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五百デナリの男〜炎天下と上司と課金〜  作者: 地野千塩


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9/9

五百デナリの男

 俺には前科があった。


 薬物に手を染め、更生するのにはだいぶ時間がかかった。自助グループにも長年いた。


 自助グループでは、なぜかキリスト教の牧師がいた。金銭だけでなく、このグループのカウンセリングなどの支援をしているらしい。


「あなたは罪人です」

「はい。そうです」


 牧師に福音を聞いたが、全くその通りで、涙しか出ない。こんな罪深い自分を救ってくれた神様。身代わりに罪という借金を背負ってくれた。聖書的には罪はクライムの事ではなく、神様を無視して自己中に生きる事だが、長く犯罪に手を染めていた俺は、一発で腑に落ちた。


「牧師さん、キリストの花嫁っていう言葉、女性だけずるいです」


 聖書ではクリスチャンの事をキリストの花嫁と表現する。別に男性クリスチャンもその対象だが、この言葉に萌えている女性クリスチャンを見てたら、なんかジェラシー感じた。


「はは、だったら、君はイエス様を信頼できる大好きな上司と思いなさい。忠実な部下だったら、上司の言うことに従うでしょう?」


 上司か。その例えは、俺の中で腑に落ちた。聖書の中にある神様の命令に従忠実な部下。なかなか良いじゃか。


 そんな話を聞いてから、俺はなんとか薬物依存状態から脱し、職にもつけた。


 仕事ではストレスがあり、今度はゲーム依存になりかけた。課金を繰り返し、家に帰るとゲーム三昧。


 でも。


 この姿を神様が見たら、どう思うか。急に恥に思い、しばらくゲームもほどほどにし、讃美歌ばっかり聴いていたら、興味も無くなった。


 そんな事を繰り返し、どうにか人間らしく生まれかわってきた。今ではエロ関連のものも全く触れない。


 聖書には、多く借金を肩代わりして貰った人間こそがより主を愛するという例え話がある。


 一人は五十デナリ、もう一人には五百デナリ。その借金を主に肩代わりしてくれた場合、どちらが深く愛しますか、と。デナリは、聖書時代のお金の単位で、一デナリでだいたい一日分の給料だ。


 だったら俺は五百デナリの男だ。酷い罪を犯してきた自覚しかない。それを主に帳消しにしてもらった。そっちの方がより主を愛するというのは良くわかる。そう思うと、薬物もゲームもポルノも全く思い出せなくなっていた。


 そんなある日。


 近所のババアから声をかけられた。ババアは占い師で、なぜか俺の過去を透視してきた。


「あらあ、薬物なんてやってたの? ダメな男ねぇ」


 なんだ、このババア。ぶっ飛ばそうと思ったが、メンチ切るだけにしといた。


 その後、ババアからは付き纏まれ、どうしようかなと悩んでいる所だった。正直、関わりたくなかったが、この炎天下でバアアがゼイゼイ息を荒げていた。どうやらこの暑さで体調不良になったらしい。


 無視してもよかった。


 でも主の、上司の命令がどこかから聞こえてくるようだった。


『敵を愛しなさい』

『隣人を愛しなさい』


「くそ!」


 そう言いつつも、ババアに水を飲ませて、塩を舐めさせ、介抱してた。


 正直、心の中は納得していない部分もある。でも俺は五百デナリの男。上司の命令には、素直に従うんだ。

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