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五百デナリの男〜炎天下と上司と課金〜  作者: 地野千塩


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賽銭病

 私には困った癖があった。


 神社仏閣の賽銭箱はもちろん、なんか綺麗な池、なんか神々しい像を見ると、課金したくなった。


 特に池や象に小銭がぱらぱらと捧げられていると、「やらなきゃ!」と義務感に襲われ、課金し、手を合わせる。特に信仰心もない日本人だが、なぜかこんな癖がやめられなかった。それ専用の小銭入れまで持ち歩き、いざという時は課金していた。


 そんな2021年、夏。


 疫病騒ぎの影響で、注射の噂も広がっている頃だった。職場の上司は、とんでもない情弱で「注射すると5Gにつながって宇宙人に攫われる」と言っていた。私はネタにもできない反ワクっぷりに、イライラを募らせていた。ノーマスクで飲み会も開催し疎まれているのに全く気づいていない。


 私はこんなに我慢して自粛してるのに。イライラがたまるが、仕事中。我慢、我慢。


 そんな上司に言われて、会社の近くの郵便局に行く。外に出るとむわっと熱風が吹いていた。炎天下の二重マスクは息苦しいが、外すわけにはいかない。みんなやってるし、感染症対策を真面目にやってる私は良い人だし、我慢、我慢、我慢……。


 郵便局で用事を終え、その帰り道だった。会社の近くの裏道に小さな祠があった。


「こんなのあったっけ?」


 夏の光に照らされたそれは、なんだか神々しく見えた。しかも小銭が周辺に散らばっている。1円玉がキラキラと光に反射して綺麗だ。これは、課金しないと!


 小銭入れから5円玉を投げた。


 チャリーン。


『ご契約、成立!』


 どこからか声が聞こえたが、気のせいだろう。課金して気分が軽くなってきた私は、ご機嫌で会社に帰る。


「え?」


 しかし、予想外の事が起きていた。上司が倒れ、救急車が来ていた。現場は騒然とし、あっという間に上司は運ばれていく。


「は?」


 もしかして課金の効果? 賽銭すご……。


 心の中でガッツポーズをとった。


 チャリン、チャリン。


 こんな事があってから、会社で嫌な事があると、祠に課金をしに行った。上司だけでなく、お局や社長も倒れた時は、背筋が凍ったものだが、やめられなかった。


 チャリン、チャリン。


「お局の腰巾着も殺してください」


 小銭を投げて必死に手を合わせた。その後、本当に願った通りになった。


 少々怖いが、私はこれだけ我慢して生きてきたのだから、好き勝手に生きている人間が成敗されても良いと正当化していた。


 そして2年がたった。2023年、夏。


 もうマスクも個人の判断に任され、あの注射の薬害も報道されつつあった。梯子を外された気分だった。上司やお局がどんどん消え去り、その尻拭いで連日残業だった。ネットではブラックという噂もあり、新しい人も全くやってこない。毎日仕事で忙しく、心の余裕が全くなかった。


 そんなある日、会社のデスクの上に封筒が置いてあるのに気づいた。封筒の表面には「請求書」と書いてある。


「え、なにこれ?」


 中を見ると、今まで神社仏閣や池、像、祠に投げた賽銭の記録が書かれていた。自分でもすっかり忘れていた賽銭の金額、日付け、場所も全部一覧表になっていた。最近の祠への課金の記録もあったが、なぜかそこだけ真っ赤なアンダーラインが引かれている。


 賽銭の総額66666円。


 裏をひっくり返すとこう書いてあった。


「ご契約いただいた偶像崇拝の代償を請求さていただきます。病気、怪我、障害、失業、貧困、どれがよろしいですか?

 ※この借金を返せない場合、ご家族、子孫、ご友人、恋人にも請求させていただきます。

 ※子孫に関しては利子が重くなりますのでご了承ください。

 ※偶像崇拝とは一つ叶えて十奪うというものです。私どもは無償の愛で運営されておりません。必ずこの借金は全額請求させていただきます。知らなかったとしてもご契約いただいたお客様の自己責任になります。」


「な、なにこれ……。何でこんな昔の賽銭も記録されてるの……?」


 意味がわからないが、だんだんと胃がキリキリしてきた。わけもなく不安になり、消えていった上司やお局の顔が目に浮かぶ。


 こんな時こそ課金だ。


 クソ暑い中、二重マスクをピッタリと顔に貼りつけ、祠に向かった。


 チャリン、チャリン。

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