大出世
「君が、『アノマリー隊』に入ってから、あいや、作ってから大体半年が経過したかね」
「そうですね、支部長」
「あの時は冬だったか?今は春……半年も経ってないか」
「なんでもいいです、支部長」
メイガスに呼ばれて、レインは上位応接室に通されていた。なんというか、最初のころはかなり緊張したものだが、何度も出入りするようになってからは緊張なんて一切感じなくなってしまった。
「どうしたんだ?いつも落ち着いている君が、今日はやけにそわそわしているようだが……」
「いえ……もうすぐ、楽しみなことがあるのです」
もうすぐで『師匠』が帰ってくる予定の一年が、経ちそうなのだ。そんなのそわそわしないわけがない。
『師匠』は僕を見てなんというだろうか「立派になった」とか「危険なことはダメです」とかかな?なんでもいいけど、早く声が聞きたい。
「君を呼んだのは、今回上層部にて君の昇格の話が上がっているからなんだ」
「えっ!?」
そんな上の空だったレインでさえ、今の支部長の発言には頭がハッと我に返った。
「もう昇格!?それって……特級魔術師じゃないですか!?」
「そうだ、君は『アノマリー隊』として、現在最も功績をあげている。君は興味ないかもしれないが、君の活躍のおかげで民間人が何万と救われているのだ」
「ほへー……」
そんなこと言われてもあんまり実感がわかないのだが……。それでも、人の命を救えたというのはちょっと嬉しい。
「半年でその功績は十分に特級魔術師に匹敵すると、上層部は見ている」
「で、でもそしたら……!」
「そしたら?」
「えっと……えっとぉ……」
流石に気持ちがついていけない。いきなりすぎて、嬉しい話であるのは確かなのだが、まだそんなの自分には早いと思ってしまう。いや、絶対そうだ。
いまだにそこが知れないグレンや……『師匠』のようになれたとは一ミリも思っていないのだ。『師匠』は全属性を扱えると話していた。今ならそれがどれだけすごいことかよくわかる。
普通の魔術師であれば属性は一つしか扱えない。レインのような新たな属性を発明したものを除きほぼすべてがだ。
それなのにもかかわらず『師匠』は、火・水・土・風・雷・光・闇の七属性を扱える……まさしく〈虹の魔女〉!
どんなことにも臨機応変に対応でき、どんな属性で攻撃されてもその属性の弱点属性で対抗することが出来るという利点はとても大きいのだ。
「あー……」
さてどう断ろうか……。
「あ、あれです!僕が入ったら六魔導じゃなくて『七魔導』になってしまいます!」
「……はっ」
「な、なにを笑ってるんですか!」
突然に笑いだす支部長にレインは困惑する。
「ははは!まさか世紀の天才がそんなことを気にしているとは!思いもしなかった……ははは、十年ぶりくらいに笑ったよ」
「それは笑わなすぎです……」
「いいか?君はまだ九歳なんだ。そんな君が危険な仕事をやり遂げている時点で特級魔術師になる資格は十分にあると思っている」
「でも、まだ特級魔術師の人たちに追いつけたとは思っていません」
「年齢を考えろ。九歳だぞ?伸びしろも十分、実力も十分、実績も十分だ。いいかね、レイン君。今回に限っては拒否権はないぞ?」
「うぐぅ……」
どうしよう、雰囲気的に断れない。
別に断らなくてもいいのだが……『師匠』と同じ肩書きを名乗るのはちょっと気が引けるんだよなぁ。レインはそこだけしか考えていなかった。
「ただ、ここで問題が出てくる」
「え!何が問題なんですか!」
「何でそう嬉しそうにしてるのだ」
「早く教えてください!」
「ああ、わかったから。それは……」
と、その問題とやらを支部長が話そうとした次の瞬間だった。
「よーっす、支部長。俺様が来たぜ」
「うわ!?」
「お?なんだ、レイン。こんなところにいたのか、早く仕事に戻れ」
「えー!ちょっと待ってください!」
グレンに首根っこを掴まれて持ち上げられた時、呆然としていた支部長と目が合った。
「あ、グレン君?」
「ああ?なんだ支部長。悪いが用事は解決したからよ。帰っていいか?」
「レイン君とは知り合いなのかね?」
