お豆の力
気が付くと、一緒に住んでいた彼氏が豆腐になっていた。
「なによこれ!」
私は悲鳴をあげた。
どうやら、私が豆腐好きだということを知って、彼氏は私のために豆腐になってくれたらしいのだ。
私のためを思っての行動が、まさかこんなことになるなんて……
しかし、彼の気持ちは嬉しい。でも、この姿じゃあキスもできないし、結婚も出来ない。
結局、私は彼氏を捨てることにした。
別れるときに、
「君のことが大好きだった」
と言ってくれて嬉しかったけど、私はもう彼氏と一緒になることはないはずだ。
私は、自分の身体を大事にすることにした。
それからしばらくして、また新しい彼氏ができた。今度は大丈夫か、そう安心していたのに。
ある朝、目が覚めると、彼氏の顔が醤油になっていた。
「なんで!?」
私はパニックになった。
どうやら、私のことを思って、彼氏は自分から顔まで醤油になってしまったようだ。
私は、醤油になってしまった彼をビンに入れ、冷蔵庫に入れて保存した。
そして、二度と彼氏と会うことはなかった。
ある日、仕事帰りの電車の中で元カレを見つけた。
まだ、豆腐の顔になっている元カレは、ぷるんぷるんと電車の揺れに合わせて揺れる。
変わらない彼の姿に、私はなつかしさを思い出し、声をかけた。
そのままに、私が住む部屋へと連れて行き、冷蔵庫から醬油顔の今彼を取り出して、かけた。
「これでずっと一緒だね」
豆腐顔の元カレと、醤油顔の彼氏の言葉が私の身体に染みわたっていくのだった。