99話
こんにちは。
昨日は忙しかったです。
では、どうぞ。
「君は、たしかに絶望していた。けれど、僕には幸福で、平穏であってほしいと願ってくれていた。僕はその願いに心を抉られた。だって、僕は君の不幸を願って奪ったというのに、君はそんなの知りもせずに健気に僕の幸せを祈ってくれていたってことだろ」
「暁……そんなの、もういいよ……」
「良くない。いいから、最後まで聞いて?」
育もどこか思うところがあったのか、高式の話を強引に終わらせようとした。
だが、高式は育の内心を知ってか知らずか、話をやめない。
「捨てたはずの過去、罪の記憶にずっと苦しんできた。育のことが悪くて仕方なかったはずだったのに、思い出した後は酷く心が痛かった。……自業自得だよね。ざまあない。けれど、君が泣く度に僕が笑ったことに違いはなくて。僕の幸せが君を呪うんじゃないかと思うと、僕は『僕』が恐ろしくて仕方ない」
「暁!」
「……分かってるよ、育」
高式は、ふと育に視線をあわせた。
いつの間にか、2人の抱きしめていたはずの距離感は離れていて、育が高式の手を取ろうとするのにそれを避けるように更に距離をじりじりと広める高式の姿に、育の提案を高式が断るつもりだと、交渉は失敗すると、否が応でも理解させられた。
何も分かっていない。が、理解させてしまえばまだ後戻りできるかもしれない。
そう思っていたからこそ、高式の次に発した言葉に打ちのめされた。
「きっと、……きっと、僕のこの昔話を聞いたって、育はびっくりするだけで、ソレ以外の気持ちなんてきっとなくて。……本当は全部、分かってる。分かってるんだ……っ」
「暁、」
「でも、駄目なんだ!……育は、優しいから……きっと、これから先も何事もなかったように接してくれる。『そっか』って言って終わりにしてくれる。ヒロだって同じようにするさ、当たり前に、いつものように、3人で馬鹿騒ぎできる…… 次の日も、次の月も、次の年でも、きっと変わらない。育の手を取ってしまえば、また3人で笑い合える未来が、きっとそこにある。……嘸かし、きらきらしいだろう。そう、思わせてくれる……っ」
「……」
「でも、僕は……そうやって気を遣われての関係でいてもらうだけの価値はあるのか、って。あったとして、それは果たして『本物』と言えるのか、って。そもそも僕は、『僕』の罪を贖って、償わない限り、僕は僕を、『高式暁』として生きられないことが……どうしようもなく、嫌なんだ……!」
「そんな、そんなこと、」
「ごめん。向き合えなくて、ごめん。君がくれたものは全て返すから……さよなら」
そう言って、高式は光を発した。
「嘘、『令呪』なんていつの間に、」
唯笑が酷くうろたえる。
「暁、それは、……そんなことの為に使ってもらうための『令呪』じゃないよ!」
育が止めようとして、高式の手を取ろうと必死に足掻くが、高式は『風来』で育を吹き飛ばしていた。咄嗟に受け身を取って転がる育だが、『魔装』のナイフが影に刺さったことで『影縫』が成立して身動きが取れなくなった。
俺は、ただじっと高式を見守った。
きっと、桜乃さんたちと、拝郷の犠牲が無駄になる。そんな致命的なことが起こる。
だが、もうこれは本人の受け取り方次第の問題だった。誰も悪くない、間が悪かっただけ。強いて言えば、高式がもう少し早くその話をしていれば、もう少し時間が在れば、話し合いの余地はあったように思う。だが、それも結局はたられば、意味のない仮定でしかない。
だから、臨戦態勢をとった。もう、策を弄するより正々堂々、真正面から戦わないとどうしようもないことだと理解できたから。
やがて、白い光は止む。胸元に『リンク』が復活しているのを見て、「そんな、」と唯笑が言葉を漏らす。
育は「ごめんなさい……ごめんなさい……」とひたすら謝っていて、まともに会話できる状態ではなかった。
俺が口を開く。
「……『実現』の力を取り戻したか」
「そう。……今の状況ならば、僕は制御できる。これで僕は、『僕』の罪を償えるわけだ」
「せめて最後だけでも育が明るく、『本来の環境』で生きられるように元通りにするってことか?」
「うん。……止めるか?」
「まあ。それがお前の決断なら……俺も自分勝手に、力ずくでお前を止めるだけだからな」
