垣間見える焦り
「『報告、三日間周囲を魔導具と魔術による監視を実行致しましたが怪しい人影は発見できず。それから『異常現象』らしきものも確認されません』」
「『了解、僕は念の為リシルとアルフレッドと一緒になるべく行動しているよ。それと……正体が人であったなら、もうすでに逃げられているだろうね。一度失敗したら、簡単に再び手を出してはこないはずだ』」
だが、暗殺の線は薄いと思える。アルフレッドは狙われたと言うよりも巻き込まれた……やはり、何かをしたために消されそうになったのだ。一番に候補に上がるのはやはり『異常現象』について視認してしまったことだ。
「『ですが、そうなると今回の『異常現象』は意思らしきものがあることとなります。今までの事象では意思などは介在していた様子は確認されていません』」
「『そうだね、だが今までの例というのは数少ないもののうちの一つに過ぎない。意思があったってなんら不思議ないんだが……困ったな』」
問題なのは、レインに気づかれる前に魔術を発動させることができる技術と自分で考える知能があることだ。そもそも、厳重な警備がなされていて、なおかつ二つ名持ちの魔女がいるような学校に乗り込もうとする人は少ない。
魔術でないものの痕跡からも明らかに『異常現象』であることはわかる。知能があるということはこの学校に隠れ潜むことも容易であるということだ。レインの頭部を撃ち抜いたあの魔術……見たことがなかった。速度で言えば雷属性の魔術であるが、痺れなどは感じなかった。
「『未知の魔術を扱う可能性もある。もっとヒントが……ボロが出てくれさえすれば……』」
頭の中で何かが引っ掛かっている。あと少しでその何かがわかるような気がするんだ。知能をもつ『異常現象』が隠れ場所に選ぶのは一体どこだろう?
「ねえ、レイン?聞いてる?」
「へ?あ、ああ!ごめん、もう一回言ってくれない?」
「んもう!」
声に出さず、シエラと雷属性の無線魔術で連絡をとっていると、目の前にいたアルフレッドから声がかけられた。三日前からというもの、アルフレッドとの距離はだいぶ縮まった。どれくらい縮まったかと言えば、放課後に勉強を見てくれと頼まれるくらいには。
レインにとってはアルフレッドのやっている勉強は基礎のおさらいでしかないものの、同時に未だ見れていなかった図書館の本たちを読み漁れるのは一石二鳥というものだった。
「ここは、この術式が余計だ。相手は、動きがトロい動物を想定しているんだろう、この問題は。だったら、追尾術式は不要だ」
「なるほど……」
アルフレッドはしっかりと図書館で勉強をする。まだ二日しか勉強を見ていないのだが、やはりアルフレッドはいい意味で諦めが悪かった。わからないことは納得しなければ先に進もうとしないその性格から、勉強が苦手だったようだ。レインはその辺にいる教師よりも詳しく教えてアルフレッドの疑問を解消させて前に進ませることができる。
「っと、ごめんアル君。僕もういかなくちゃ」
「生徒会か?」
「うん、そうなんだ」
「どうせまた兄上に書類整理を手伝わされるんだろう?そんなのサボればいいのに」
「そういうわけにもいかないでしょ」
「レインは真面目だな」
「そういうわけだから!また明日!」
「うん」
図書館から読みかけていた本を借りてからレインは図書館を後にする。
生徒会は階段を上らないといけないのだが、レインはすぐ近くにあったあまり使われていない階段を使用することにした。その階段はやけに古びていて、趣すら通り越してむしろ不気味さしか感じさせない外観をしている。
まあ、そんな場所誰も通りたいなんて思わないことだろう。
そんなことを思いながら階段を上っていくと、本当に偶然だった、シエラとバッタリあった。人目がないとは言え、お互い視線を合わせただけでそこを通り過ぎようとした時だった。
レインの感覚が警告を鳴らし始めた。咄嗟に、レインはシエラを突き飛ばし、自身は全身に水の膜を張ることで対処する。
シュン、とすばやく何かが通り過ぎる音がして、レインの頬を掠って消えた。
水の膜はあまり意味をなしていなかったようだ。防御力が足りなかったというよりも、今の攻撃自体の攻撃力が高かった。明らかに貫通力に特化しているものである。
やはり現代の魔術らしいものではなかった。
「大丈夫かい?」
「はい、問題ありません。今のは、この間の?」
「どうやら、術者は僕たちが揃うことを嫌っているらしい」
今の攻撃を視覚でギリギリに認識したレインはそれが透明な何かであることを発見していた。それはまるであのゴーレムのガラスの素材のようだった。
「ガラスの魔術?そんなの聞いたことないぞ」
過去にはそういう魔術があったのだろうか?今度もっと調べてみよう。
「攻撃してくるタイミングが、僕とシエラが一緒になったタイミングに限られているような気がする。それまでは魔術の気配すら感じなかった」
「そうですね。私たちを同時に消してしまいたいのでしょうか?」
一切動揺せずに、冷静の状況を分析し始めるシエラ。
「何か焦っているな。今のも攻撃が僕からややずれていた。僕たちに正体がバレるかもしれないことに焦っているのか?」
「わかりません、ですが……相手には我々が協力して捜索していることを把握しているようです」
「攻撃の出どころは?」
「あの窓の先からのように見えましたが……」
シエラが視線で示したその窓には鍵がかかっており、開いていなかった。
「見間違いか?」
「いえ……そんなはずは」
「まあいい。相手の焦りも見えてきたことだ。こっちは余裕を持って追い詰めていこう。グレンには外からの侵入者がいないか監視してもらって、僕たちはこのまま中で調査を続けよう」
「はい」
捜査もそろそろ大詰めになってきた気がする。敵はだいぶ焦っているようだ。感情がある『異常現象』ということで、少々怯えすぎていたかもしれない。このままいけば相手はすぐにボロを出すはず。その時を狙って、一気にシエラと攻略するのだ。




