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同じ空の下で  作者: 桜油
8章・終章
112/140

106話

こんにちは。


真白唯笑視点のモノローグと、高式暁、城月育の会話です。


では、どうぞ。

目の前で、怜が消えた。


途端に怜の魔力供給がなくなったからか『結界』が解除され、私はさっきまで怜がいたところへ慌てて駆け寄ったけど、彼はまるで最初からそこにいなかったみたいに何の痕跡もそこにはなくて……目の前が真っ暗になって、足に力が上手く入らなくて、膝から崩折れる。


怜は、多分、最初からこのつもりだった。

だから、ちゃんと帰ってきて欲しいという私の願いには明確な返答をくれなかった。


暁の身体を殺さず、『実現の魔女』だけを確実に殺すつもりで、でもそんな器用なことをするには、『容赦』すら克服した『実現の魔女』には『令呪』1画じゃとても足りなくて、『令呪』2画と『異常性』の駆使をせざるを得なかった。


私が止めたって、これ以上の策はきっとなかったと思うから。


……ねえ、怜。


覚えてるかな、最初に出会ったときのこと。


怜の境遇を、本音を聞いた私はね、君に報われてほしいと思っちゃったんだ。


最初は、『ずっと前』の君からお願いされたし、育ちゃんに報われてほしかったし、そもそも私も世界が滅ぶなんてゴメンだと思ったから、世界を救おうとしていた。『君』を警戒して、大して調べもしていなかった。

正直、君よりも他の人と深く関わる人が多くて、その度に『幸せであって欲しい人』は増えていく。


私1人で救うにも限界があるなんてこと分かりきっている。


それなのに……君の話を聞いて、同情してしまったんだ。


だから、君と暁が戦う理由を失くすという計画を推し進めつつ、もっと君の観察ができないかと思って『城月怜』の経歴を洗い直したり、綴ちゃんに彼の話をして、なんとか自然に関わりをもってもらうようにお願いして、綴ちゃんから君について色々聞いたりしたものだよ。


そして、いざ『今回』会ってみたら、君はとても気障なセリフを言うようになっていた。

でも、君なりに私を励まそうとしてくれてるのが分かって……気づいたら、好きになってて。


好きになった私は、怜を笑わせたいって思った。


だって、怜は育った環境の影響で感情が希薄で。楽しいとか、嬉しいとか、そういった感情も感じられないのか、笑顔を浮かべる時にどこか作って貼り付けたような印象が拭えなかった。だから、心の底から、笑ってほしくて。


もし、誰もが、関わった全ての人の幸福を祈れたのなら、怜ももっと感情を育んで、人並みの幸せを得られたのかもしれない。自分と向き合って、自分だけの夢を見つけられるかもしれない。


