105話
こんにちは。
最終決戦です。
『実現』が、夥しい量の『魔装』を展開する。
俺をめがけて生成された武器が目にも止まらぬ速度で迫ってくる。
『身体強化』を使っていても目測が精一杯なほどの勢いだ。
避けたところで、『実現』の効果で軌道を逸らされて当たってしまうのだろう。
通常であれば、だが。
俺も『魔装』で剣を生成し、 1つ目を弾く。2つ目をもう片方の剣で止め、3つ目も弾いた後に大きく後ろへ跳んだ。4本目、5本目が床に落ちたが、まだ沢山の『魔装』が俺に迫っている。……が、俺が何もしなくても、勝手に『魔装』が展開されて、全て相殺してくれた。
「……なんでだよ」
「分からないか?」
『実現』が心底不可解だと言わんばかりに漏らした一言に、俺は持論で返す。
「『実現』。願ったことを全て実現させる力にして願望機。ああ、たしかに干渉力はこの上なく強力だろうさ」
「……」
「だが、お前のその力は、さっきも言ったがどこまでいっても他力本願なんだよ。自分で夢を叶えない以上、何も背負うことがない上っ面だ。ぶつかりあった上の成長も、出会いも、別れも何も無い。俺と同等の半端者だということさ」
「……夢を叶えるためならば手段など択べない、そう感じただけだ」
「だからって他人に委ねていいのか?それで約束を果たしたって、その自分は大切な誰かに誇れるのか?」
そう問いかけると、『実現』は酷く顔を顰めて怒った。
「煩い、煩い煩い!黙れ……っ!」
……やはり、先程から高式らしくない。
『容赦』すら『克服』し始めたのか?それで『実現の魔女』が主導権を握りやすくなったと。
だが、どうでもいい。どちらであったとしても、俺は倒すだけだ。
『実現の魔女』は更に多くの『魔装』を展開する。俺は構わず疾駆し始めた。周囲では、俺の意図に合わせて『魔装』が弾かれている。俺の奔るルート上の『魔装』だけを剣で弾いていく。内2本を『実現の魔女』の方へ弾かれるよう『循環』で誘導することで、『実現の魔女』の周りに土煙があがって視界を遮った。狙いが若干ぶれた間を縫い、その煙に紛れて『縮地』し、切払って『実現の魔女』のすぐ目の前で剣を振り下ろした。
『実現の魔女』がとっさにそれを受け止めるも、かなり拮抗していて火花が散っている。
「おかしい、こんなはずじゃ……っ!『僕』は、こんな『偽物』に、っ、」
「お前がちゃんと『高式暁』だったら、お前に太刀打ちできない。『高式暁』も『愛』している対象がいて、きっとその想いは深いだろうから」
俺の言葉に青筋は浮かべているが、返答するほどの余裕はないのか、冷や汗を流したまま剣を受け止め続けている。
俺は続けた。
「だが、『お前』が相手なら。『愛』を知って、『俺』自身を信じることができて、『相棒』もいる俺のほうが、一歩先をいく!」
そう叫びながら、『実現の魔女』の剣を破壊した。
『実現の魔女』は大きく身を仰け反り、目を見開いて驚愕していた。
だがそれも一瞬のことで、『魔装』を再度展開してデタラメに「クソがクソがクソが」と振り回した。それをしっかり丁寧に受け止め、最後に大きく弾き飛ばす。
『実現の魔女』はまた目を見開き、顔を怒りに染めて「クソ!」と絶叫しながら『魔力撃』を展開し、軌道を読めたのであらかじめ当たらない位置まで移動した。瞬間、光線が縦横無尽に奔る。
難なく避けた俺を見て忌々しげに「……まさか本気にならないといけないとは」と呟いた『実現の魔女』は、『魔装』を再度展開し始めた。
やれやれ、高式との戦いの方がパターンが多くて心躍ったな。
剣を構え、向かってきた1つ目の剣を斜め上から下へ弾き落とす。もう片手の剣で2つ目を払い、左右交互に動かして全ての剣を弾き、払い、飛ばしていく。そして、青白い光が俺の身体から出て、『実現の魔女』が展開した『魔装』の魔術式を無効化してくれる。
そうだ。
もう唯笑も繰り返さなくて良い、泣かなくていい、同じ空の下で笑い合える。
そんな未来が俺は欲しい。
だから、何が何でも勝つんだよ。
雄叫びを上げながら、『身体強化』『風来』を略式展開し、全身して一気に距離を詰めていく。
『実現の魔女』は苦々しげに歯ぎしりをして、再度『魔装』を展開して一斉に放射する。それも、左右に握った剣でひたすら弾き落とす。身体を前転させながら弾き、回転しきって着地し、また疾駆する。距離が近づくと苛烈になっていく弾幕も、全て剣で弾き飛ばす。
さすがにパターンを変えようと思ったのか、やっと『魔力撃』のビームが飛んできて俺のすぐ目の前で大爆発が起こったが、青白い光に包まれて無傷のままだった。大きく立った煙に紛れて『浮遊』『風来』で跳躍し、『魔力撃』を沢山、まるで流星群のように展開した。これもまた青白い光を発している。
