝手に貴方のやり方で幸せになれた筈だし、この暗闇の中でも今までの思い出を胸に、穏やかに消えていくのだろう。


それならばいい。寂しいけれど、それで構わない。


だけどね、怜。


もし、涙が溢れてしまう時があるのなら。

貴方の痛み、辛さ、弱さ、その心を、ワタシの無力で、非力で、穢れた腕で抱き締めさせて欲しい。

肉体を持つことが赦されるなら、一緒に居てあげるくらいはしてあげる。


ワタシは無力だ。真白唯笑のように、貴方の心を掬い上げることはついぞ出来なかった。

ワタシは貴方の神様になどなれなかった。

それでも、……それでも、無力なワタシで、貴方を救いたい。


……否。


見つけた。ワタシにもできることが、1つだけあった。


ワタシは『愛』。貴方の『異常性』。『実現の魔女』が出来たのなら、世界を騙して騙して騙し続けて、ついに嘘を本当にまでしてみせたワタシだってできる筈。

『実現の魔女』は『お疲れ様』と言ったけれど、ワタシは言わない。


どうか、どうか。


今まで散々汚い大人に利用されてきた貴方が、貴方らしさを大切に、世界を救った悲劇の英雄などではなく、ただ一人の男として平穏を謳歌できますように。

貴方が貴方を心から認め、誇れるようになる日が来ますように。

貴方が大切な人と、100年同じ空の下で笑えますように。


貴方の栄えある未来を、ただ祈らせてほしい。

貴方の前途ある未来に、祝福を。


……ほら、怜。目を開けて?ワタシを見て?

後から来た『高式暁』も、『君と一緒に寝るのはごめんだ』って苦笑いしてるよ。『お前はお前のいるべき場所に帰れ』って微笑んでる。


だから、一緒に生きましょう。


ワタシ、貴方と過ごすこれからが楽しみなの。

最後の伏線回収。

三人称一元視点、と見せかけて、実は語り部が『アイ』でしたというお話。

城月怜の一人称視点になったのはいつからでしょう?


いろんな作品にいろんな影響を受けてこの作品は変容してきました。

ようやく形がまとまって執筆し始めたリメイク版の本作ですが、いよいよ、次回、本編最終回です。


最後まで、拙作をよろしくお願いします。

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