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同じ空の下で  作者: 桜油
8章・終章
101/140

95話

こんにちは。

唐突な始まり方をしますが、今日から最終章です。


最後までお付き合いいただけますと、すごく嬉しいです。


では、どうぞ。

翌朝。


作戦開始は、司たちのショーに合わせて1800だと通達があった。それまではいつでも連絡をとれる状態にはしておけ、との指示だったので、俺は居室で寛いでいた。


作戦の詳細はこうだ。


フェーズ1では、司たちのショーの開始1時間前に俺達、作戦の主要構成員は『精神防護』を『決意』『覚悟』込みで使用。拝郷が『心象操作』を『決意』の令呪を併用して展開する。

フェーズ2、ステージが開催されるまでの1時間の間は、暴動を起こした人々の攻撃を凌ぐ。無駄に消耗しないことが肝である。

司たちのステージが無事開催されたことを確認次第、フェーズ3へと移行、桜乃さん達が『決意』の令呪を消費してその影響範囲を拡大。

フェーズ4にて『実現の魔女』の反応を確認次第、ポイントαの『桜丘』に誘導。一斉に攻撃を仕掛けて『リンク』を解除する。これで作戦行動は完了となる。


つまり、俺と唯笑のやるべきことは至ってシンプル。

1時間耐えて、只管攻撃をする。万が一作戦が失敗したら戦う。それだけのことだ。


しかし、俺よりも世界の命運を握っているに等しい桜乃さんたちや拝郷のプレッシャーは想像を絶するものだろう。……拝郷はそんなことを気にする人でもないか。


暇だし、唯笑とどこか出かけようか。


そんなことを頭に思い浮かべた瞬間、扉が開く音がした。

鍵はしていたはずだが、唯笑だけは合鍵を所持しているし、唯笑が暇つぶしにこちらに来たんだろう。手間も省けたし、誘ってみるか。そう思って扉の方へ視線をやれば、親の顔より見た蒼い髪、青い瞳の少女ではなく、くたびれたおっさんといった風体の男性がそこにいた。


「よ、邪魔するぜ」


拝郷はそう言って手を軽く上げた。「拝郷かよ」とどこか緩んでいた表情を引き締めるが、拝郷はによによと憎たらしい笑みを浮かべた。


「今ゼッテー姫さんだと思ったろ。ごめんよ王子さん」

「……」

「え、もしや図星?ウケるな」

「ああもう、ウザい。黙れ、邪魔するなら帰れ」


居た堪れなくて、しっし、と手で追い払う仕草をする俺に拝郷はヘラヘラして「ははは、誂って悪かったよ」なんて謝る。それもまた余裕を感じさせるものだったので余計腹立たしかった。拝郷を居室の外へグイグイと押しやれば、「スマンて。頼む、最後にどうしても言いたいことあるだけだから一旦聞いてくれや」と話すので、一度手を止めた。


「はあ。で?何だ、言ってみろよ」

「お前さん、姫さんにゾッコンだな?」

「ああ分かった。俺を怒らせたいだけのようだな。さっさと帰れ」

「いや待って待って待って、最後まで話聞いて?」

「一言言い終わったからいいだろ」

「そりゃあ言葉の綾ってもんで、言いたいことの1割も言えてねーから!」


なんて必死なので、「何だ、長話か。なら最初からそう言えよ」と渋々と居室にあげてやる。

拝郷は「助かるぜ。んじゃ、失礼すっか」と靴を脱ぎ捨てて奥へと進み、俺が先程まで寛いでいたベッドにどっかりと腰掛けたと思えば立ち上がり、のっそりと冷蔵庫へ歩を進めて、冷蔵庫を漁っていた。


「なんだ、意外と冷蔵庫に沢山入ってんじゃねえの。お茶、紅茶、ジュース、炭酸飲料、食べかけのポテチ、あと……カレーか?お前さん、手料理なんてすんのか」

「冷蔵庫を勝手に見るなよ。……はあ。俺は料理しない。他は普段から冷蔵庫に入っているが、ポテチとカレーは唯笑が用意してくれたものだな」

「ふーん」


昨晩、唯笑が「決起集会しよ」なんて居室に乗り込んできて、俺も唯笑が普段から俺のもとを頻繁に訪ねるものだからと用意していたジュースを開封して、2人きりで夕飯を見て、ゲームして、と楽しい時間だった。


昨晩の思い出に思いを馳せながらも拝郷の質問にそう答えれば、拝郷はまた少し、しかし先程のような誂うそれではなく、微笑ましいものを見ているかのように俺を見ていた。


「あー。うん。やっぱ何もいらね」


そう言って俺のベッドにまたどっかり腰掛ける拝郷に、「本当に何もいらないのか」と確認したが、「お前さんの様子見てたら、言うことほぼ失くなったんだわ」と笑っていた。


「はあ?」

「お前さん……いや、怜。オレの昔話をちったあ聞いてくれねえか?」

「いや、拝郷の事情なんて既に唯笑から一通り聞いたからな。無理に話す事無いと思うが」

「ちげえよ。そんなありきたりな不幸自慢なんかどうでもいいっての……いや、少し関係はあるか」

「……どうしても話したいなら勝手に言えばいいだろ」

「へいへい。じゃあ勝手に語らせてもらいますかね。ありがとさん」


そう言って、拝郷は独り語り始める。


「オレ、何かが少しでも違っていれば、世界をぶっ壊す側としてお前さんたちに敵対していたと思うぜ」

「彼奴を深く傷つけて、自害するまでに追い詰めた世界が、人類が、すべてが憎かった。『教会』への復讐だけじゃ、その心の鬱憤を晴らすにはとても足りねえ。人類を抹殺して、一度世界をさっぱりさせたかった。そのために壮大な計画を打ち立てて、彼奴を裏切った世界をオレが裏切ってやりたかった」