「そっか。……これはただの我儘なんだけど、聞いてくれる?」
「何だ?」
「分かってると思うけど、僕は育を戦わせる気はないよ」
「なるほど。じゃあ、こうしよう。……唯笑」
隣にいる唯笑に声をかけた。唯笑は取り乱した様子ながらも、俺の方を見た。
「何……?」
「先に聞いておきたいんだが。言っていた嫌な予感って、これのことか?」
「え、……わからない、かな。これかもしれないけど、その割にはどうも引っかかることがあって」
「そうか。教えてくれてありがとう」
「……戦おうとしてるの?」
「戦うしか選択肢がないからな。それも、俺と高式のタイマンじゃないと、どうも高式は満足しないらしい」
「ちょっと待って!私は、」
俺は唯笑を『風来』で壁際まで吹き飛ばし、着地点に『魔装』のナイフを投げた。唯笑がそれを避けようとしたが、すかさず『決意』で強化して身動きを取れなくする。
「駄目だよ、怜!もっと、せめて一緒に!」
「ごめんな、唯笑」
唯笑の周りに『結界』を張って、何があっても傷つかないようにかつ、声がこちらに届かないよう細工したことで、唯笑の声は届かなくなった。
高式はどこか上機嫌だ。
「ほら。ご要望どおり、これで俺と高式のタイマンでの決闘ができるぞ」
「うん、ありがとう。あとは紳士協定として、互いに相棒には手を出さない、ということでどうかな?不慮の事故も無しだ」
「乗った」
そうして、俺たちは互いに向かい合った。
しばらくの間、沈黙が流れた。それを断ったのは、高式だった。
「僕は昔から、君が大嫌いだったよ。家族に愛され、友人に慕われ、世間に認められている。僕が死にもの狂いで築き上げた居場所を壊すし、仲間を殺すし。自分の命を賭けてでも仲間を守ろうと思ってたら、真白に作戦を提案されて……そちらのほうが勝ちの目があったから乗っかって、実際に会ってみて、機械的なやつだなって思ったんだよ。あんな恵まれた環境にいながら、何でそんな無感情なんだ、って。化け物のように思ってた」
「……」
「……でも。実際に君と入れ替わってみて。君の置かれた環境を目にして……酷く、気持ち悪かった。そして、君は君なりに、愛とかは無くても情けくらいはあったから、僕との一騎打ちに乗ってくれたんだと感じたよ。今みたいにね」
「……」
「けど、だからこそ、僕は君が更に嫌いになったよ。『僕』の『罪』を思い出してからは、猶のこと」
「……」
「君に、僕のことなどきっとわからない。思い返すほど誰かに愛されたことも、寄り添っていいほど心を許しあえたことも、分かり合えるほど言葉を話せたこともない僕のことなど、明確に愛してくれる相棒がいて、寄り添えるほど心を許せる仲間もいて、分かり合えるほど言葉を重ねる機会に恵まれていた君に分かるわけがなかった」
「それは……『前回』の宥や有希、紗季、『今回』の育はどうなるんだ?」
「……僕は、彼らに相応しくない。それだけだよ」
俺の言葉に苦しそうにそう答えた高式は、続けた。
「それでも、君には僕が理解できると言うのかな」
「……」
答えることは出来なかった。
似たような環境に『前回』は身を置いていた。
だが、感情を育むことはできなかった人間もどきだし、『罪』にはあまり関係ない立場だからそこまで罪悪感に苦しむことも無かったし……そもそも、似たような喜びはあっても、同じ悲しみなどきっとないから。
そんな内心などいざ知らず、高式は締めくくった。
「仮に理解できたとしても。……僕は、『僕』の贖罪の為に、今からありとあらゆる手段を講じて君を殺すと決めた。だから、君も僕のことを赦してくれるなよ」
「……分かった」
高式の宣誓が終わった頃には、俺も、高式も、『強化』や『魔装』、『魔力撃』などの魔術式の展開を終えていた。
今から殺し合うというのに、高式は笑っていた。高式だけじゃなくて、きっと俺も笑っていることだろう。
高式は口にはしていないが、『否定』の『令呪』を『リンク』を取り戻す為に行使して全画消費した。だが、『実現』の力でとどまっている。高式に負けを認めさせられれば、彼は消えるはず。それだけを念頭に、戦闘へと思考を切り替えた。
そして、戦いの火蓋は落とされた。
そういや、スイッチ2、とりあえずニンテンドーオンラインで予約抽選に応募してみました。
通ると良いな。




