第3話 まさかの2週間(1)
学生の本業に専念する2週間がやってきた。正確には始まりを告げてから2日は経っていた。大会やコンテスト等が迫っている部活を除き、全ての部活はこの1~2週間はパタリと動くのを止める。来週までは校内全体を彩る金管楽器の音色も、グラウンドを周回する掛け声も強制休暇という訳だ。かくいう私はどの部活にも所属していないため、特にこれと言った影響はなかった。
いや、部活届けを出しそびれたと言うべきだな。
4限も中盤を迎え、そろそろ疲れも溜まってきていた。ふと、窓から空を見ると南の方に汚く黒い雲が漂っていた。それを見て今日の朝に見た天気予報と自分の荷物に矛盾が発生していることに気がついた。登校中から何かを忘れているような気持ちを抱え、モヤモヤしていた私は悩みの正体を知ることができ、天候とは打って変わって、雲が晴れたような気分だった。
聞き慣れたチャイムが鳴り、昼休みへと突入した。
「俺/私、定期テストが終わったらーーしたいんだ」
そんな風物詩枕詞もあちらこちらから耳に入ってきた。
……私も普段は勉強なんてものは全くしない。ノートと教科書を机の上にこれ見よがしに広げ、スマホを弄る。罪悪感はありつつも、5月頃からそんな状況を続けてしまっていた。スマホは魅力的であり、悪魔的であった。そのため、勉強の進展なんてものはほぼ無いに等しかった。いや、進展がないのが勉強だけならまだ良かったが、栄くんの件もあれから時間が止まったかのように進展がなかった。
私を慰めるかのように窓に雨粒が付き始め、窓の汚れが目立ち始めた。
私は登校の道中にあるコンビニで購入した安いパンを鞄から取り出し、封を切った。
パンの残りが半分を切った辺りで、スマホを手に取り、予定表とにらめっこを始めた。
うーむ……夏休みが始まるのは7/25で、今日の日付は7/5…… 何とか20日以内に仲をそれなりに深める方法はないだろうか。愚直な質問でも私は頭で一生懸命に転がし、方法を模索した。しかし、私が一人で浮かぶアイデアはどれもゴミ箱をひっくり返したような目も当てられないものであった。仕方なしに予定表のアプリを閉じ、検索アプリを開いた。
「短い期間で仲良くなる方法」検索
心なしかいつもよりフリック入力が速いように思えた。
一番上に出てきたページを指で軽くタップし、ページが表示されると即座に下から上へと3~4回強くスワイプを繰り返した。本文らしき箇所で指を止め、スマホの画面を撫でるように目を泳がすと、1つの太文字が目に映った。
"相手との共通点を見つけること"
な~るほど
確かに中学時代の友達3人も見ているアニメや配信者が切り口となって仲良くなったのだったと今の今で思い出した。このサイトに書いている事が真実であることは既に私が証明していた。
よし!趣味を探ればいいのか!さながらゲーム攻略本を読んだ小学生のごとく、今ならラスボスだって倒せる気がした。そうこうしている内に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響いた。数秒前まで学校全体が右向け右でガヤガヤと会話をしていたが、チャイムを境にドタドタという足音へと音が変わった。
窓を見るとさっきより雨粒が付いていた。いよいよ本降りかもしれない。
うん。今日はもう残り2限だし、明日から共通点探そう。
怖いなんて感情に蓋をするための言い訳にすぎなかった。数分前まで、スマホで仲良くなる方法をしらべる程には貪欲で、焦っていたはずのに、いざ実践となると私は毎回このような感じだ。
5限へと長針が進んで行った。国語だ。
ぼーっとしながら辺りを見回すと何人かは突っ伏して、夢の中だ。じめじめとした教室に心地よい雨粒の子守唄が5時間分の疲労に語り掛けてきた。ぼーっとしながら吸い込まれるかのように栄くんに目線を向けると、真面目にノートを取っていた。
それを見て私も我に返り、出張中だった目線を再び自分のノートへと戻した。そんなとき、ふと栄くんと私のノートを結ぶ短い区間に、見覚えのあるものが存在している事を私は感知した。
二度見をするかのように目が通った道を戻ると見覚えの正体はすぐに分かった。私の愛読している漫画のキャラクターのチャームが栄くんの鞄にぶら下がっていた。