そんな想いは、時を重ねるごとに積み重なっていった。


そして。


『諦めなくていいんだな』


やっと、君は笑ってくれた。

これで、後は世界を救って、怜は自分なりの幸せを享受できる。


そう、信じていた。そう、願っていた。


けれど、私のその考えはいとも容易く打ち砕かれた。

私は、怜に諦めさせてしまった。

『……些か心外だが』と彼は確かに言っていたのだから、私は怜の手を離さずに強く捕まえるべきだった。


私は結局独りで自己満足していただけ。怜のためとか言って、これじゃまるで嘘つきじゃん。


「怜……」

「暁!!!」


小さく呟く私の横で、育ちゃんが気がついたのか、暁の元へ駆け寄っていた。

私は、それをぼうっと眺めた。


膝に手をつき、ぜえ、ぜえと大きく肩を揺らした育ちゃんが息を整える間、暁は淡々と喋り始めた。


「育……残念だったな。僕は、全力を尽くして臨んだ大一番で敗けた。『僕』の贖罪は、果たせず仕舞いだ」

「……っ」


育ちゃんは、『贖罪』という言葉に顔を顰め、口を開く。

が、その瞬間に暁は笑ったから、育ちゃんは少し驚いて、ムキになったように「こんな時に笑わなくたって」と拗ねた振りをした。


「ごめん。そういうつもりはないんだ。皆ボロボロだなって思っただけ」

「……」

「僕のせいなのは分かるけど。戦うことに意味はなく、護るべきものがあっただけなんだよね。結局」


なんて言って苦笑いを浮かべた暁に、育ちゃんは言葉を紡ぐ。


「お願い、暁。『否定』でなんとかするから、消えないで」

「駄目だ。それじゃ育が消えちゃうし、僕にそんな権利は無い。そもそも、僕が独りこの世界に遺ったところで、僕は何を想えばいいのさ?」

「……けど、それじゃあ!」


育ちゃんの珍しく強めの語調。

暁も私も意外に思って、育ちゃんのほうへと振り返り、……目を瞠った。


「それじゃ……いつまで経っても、今ここにいる暁は救われないじゃん……」


育ちゃんは、涙を流していた。

別れる寂しさ、消滅するという悲しさ、そして何よりも大きい、暁の心の痛みを想ってのそれだった。


暁はそれをしばらく呆然と眺めた後、頭を掻いて、「困ったな」と呟いた。


「『僕』の『罪』について悩んでいた僕が馬鹿らしい。……怜が言っていたのって、こういうことだったのか……早く気づけばよかったなあ……」


暁はどこか晴れ晴れとした表情で、育ちゃんをまっすぐ見た。


「育」


その声は、どこか甘く、温かく、包み込む陽だまりのような穏やかさを持っていた。

育はその声に反応して暁を見る。暁はそのまま想いを託し始めた。


「『僕』……『僕』の『偽物』という『本物』な彼を頼むよ」

「……え、」

「見てのとおり。やっと『心』を知り、外の世界に興味を持てた頃か。だがまだ頼りないところもある。そしてそこの相棒も裏社会に生きすぎて、平穏なんてほぼわからないだろ。平穏な生活どころか裏にどっぷりな生活を彼奴に過ごさせる馬鹿だからな。お前なりに、支えてやってくれ」

「暁……」


育が考え込んでいる間、暁は私に少し視線を流しながら、独りでに語る。


「怜は、消えていない。しばらく時間はかかるが、必ず帰ってくる。『実現』はあんなこと言ってたけど、僕はそんなことないと思うんだよね。待ってたらいつか『よっ、元気?』って感じできっと来るよ」


それは、私の背中を押すような言葉だった。

そして、育ちゃんは、意を決したように頷いた。


「……分かったよ、暁。私、頑張る」


育ちゃんも背中を押されたのか、泣きながら綺麗に笑っていた。


「暁みたいに自分が嫌いすぎて見失ったりなんてしないように、私、頑張るよ。こんな、本音を押し殺して自己犠牲に奔るような真似を今後しないように頑張る。……だから、だから、暁も!」


育ちゃんはそう訴えかけた。暁は穏やかに微笑み、ふう、と息をついて、ほぼ消えかけの透明な身体で、太陽が出るその直前の朝焼けを背に。


「大丈夫だよ、育。僕も、これから頑張っていくから」


暁は最期にそういって姿を消した。


闇の去りゆく暁。

大切な人が身を挺していなくなってしまった世界で、私と育はそれぞれ、独り想う。

スピンオフを書き始めましたが、

本編にあまりにも絡まない蛇足のような物語なので、

いっそ別作品として投稿すべきか悩んでます。


でも、

5年前に書いて、エタって、最近一部だけようやく発掘できたものを一から書き直せると思えない。今からガッツリ書き込んでもきっとエタる気がしますし、なんなら『Re:Call』シリーズの設定に今から差し込むのも割と無茶な気がする。


とか悩んでたら、差し込めそうな気が唐突にしてきた。あそこに入れて、あれを短編ではなく作中のモノローグ部分にしてしまおうか?みたいな。


……いや、やっぱエタる方が問題あるから、ここはグッと我慢して大人しくスピンオフにしますです、はい。

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