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同じ空の下で  作者: 桜油
8章・終章
103/140

97話

こんにちは。


昨晩果物ナイフで人指し指を切って絆創膏貼ったのでめっちゃタイピングしにくいです。


それはさておき、どうぞ。

『おい、バカップル』

「バカップルとは何だ」

『何を普通に返してんだよ?『伝達』は続いてんだ、一々展開し直すのも面倒だからな。で、さっきまでの会話は丸聞こえ』


突如として降ってきた声に思わず普通に言葉を返せば、桜乃さんの夫の方が呆れたようにそう愚痴た。


……丸聞こえ……内容は筒抜けだったのか。


顔に更に熱がこもるように感じて、手をパタパタと振って顔に風を送った。『風来』のほうが効果的なことに少しして気づき、動揺しすぎだろ、なんて思いながら展開した。

唯笑にいたっては、あまりにも恥ずかしすぎたのかフリーズ、ショートしている。


『……勝手に聞くな』

『無茶振りがすぎるだろ。勝手に頭に流れ込んでくるだけだっての』

『ふふふ。でも素敵よ。すごく素敵。とてもお似合いね。怜くんはクールながら優しい男の子。唯笑ちゃんはとても明るく活発で、がんばりやさんな女の子。こんなに素敵な2人が好い関係なんて、心がぽかぽかしてくるわ。貴方もそう思わない?』

『……否定はしねえよ。まるで昔の俺達みたいだなって思っただけ』


なんか褒め殺されながら辱めを受けた。

ひどく照れくさくなっていれば、『よォお二人さん』と拝郷が久々に喋った。


『お前まで茶化す気か?』

『ちげぇよ。無事ステージが始まったからオレはそっちに行くんだっての』


という言葉に、唯笑はハッと時計を確認する。

作戦開始からまだ1時間も経過していない。


『早くないか?』

『どうも、この状況やべーってなってショー開催を早めたっぽい。まあ多少作戦に変更は生じたが、あまり支障はねえからな』

『本当かよ』

『マジマジ。ちょっとやべーかと思ったけど、……2人とも、覚悟決まったっぽいぜ?』

『覚悟……』


何の覚悟だ、と尋ねようとした瞬間に、桜乃夫妻から切羽詰まったような声で『伝達』が再度入った。


『おい、『実現』が来たぞ!』

『おっと。じゃ、動きますかね。手筈どおりに頼むぜ?桜乃さん』

『ああ。そっちこそマジで頼むぜ?』

『お願い。ちゃんと、怜くんたちに無茶させないよう動くのよ?』

『へいへい、任されました』


と拝郷が言い残して黙った。

桜乃さんたちは『私達も、そろそろね』『そうらしいな』と口々に言い、『おい、ガキ共』と語りかけた。

……何となく、その意図を察した俺達が黙ると、桜乃さんたちは少し湿った声で続けた。


『息子と娘は、優夢(ゆめ)咲良(さくら)って名前なの。2人とも音楽が好きでね』

『優夢は真面目で、誠実な一人前の男だ。初恋の女が自殺で死んでから少し塞ぎがちだが、それでも何とか立ち上がって進んできた。大学受験間近だが、妹思いだから、多分進学せずにどっかで働いて学費を稼ぐだろうな。一応そこそこの金を貯金はしているはずだが、遠慮して手を付けない可能性まである。魔術を使えるから、魔術組織に入るかもしれねえ。彼奴に裏は似合わねえから、変なところに入ってるようなら引きずり出してやれ』

『咲良はね、明るくて活発な女の子。お兄さんのことが大好きで、お兄さんにあこがれて音楽を始めたのよ。今は志瑞くんたちの音楽も好きみたい。それでね、歌がとても素敵。きっと将来、世界的なアーティストになるわ。お兄さんがいなくなったらとても寂しがるでしょうから、2人のことを見守ってくれれば嬉しいわね?』

『ああ、だけど余裕があればでいいぜ?2人は今までしっかり育ててきた、2人で支え合って生きていけるだろ。だから、お前らはお前らのために生きろよ』


ああ。やっぱり。唯笑の想像は的中してしまった。

だからと言って今更止める言葉などない。止めたところで、どうしようもない。本人たちの匙加減で、本人たちはいつでも消えてしまえるのだ。止めるくらいなら昨日時点で令呪を与えるべきではなかった。


『わかった。……最善を尽くそう』


なので、俺はその遺言を粛々と受け入れた。想いをまた1つ背負った。

唯笑も必死にうん、うん、と頷いている。唯笑にとって幸せになってほしかった人がまた2人、いなくなる。俺も世話になっていた人だから心が痛い。が、唯笑のそれは俺の比ではないのだろう。