「何かを得るんじゃねえ。全てを喪いてえの。人間ってほら、自分勝手だろ?紛争が後を絶たないし、環境問題だって色々あるし。問題を解決しても、違う目的の為に奔走して結局同じ結果になんじゃん。なんなら悪化しちまうことだってあるよな。キリがねえの」


自分勝手だな。

そう口を開こうとした俺の言葉を遮るように、……いや、きっと遮る気など無かっただろうけれど、結果としては遮るように、拝郷は続けた。


「……でも、さ。どうも、絆されちまったらしい」

「情報屋してて、沢山の人と関わってきたぜ。下衆、外道、悪党の類なんぞ腐るほど見た。けど、馬鹿みたいに良い奴だっているらしい。愛した人を取り戻す為、世界を敵に回すと決めた青年。恩人の忘れ形見を護りたい一心で捜索依頼を出してきた青年。仲違いのように気まずい関係で別れてしまった少年を窮地から救い出す為に作戦を何度も持ち込んで相談していた少女。事情がわからないながら1人の心の闇を晴らそうと『自分』を演じ続けている男。一度病室が同じだっただけの少年を、今度は自分が笑わせたいから、って理由でスターを目指す少女。少女の夢を叶えたいから、不器用でも、不運でも、必死こいて努力し続けてる少年。少女にただ生きていてほしいから、悪役を買って出てでも少女を逃がす算段を立ててオレに必死に頼み込んできた少年。兄の遺志を引き継ぎたい、相棒を護りたいから自身の夢を諦める決意を固めた少年。それに応えようとオレなりに立てた作戦の協力要請……という名の死の宣告に、深く悩んだ結果、子どもの輝かしい未来を優先して命の覚悟をみせた夫婦。……本当、オレには過ぎた顧客だった」

「お前さんのこと、正直興味なんて無かった。やたら1人の少年に入れ込んでる少女がいて、この2人にあの提督が、『放蕩の茶会』がご執心。それくらいしか知らなかったし、実際お前さんを見て、『ああ、ただの傀儡、道具と、それにあろうことか心を寄せてしまった哀れな女か』なんて失望してな。興味深い対象を教えてくれたもんで契約に応じたけど、精々哀れな女に塩を送ってやるぐらいの気持ちでしか無かった。姫さんがお前さんを立ち直らせたとしても、お前さんを見るまでは評価は変わってなかった。お気に入りの為に世界を救ってやるか、くらいの気持ちだった。だから、お前さんに極力頼らない作戦にしたしな。使えねーと思ってたし」

「……怜。昨日から見ていればお前は、怒ったし、人を慮った。さっきは照れたし、姫さん……んや、唯笑の来訪に期待して、オレと知って落胆した。オレと唯笑が話していた時に嫉妬したろ?きっとお前は自分が分からなくて、どうしたらいいのか迷って、悩み抜いた上で結論を出した。その結果、既に周囲から言われてただろうけど、色々と変わったよ。それをお前が自覚してるのか、自覚したとしてどう捉えているかわかんねえけど。それでもオレは自分勝手に断言しようじゃねえの」

「色んな顧客と会って、色んなことに気付かされた。今思えば、唯笑が怜に入れ込んでたのも、世界を救うためとか、それだけじゃない意味があるだろ。お前は、生きてんだよ。何から造られても、過去がどうであっても、誰が何を言ったとしても、れっきとした人間だ」

「きっと、いつか。お前と唯笑、お前たちの想いが積み重なれば、世界だって本当に変えられるかもしんねーよな。なればこそ、オレはオレの復讐をお前たちに託す。お前らしく、『決して嫌われない正義』らしく、どんなに遅くなったっていいから果たしてくれ」


それはきっと、拝郷本音の本心であり、呪いの言葉だった。


そして、昨日の深夜に唯笑が懸念していたことが事実だと確信した。

……やはり、桜乃さんたちに令呪を与えなければ、俺が代わりに魔力を提供すれば、あの2人は子どもの成長を見守れたかもしれない。いや、今からでも作戦の変更は間に合うのか?とぐるぐる考え込んでいると、「は、なんて顔してんだよ。お前はまだ未成年だぜ?命を賭けるのは大人の仕事だし、青春を取り上げるなんて以ての外だっつの」と頭を雑に撫でられ、髪が乱れた。


「ちょ、やめ、ってか何で俺の考えてること分かってんだ?」

「顔に書いてあんだよ。随分わかりやすく可愛い奴になったよなあお前、こんなことならちったあ積極的に絡むべきだったかね。……大丈夫。大丈夫だから、お前さんたちにオレ達を重ねて見させてくれ。オレ達も、こんな青春を送れたかもしれないって最後まで夢を見させろ。桜乃さんをこれ以上後悔まみれの人生にしてやんな。桜乃さんをそう庇うより、幸せに生きろ。そんで、いざという時に息子さんたちの力になってやれよ。な?」

「……本当、自分勝手だな」


呆れてそう言葉を漏らせば、拝郷は「おう、そうだろ。よく言われんだ」と笑った。

閲覧ありがとうございます。


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