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04 聖女ではない判定

 マルの直ぐ隣に立っていた侯爵は、聖水の飛沫を避けようと後退(あとず)り、マルが置いた台の残骸に足を取られて尻餅を付く。

 聖杯から勢い良く流れ落ちた聖水は、最前列に座る王族にも跳ね掛かる勢いだった。そして実際に掛かったのだけれど、王族達の体に触れると、聖水は光になって消えた。

 侯爵に掛かった聖水も同じだった。

 いつの間にか、マルの裾も床も聖水に関しては乾いている。零れた聖水は漏れなく光になった。


 その様子に見蕩れていた副神官長が、ハッと思考を取り戻す。そして大神官長に向けて囁いた。


「これでは聖女に認定出来ません」


 大神官長は「分かっておる」と返したが、だからと言って、どうしたら良いのかは分からない。

 大神官長と副神官長の表情を見ながら国王は、これだけ奇蹟を起こしていたら聖女認定も何もいらんだろう、と思う。

 王太子はマルが本当に聖女なのかと思うと、このままではやがて自分が国王になっても、マルを追い出せないのかも知れないと気付き、怒りを覚えた。


 マルは大神官長に「大丈夫です」と肯いてみせた。



「私は教会の聖女ではありません」


 マルのその声は、式場である誓いの間の隅々にまで届いた。


「それなので、聖女判定の儀式は失敗したのではなく、私が教会の聖女ではないと判定されたのです」


 マルの言葉に王太子は喜んだ。聖女ではないならマルとは結婚しないで済むし、なんなら直ぐにも追い出せる。

 国王はマルの言葉の真意を掴もうとした。この場の状況を見ればマルが聖女である事は疑いがない。万が一聖女ではないのだとしても、マルが何らかの力を持っているのは間違いない。それなのに聖女ではないと宣言をするマルの狙いは何か、ハッキリとさせて置かないと危険だ。

 侯爵は尻餅を付いたのに、誰も助け起こしに来ない事に気を取られて、マルの言葉を聞き逃した。それはいつもマルの意見など聞く事がなかったので、普段の習慣通りの行いではある。

 大神官長は聖水を漏らしながら光って消え続ける聖杯を渡したかった。

 副神官長は光って消え続ける聖杯を受け取りたくなかった。


 マルは自分の言葉を聞いていない大神官長に腕を伸ばし、その手から聖杯の残骸を取り上げる。大神官長は驚いたが、副神官長は安堵の表情を浮かべた。


「これで終わりでよろしいですね?」


 マルにそう尋ねられた大神官長は思わず肯いたが、副神官長はマルに向けて怒鳴って否定する。


「まだ認定出来てないだろう!」


 聖杯の残骸をしゃがんで床に置きながら、副神官長を見上げてマルが反論する。


「ですから、私はこの教会の聖女ではないのです。何度やっても違うやり方でやっても、聖女ではないと判定されますから」

「そんな訳ないだろう!お前が愛と美と豊穣を司る女神の光を魂に宿している事は、この私が確かめたのだ!忘れたか?!」

「そうだな」


 国王が副神官長の言葉を肯定した。


「今この場で起こっているのは、奇蹟ではないのか?」

「そうです!その通りだ!」

「違います」


 マルは立ち上がって国王に向かい、はっきりとそう言った。


「愛と美と豊穣を司る女神が、そなたが聖女になった事を祝福しているからこそ、この様な神々しい情景が生まれておるのだろう?」

「そうです!その通りだ!」


 マルの体から光が溢れ、マルの目が焦点を失う。光はマルの体から漏れて衣裳を透かす。

 その光が静かに収まると、マルの目の焦点は国王に合った。


「愛と美と豊穣を司る女神を表す物が崩れて光となって消えているのは、愛と美と豊穣を司る女神の恩恵が失われたからだそうです」

「・・・なに?」

「・・・は?・・・はあ?!」


 副神官長が詰め寄って怒鳴ったので、マルは一歩下がった。副神官長がマルに掴み掛かろうとするが、国王は「まあ待て」とそれを遮る。


「恩恵が失われているとは、どう言う事だ?」

「え?そのままの意味だと思いますけど?」


 マルの言葉に、参列者達もザワザワとし始める。


「愛と美と豊穣を司る女神の恩恵が失われる事など有り得ん!」

「実際に失われているぞ」


 誓いの間の扉を潜って現れたバツが、副神官長の言葉に反論した。


「バツ」


 名を呼ぶマルの声と表情に引き寄せられる様にバツは、誓いの間の中央の主役の為の通路を走って壇上に駆け上がり、マルを背中に庇う。


「随分と早かったね」

「警備兵が想定より弱くなってたのに気付いたからな」

「それに最初に気付いたのはあたしだけどね?」


 槍を持って弓を背負いながら扉を潜る女性スーがそう言った。

 その後に盾と剣を持った男性サンも続く。


「うわ・・・中の方が派手だな」

「お、うぉ、お前達は何者だ!」


 副神官長の問に、バツの背中からマルが顔を出して応える。


「こちらはバツ。私の婚約者です」

「は?婚約者だと?」


 そう訊き返す王太子にマルは「そうだよ」と、くいっと顎を小さく上げながら返した。

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