何はともあれ『伝達』での会話なのでその首肯は目に見えないのだが、桜乃さんたちは分かっているかのように、『ありがとう、2人とも』と返した。


『じゃあ……一緒に逝こうか、喜更』

『そうね、真宙』

『何笑ってんだよ。今から死ぬんだぜ?消えるんだぜ?怖くねえの?』

『ふふふ。何も怖くないの。むしろ幸せよ?貴方と一緒だから』

『……はあ、やれやれ。幼稚園から大学、職場まで一緒で、戸籍も一緒になって、終いまで一緒かよ……ま、悪くはなかったな』

『あらあら、素直じゃないんだから。貴方も笑ってる』

『ガキどもも、優夢も、咲良も、幸せになってほしいからな』

『彩ちゃん、よく言ってたものね。『周りに幸せに成ってほしいから笑うのさ』って』

『……よし。じゃ、行くぜ?笑いながらぶっ飛ばしてやんよ』

『ええ。笑いあってサヨナラしましょう』

『おうよ。……じゃあな、喜更。また来世でな』

『さようなら、貴方。また、来世で!』


そんな会話を経て、遠くで凄まじく光を発した。


「『令呪』……多分、全部使ったね」


唯笑がそう独り言ちた。


喧騒が収まる。

一応ライブ画面を開けば、司たちはまだショーを続けている。

宙に浮かぶ魔術式がまだ消えていないからだろう。ショーをやめたらこの現状がどうなるかわからないというのも理由にありそうだが、何にせよ、継続して歌い続けてくれるなら作戦は無駄にならなさそうだ。

思わず胸を撫で下ろした。

目を凝らせば、いつの間にか遠くに拝郷の姿が見えるまで近づいている。

そのまま拝郷は俺のすぐ傍を通り過ぎ、急旋回で折り返して、俺のすぐ隣で『令呪』を構えた。


「お前もか?」

「おうよ。桜乃がオレの我儘を通してくれたってんなら、今度はオレの番」

「……言い遺すことはあるのか?」

「んにゃ、ねーな」

「そんなわけ、ないでしょ」


また遺言を尋ねた俺に拝郷がさも当然のように返答するが、唯笑が制止した。


「こんなの、正しい死に方なんかじゃない」

「……姫さん。正しい死に方をする魔術師なんていねーよ?」

「分かってる」

「じゃあいいだろ。作戦のためにはオレたちの犠牲は致し方ないじゃねえか」

「でも、私は君にだって幸せになってほしい」

「へえ、姫さんにそう思われてたとか嫉妬で殺されちまいそうだな?でもな、死ねるほうが幸せだからオレを糧にしたんだぜ。ほら、死んだら会いたい奴に会えるし……生きてたら、もう少し期待しちまうだろ?」

「……っ、だったら、せめて未練ないように死んでよ」

「だから未練なんて」


拝郷と唯笑が言い争っている間に、高式……の身体を乗っ取っている『実現』が接近してくる。

だが、以前とは異なってどこかその動きはぎこちない。『容赦』が強く影響しているようだった。

拝郷は、「……あったな」とぽつりと呟いた。


「言ってよ。早く。桜乃さんたちの想いが水泡に帰す前に」

「ただの重荷だろ、お前さん。重荷なんか背負って、」

「背負わせてって言ってるの。その想いを糧にして、私達は『実現』に勝つから」

「……」


『実現』がだいぶ近い。

俺は「おい」と大声で叫び、身構えた。

拝郷は唯笑に呆れたように言葉を、未練を託した。


「……オレの拠点の1つ。お前さん達と関わるきっかけになった依頼の少女が隠れている。しばらくはオレの知人に面倒を見るよう頼んだから大丈夫だが……手段は問わない、外の世界に触れさせてやってくれ」

「分かった、ありがと。……未練なく、逝ってらっしゃい」


唯笑に見送られて、拝郷は駆け出した。刻まれた令呪が神々しい光を発する。

そのまま俺の横を通り過ぎて、俺の眼前まで迫っていた『実現』の胸元に浮かぶ魔術式に手を伸ばした。

通り過ぎた拝郷の横顔は、どこか笑っているような気がした。


そして、辺り一帯が白い光に包まれ、……視界が開けた時、拝郷の姿は既になく、代わりに高式がそこに倒れていた。

執筆するにも間が空きすぎて、

一旦次回作は書き直そうかなってなってます。

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