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五百デナリの男〜炎天下と上司と課金〜  作者: 地野千塩


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7/9

銀貨三十枚

 2021年の夏の事だった。


「はぁー、全く読まれんな」


 俺はネットで小説を書いていたが、新しく書いた短編小説はPVが一桁だった。


 書籍化している上級作家にとっては信じられない現象だと思うが、こんな事はよくある。


 外は炎天下の夏。家にいるのも冷房代がかかるので図書館に避難してきたが、PV一桁が頭にこびりつく。


 そんな折、フォロワーを買えたりできるんじゃないかと思った。小説投稿サイトでは禁止されている事だが、SNSをやっている時はよくフォロワーを買ってバズらせたりしてた。なんとか抜け道がないものか。


 クラスタを作って作家同士で相互評価できる所もある。あれだって一種のフォロワー買いに見えた。あれが許されるのならフォロワーぐらい買ってもいいじゃん。


 俺はそう正当化し、色々とネットで調べた。静かな図書館は調べ物するのにちょうどいい。


 すると、「イスカリオテ」という妙なサイトにぶつかった。どうやらネット工作を専門に行っている会社のようだが、表向きはコンサルタント会社らしい。メールで色々とやりとりしてると、小説投稿サイトでの評価水増しなども隠密に出来るという。値段も一回三千円と安い。軽い気持ちで課金できそうだ。


 さっそく頼む。


 メールのやりとりは、自称・銀貨三十枚と名乗る男と行った。


 変な名前だと思ったが、本名を名乗る必要もないだろう。すぐに依頼し、評価の水増しを行って貰った。


 何回か依頼し、ランキングにも載るようになった。銀貨三十枚にはすっかり安心して信頼していた。


 しかし、銀貨三十枚からは、作品の内容にも注文をつけられるようになった。異世界転生よりも反ワクや陰謀論者、フラットアーサーを揶揄した作品を作ると必ずランキング上位になりますよ。そう言われた。その上、反ワクチンデモ参加レポやコロナ後遺症のエッセイを書くとギャラまで貰えるという。レポやエッセイは小説のように作り話で良いらしい。


 最初は受け入れられなかった。何より異世界転生ファンタジーが好きで、そんな楽しい作品を書きたかったが。


 銀貨三十枚は、課金すればプロットやキャラ設定を用意してくれると提案してきた。そして必ず投稿サイトのランキングで一位にしてあげると言ってきた。


 誘惑に負けた。


 俺は課金し、銀貨三十枚の言う通りにした。ところどころストーリー展開につまると、銀貨三十枚に相談した。丁寧に教えてくれて、メールの文面は紳士そのもの。いつの間にか信頼できる上司のような存在になっていた。


 こうして自分の書いた小説は、本当にランキング一位になってしまった。世の中はあの疫病で混乱していた。混乱を引き起こす陰謀論者を成敗したような良い気分にもなっていた。なんといっても多数派・正義派にいる甘美さも中毒性がある。銀貨三十枚との合作小説とはいえ、反ワクチン派を論破してる俺TUEEE!


 こうして時が流れた。


 2023年、夏。


 いつもの年以上に熱く、毎日炎天下。今年も図書館によく逃げていた。


 もうマスクも自由化されていたが、相変わらず俺と銀貨三十枚で作った作品は上位にある。何も悪い事をしていないつもりだが、ある読者からメールが届いた。


「あなたの作品を読んで注射を打ちに行きました。でも、そのせいで髪の毛が全部抜けてしまいました。会社の上司は打ってすぐに即死しました」


 は?


 イタズラだろう。無視、すぐブロック。


 ただ、毎日何も楽しくなかった。作品を作っていても、面白くない。PV一桁の時の方が楽しかったような……。


 まあ、銀貨三十枚に頼んで色々水増しして貰えばいいか。


 そういえば銀貨三十枚ってどういう意味なんだ? 


 調べると、聖書関連のワードらしい。イエス・キリストを裏切ったイスカリオテのユダが手に入れたお金、銀貨三十枚。


 キリスト教圏では、私利私欲のために他人を売り渡す人物の事も指すらしい。ちなみに裏切り者のユダは、その後自殺している。


 急に心がざわついてきた。


 俺は誰も裏切ってはいない。単に色々水増しして貰っただけ。いや、売り渡しのは自分の心か。そんな気がしてきた。その証拠に、今は何も楽しく無い。


 そうは言ってもランキング一位の甘美さからは逃げられない。


 やっぱり、心なんかよりこっちのがイイね!


 再び銀貨三十枚に連絡をとっていた。

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