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五百デナリの男〜炎天下と上司と課金〜  作者: 地野千塩


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雀とアサリオン

 炎天下のアスファルトの上、雀が倒れていた。勝手に身体が動き、助けた。この夏の暑さで弱っていたようだが、病院に連れていくと元気になってきたようで嬉しい。


 しばらく家で雀を保護し、一緒に暮らす事にした。今は実家暮らしだし、田舎のこの家は雀にとっても居心地悪くないだろう。名前はチュン子とした。我ながらネーミングセンスは無い自覚はあったが、小さくてふわふわな毛玉で可愛い。何より人懐っこい。


 毎日、庭、縁側やリビングでチュン子の様子を撮影して動画サイトやSNSにあげた。


 なんせ、毎日暇だった。


 私は去年まで公立高校で教師をやっていたが、激務で身体と精神を壊し、適応障害と診断された。医者からは職場復帰の許可が降りず、実家でのんびりと療養していた。


「あ、いいね!ついた」


 可愛いチュン子の動画や画像をSNSにあげると評判がいい。


 ただ、時々、悪口も飛んでくる。私は子供の頃からクリスチャンで、聖書の言葉なども発信していたが、なぜか陰謀論者や変な思想に染まった人から悪口が届く事がある。こちらは何もその点については言わず、絡みもしないのだが。


「ニートwww 働けニートwww お前は生きる価値無し!自己責任だろ、働けwww」


 今回きたコメントは参った。職場でのモンスターペアレンツ、いや熱心な保護者からの暴言も思い出す。予想通り、陰謀論の薬がどうとか、ワクチンは獣の刻印がどうとか呟いてばっかりいるアカウントから送ってきた。まだ若いOLのようだが、さりげなく容姿、給料額やモテ自慢なども発信しており、こっちのメンタルが抉れた。働かず実家暮らしの人は生きる価値無しと踏みつけられたみたいで、泣きたくなってくる。


「チュン子、どう思う?」

「ちゅ」


 チュン子は私の頬のキスしてきたが、心はヒリヒリとする。


 そんな時、チュン子の動画に視聴者から投げ銭されているのに気づいた。数百円の投げ銭だったが、誰からだろう。こういった動画に課金までして応援する人は少なく、珍しい事だった。


 投げ銭の送り主のアカウントを見ると、働いていた時の上司、学年主任からだった。学年主任はいわゆる熱血系で歳も離れていたが、同じクリスチャンという事で少し話した事がある。もっとも学年主任が赴任してすぐ私は休職になってしまったので、あまり話せなかったが。アカウントも本名、顔出しでやっていて、なんか上司らしいと思ってしまった。私も本名で顔写真をあげてSNSをやっていたけれど。


 すぐに御礼のDMも送ったが、上司はチュン子の動画が好きらしかった。しばらくチュン子のことでやり取りしていたが、話題は聖書のことに移った。上司はマタイ十章の二羽の雀とアサリオンの話が好きらしい。


 アサリオンは古代ローマの貨幣の単位で、今で言うとだいたい三百円ぐらいの小銭。神様はそんな安価な一アサリオンで売られている二羽の雀さえ目に留め、人間がいかに大切にされてるか説いている。聖書で神様から人間への愛が語られている有名な箇所の一つだ。


 そう言えばそんな聖書の言葉もあったが、悪口に気をとられ、忘れてしまっていた。


「大丈夫。働けなくても一円も稼げなくても先生は神様にとって大きな価値がありますよ!」


 上司は最後にそんなメッセージをくれた。悪口が届き、心を痛めていることを知っているようだった。


 上司のメッセージを見ていたら、心が軽くなってきた。


 炎天下のアスファルトで倒れていたチュン子も思い出す。チュン子も助けられたし、この療養生活も悪い事ばかりではない。あとはいっぱい休んで元気になるだけだ。


「ちゅ、ちゅ」


 そう思ったと同時にチュン子が近づいてきて、私の頬に再びキスをした。


「ありがとう、チュン子」


 もしかしたらチュン子は神様が送ってくれたのかもしれない。この上司もきっとそうだ。気づくと、もう心は癒えていた。

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