「知り合い?知り合いも何もこいつは俺の『弟子』だ」
「違います!『仮弟子』です!」
「いいじゃねえか、〈虹の魔女〉の弟子兼俺の弟子ってことでよぉ」
そういって髪をぐちゃぐちゃにされる。そんな押し問答を繰り広げていると、支部長は再び笑い出した。
「ははっ、レイン君。問題はたった今解決したようだ」
「え?うそ!」
「レイン君の特級魔術師昇格の話の唯一の問題点なのだが……同じ特級魔術師一人の推薦が必要なんだよ。だけど……」
支部長が、グレンに視線を向ける。
「弟子の出世はもちろん、押すね?」
「あ?んなもん当たり前だ。こういう時こそ肩書き使わなきゃな」
「んなー!こういう時に優しさ使わなくていいのに!」
じたばたとするレインであったが、身長差がありすぎたせいで、蹴りは一切グレンに届かなかった。
「それにしても……レイン君がまさか特級魔術師二人の弟子だったとは」
「あ、えと、別に秘密にしてたわけじゃないです。ただ、『師匠』が黙っておけって」
「なるほどねぇ、君の『師匠』はそういえば今賢人会議の時期だったかね」
「あ、はい!そうです!」
『師匠』の話になり、一気に元気を取り戻したレインはニコニコの笑顔で支部長を見やる。
「いやあ残念だね」
「え、何がですか?」
「聞いてないのかい?実は向こうで問題が起こったらしく、賢人会議が延長になったんだよ」
「えー!?」
じゃあまだ帰ってこれないの!?
「いつまでかは分からないけど、当分は帰ってこれないんじゃないかな?」
「そ、そんなぁ……」
元気さが一点どんよりとした表情に変わってしまった。そんなレインを憐れむ二人の大人。無言の時間がしばらく流れた。グレンはそっとレインを下ろしてくれた。
「あー……ということで、レイン君は特級魔術師に昇格することになった」
「……はい」
気まずそうに支部長がなにかの書類にハンコを押して僕に手書きでサインをさせた。もう正直どうだっていい。
「あー、支部長さんや。俺から一つお願いしていいか?」
そこでグレンが頭の後ろを掻きながら声を上げる。
「どうしました?」
「実は、レインを魔術学校に通わせようと思ってるんだ」
……え?
「僕、初耳なんですけど?」
「ああ、今はじめて言ったからな」
えー!?
「お前がよくわからない部隊の一員になって働いているのは俺も知っている。預けられた子供だとは言え、『弟子』だからな。だが、お前はまだ若い、お前に戦場は危険なんだ。もっと命を大事にしろ。お前の大好きな『師匠』が帰ってくる前に死んだら元も子もないだろ?」
「た、確かにそうですね」
「だから、お前は魔術学校へ行け。そこでもっと学べ。部隊の仕事をするなとは言わないが、極力減らせ。もっともっと成長した姿で『師匠』に会いたいだろ?」
「は、はい!」
「学費は俺が出してやる……いや、もうすぐ入学試験日だったな。じゃあ、入学試験で特待生になれ。飛び級扱いにはなるがいいだろ」
グレンがそんな計画を立てつつ、それを聞いている支部長が何やらメモを取り始めた。
「そうなってきますと、しばらくはレインの名前は伏せておいた方がいいですかね」
「偽名はいらないだろ。貴族のガキどもはどうせ平民だなんだって盛り上がるだけだ」
「なら、特級魔術師という部分は学校から秘密にしてもらいましょう」
「そうだな」
話がトントン拍子で進んでいく……だが、レインも密かに憧れていたのだ魔術学校に。同年代の子供たちが同じ学び舎で一緒に魔術の道を究める……なんて心躍るのだろうか。一人で学ぶよりも絶対に楽しいし、新たな発見もあることだろう。
「レイン君は昇格、そしてしばらくの間休職させて、魔術学校へ入学と……これを上に提出してきます。なに、優秀な人材は逃したくないやつらですので向こうに『拒否権』はないのでご心配なく」
「そういうことだ、レイン。俺の弟子だって自慢すんなよ」
「それはしませんが……お二人とも本当にありがとうございます」
レインは今後の生活にワクワクが抑えられなかった。すぐにでも踊りだしたい気分でレインは宿へと帰るのだった。




