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「ぶふっ……はは……!」


 笑ってはいけないだろう雰囲気を察しながらも笑いをこらえきれずに吹いているグレン。そんなグレンに冷ややかな視線と共に黙れという圧力を込めながらレインは平然とした顔を装う。


「無属性魔術の……えっと、一応上級魔術なはず……」


「え、レイン君も知っているの?」


「ああ、いや……魔術の無効化なんてできるのは上級魔術ってことかなーって」


 自分で書いたのだから知っているも何もない。論文発表、研究発表の前にその経験がなかったレインは支部長やらグレンに相談していたのだ。こんな感じでどうでしょうかと、原文を見せて……多分印刷されてる。


 別に誰も悪くない。遅かれ早かれ出回る知識であり、それが早かったからと言ってミチカを、そしてミチカの父を責める気はない。だが、


(自分が考えた魔術を目の前で使われるのって……恥ずかしい……)


 そして、それに誇りをもって……自分の武器だと言われることがどうも身体をむずがゆくさせる。


 嬉しさもあるが、何よりも恥ずかしさが勝ってしまう。


 ただ、勝負的にはまずい展開になってしまった。


「み、みなさん……!れ、レイン君の魔術は私が、ふ、防ぐから!全力で、で、頑張ってください!」


 三人の視線が交差する。最初に動いたのはヘイゼルだった。ヘイゼルは『火球』と『火槍』の連続攻撃でレインの視界を奪う。それを水の同系統の魔術で相殺する。水は火に対して相性がいい。だから、防御するよりもこっちのほうがあわよくば突破してヘイゼルにプレッシャーを与えられると踏んで。


 だが、その時にヘイゼルはすでにそこにはおらず、魔術同士がぶつかった瞬間に、その更に下から飛び出して、火の弓を作り出す。超低姿勢から放たれた弓はレインの顔を掠めながら通過する。


 レインが飛びのいて、避けようのないヘイゼルに向かって『水槍』を放つが、それは謎の衝撃……厳密にいうと全然などではない障壁に阻まれてしまう。その間に迫っていたリシルが背後から『水砲』で超質量の水を放つ。


 いくらレインであっても時間をかけて練られた高圧縮の『水砲』を弾き返すことはできない。


「『水刃』」


『水砲』は、水の薄い刃を受けて真っ二つに割れる。そしてリシルへと突き進むがそれは当たることはなく、真横と背後から火と風の魔力が蠢きだす。


 放たれた背後の『火球』を『水球』で弾くと、『風弾』を体術を使いながら受け流し、その流れでミチカに向かって『水刃』を放つ。ただ、流石に無属性魔術の『無効化』を使えるだけあって、レインの『水刃』は簡単に防がれてしまった。


「くそ……やっぱり厄介だな」


 だが、レインはその『無効化』の弱点も知っている。どうにかして隙を作りだせれば一気に崩せるはずだ。


「よそ見ばかりじゃいけないよ」


「あっ」


 首元に掠った火の矢が避けたレインの背後で爆発する。


「何それ……」


 大きく体のバランスを崩したレインに向かってきたヘイゼルはその手に持っている弓で仕留めにかかった。


(魔術で相殺……いや、ミチカがいるな)


 チラリとミチカの方へ目をやる。彼女に魔術を無効化されたら相殺するどころか避けるタイミングすら失ってそのまま攻撃を喰らってしまう。だが、避けようにも、アルフレッドとリシルがヘイゼルの斜め後ろからカバーできる位置に陣取っている。割と詰んでいる状況ではある。


 だが、レインはミチカの使う無属性魔術の『無効化』の弱点を知っているのだ。まあ、なぜレインがそれを知っていたのかと突っ込まれてしまったらアレだが……。


 レインは身体強化を施す。突如として機動力の上がったレインの動きにヘイゼルは一瞬同様したが、すぐさま向かう足を止め、迎撃のために矢をつがえる。レインは『水弾』をヘイゼルに向けて放つがそれは無効化される。しかし、


「きゃっ!」


「ミチカ!?」


 ミチカの身体が場外へと飛ばされる。ミチカの胸あたりには水で濡れた跡ができていた。


 水とは変幻自在なのだ。だから、色を景色の色にどうかさせることも大きさや圧縮率を変えることも自由自在なのである。


 そして、さっき言った無効化の弱点とは、「体内で行われた魔術には干渉できない」ことと「意識外の魔術に対応できない」ことである。


 つまり、前者から身体強化の妨害はできないのだ。それと、ミチカは上級魔術を使えるほどの腕前を持っていたとしても、所詮は子供。戦闘経験もなく、だからこそ敵の行動全てに注意することはできても、意識外からくる攻撃には対処ができないのだ。


「これで妨害がなくなったな。時間もかかっちゃったしそろそろ終わりにしよう」


 三人が警戒するように、足に力を込める。だが、それも無駄だ。


「すべて飲み込め……『水流瀑布』」


 それは一滴の水だった。それさえあれば、どこからでもこの魔術は使える。魔力によって増幅していく水はその無尽蔵な量と勢いで全てを飲み干す災害となる。人の身長の何倍にもなるほどの高い波は反撃に余地すらも許すことはなく、術者の目の前に立つ敵を膨大な水の中に沈めてしまうのだ。


 殺傷能力があるかと言われれば特段に高いわけではない。ただ水がぶつかってくる運動エネルギー分の衝撃はあるだろうが、それだけで殺せる人など魔術師なんぞではない。ただ、この魔術に飲まれたが最後、そこはレインのテリトリーなのだ。レインの魔力を多分に含んだ水がその後敵をどうするかは全てレイン次第なのである。


「試合終了だ」


 グレンのコールが鳴り、試合?は幕を閉じた。



 ♦️



「うわー、負けちゃった」


「リシル、大丈夫?」


「大丈夫って、レイン君のせいなんだけどね……別にちょっと寒いけど平気よ」


「あ、いやごめん。体調じゃないんだ……」


「?」


 試合が終わり、三人の元へと駆け寄るレイン。


「服が透けてるから……」


「へ?」


 リシルは周りをキョロキョロと見る。全員から視線を逸らされた。いや、リシルが見渡すまで視線はずっとこちらに向いていたのだ。


「……………」


 顔を真っ赤にして隠すリシルにレインはローブを渡す。


「これで隠しておいて」


「う、うん」


「おい、こっちも心配してくれよ」


「あ、アル君。えっとー……」


 なんだかすごい睨まれている気がする。


「ごめん、何か着せた方がいいかな?」


「俺は女じゃないぞ!」


 尻餅をついた状態でバタバタして怒ってもなんの怖さも感じない。むしろ余計に子供っぽくなってしまっている。


「みっともないからやめなさい」


「兄様……」


「いや、見事だったよレイン殿。さすがというべきだね」


「あ、いつものヘイゼルだ」


「なんだい?僕はいつでも僕だけど」


 いつものにこやかな微笑みが水に濡れたイケメンとなって帰ってきた!戦闘中のあの圧を全く感じさせない。


「でもみんな強かったですよ。ちょっと危なかったかも」


「謙遜はいいよ。本気は出していないだろう?」


「えへへ……」


 愛想笑いで誤魔化しながら、レインはグレンを睨む。ビクッと肩を震わすグレンの耳をジャンプして掴む。


「いてててて!離せやこのバカで……」


「はーいグレン先生はちょっとこのあとお話しする必要があるようなので、みんな自主練していてくださいねー」


「いや、なんでお前が仕切ってるんだよ!」


「だってグレン先生、今日は僕が教師役だーって言ってましたもんねー?」


「あ……」


 その後、グレン先生にはきっちりとお説教しました。

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