煙が晴れ、はっと『実現の魔女』がこちらを見上げた。
「『アイ』」
合図はそれだけだった。
俺の一言でその流星群は起動され、『実現の魔女』の元へ降り注ぐ。
『実現の魔女』は避けようとしたが、俺が剣を投擲して『実現の魔女』の影に差し、更に『心象操作』で魔術を使えないように干渉したことで『影縫い』の状態になり身動きが取れなくなり、躱せずに直撃していく。
『障壁』を展開するのも見えたが、
「無駄だ」
「ぐっ……!」
その『障壁』すら貫通した。
更に『循環』を展開、『実現の魔女』を重力でしばらく押しつぶし、突如として無重力に変更する。『実現の魔女』は『影縫い』の状態を抜け出していないため、地に足が紙一重ほどつかない、もはや浮いているか浮いていないか目視では判断できないような低さでふよふよと浮かぶ。
致命的な隙を『実現の魔女』は晒した格好となった。
流星群に直撃した後に踏ん張ることすら出来ず、身体は回転して三半規管がかき乱されていく。
そして、『実現の魔女』がボロ雑巾のような状態になった頃、ようやく流星群は止んだ。
喜色満面で『実現の魔女』が俺を見て、交錯した視線は一瞬。
「たとえ月が堕ちたとしても、俺がまた同じ空へ連れて行こう」
「は、」
その一瞬で、『実現の魔女』の表情は呆けたものになった。
再度、流星群が再度浮上し、益々大きくなって、光の軌跡として『実現の魔女』を貫いた。
腹部に大きな穴が出来、『リンク』の魔術式が大きく歪む。
『実現の魔女』が痙攣しながら、牛歩の速度で『回復』を展開するが、構わず俺は手を止めて口を開く。
「ここまでやっても、だめか」
「……」
「まあ、分かっていたとも。『実現の魔女』をここまで圧倒しても、止めを差しきれないことは」
「……」
「『実現の魔女』に対して非情になりきれたら、ちゃんとお前を殺せたんだろうな。だが、どうもお前に対して情けが残っている俺が心の隅にいる」
「……」
「なんせ、お前は高式の身体を使っている。何とか彼奴の意識を戻して、育と会話をもう一度させてやりたいんだよ。彼奴が消えてしまうとしても……このまま殺したって、育は報われない。前を向けない。俺は、関わった全ての人に幸せであって欲しい」
「……」
「だから、……些か心外だが、俺も付き合おう」
残り10歩。
そう呟き、『容赦』の『令呪』を意識しながら『魔装』を展開する。
9歩。
『実現の魔女』の『回復』は青白い光に妨害され、苦し紛れに『魔力撃』が放たれる。
だが、痛くも痒くもないそれを躱すこともなく、着実に一歩を進める。
8歩。
『実現の魔女』が、掠れた声で必死に口をパクパクさせる。
なんとなく、読唇術で言葉を読み取った。
『何故だ、何故お前はそこまでして戦える!』
7歩。
「神の玩具でしかない人形が!」
6歩。
「何故、そこまで、他人の為に戦える!」
5歩。
「お前を形作る全てが、所詮偽物だぞ!?」
4歩。
「そもそも、お前はその行動の意味が理解できているのか!?」
3歩。
「『愛』がどうだとか宣っているが、『令呪』を使えば『愛』も『決意』も関係なくお前は消える!この男がここに在るのも、『私』があくまで『実現の魔女』という別人格だからだ!」
2歩。
「ましてやこの『私』を殺すのだ!間違いなく『愛』も駆使する!そうなれば、覆せまい!お前の『愛』も所詮は『システム』でしか無いからな!」
1歩。
「どうでもいいな」
そう切り捨てた。
そりゃ消えなくて済む未来があれば最高だが、ソレ以外の選択肢などない。
それならば、俺はこの場で『実現の魔女』だけを殺せたらいい。
それで唯笑がこれ以上繰り返さずに未知の未来へ踏み出せるのなら、きっと素晴らしいことだろう。
「確かに俺は偽物かもしれない。でも、唯笑に対するこの気持ちだけは本物だと信じられる」
0歩。
俺は右手に構えた『魔装』の剣を胸元の魔術式へ突き刺した。そして、『容赦』の『令呪』を2画分消費し、強く、強く、祈りを込める。
「1つだけでも大切なものが胸にあったなら、長い夜だって超えられる!」
俺の身体は薄れていく。『リンク』の魔術式は破損し、高式の身体も薄れ始めた。
「俺の、勝ちだ」と言えば、高式が悔しそうに、「……認めよう。僕の、敗けだ」と呟いた。
これで終わった。
辺りを見渡せば、唯笑が『結界』の向こうで、『やめて』『いかないで』『消えないで』と必死に、涙を流して叫んでいるのが見える。
俺は力が抜けて、『魔装』を解除して手を軽く振った。唯笑はより一層泣きじゃくった。
久々に見るな、あんな泣きじゃくってるの。
そうして、身体は完全に消えていった。
意識が暗転する。……先程とは違い、どこかその闇は暖かかった。




