元ヤクザの花屋のバイト、オススメの花束を作ることに。
「おじちゃん、お花くださぁい」
オレが一人で店番をしていたタイミングで、小学生くらいの女子が三千円を渡してきた。
「ちっ……客かよ……」
つい最近まで弱小ヤクザだったオレは、所属していた組が金欠で潰れたので、ニートを回避すべく知人の伝手で花屋のバイトを始めた。
意外と力仕事が多いと言われたから始めたのに、接客もやらされるなんて聞いてないぜ……。
「三千円か。けっこう金持ってんな。ガキのくせに」
「あのねー! おかーさんから預かってきたんだよ! おとーさんにお花あげるのー!」
「そーいや父の日だったか。で、何の花が欲しいんだ?」
この店内から目当ての花を探すのはダルい。
見た目でわかるのはチューリップくらいで、よく名前を聞くガーベラだとか百合だとかは見てもわからねえ。
「おまかせでー!」
「は……?」
「店員さんにおまかせしまーす!」
「オレに任せるだと……?」
オレは思わず動揺し、一歩後ずさってしまった。
オジキに灰皿で殴られそうになったときですら、一歩も引かなかったこのオレが。
「なんで店員に任せるんだよ!? てめえで選べよっ!」
「だってお花屋さんでしょー?」
「………………」
黒いクリクリした目でオレを見つめてくる。
くそっ、やりづれえ……。正論を言うガキは嫌いだ。
「お花屋さんはねー。お花に詳しいんだよー」
「オレは詳しくねえ花屋なんだよ」
「でもねー、お花屋さんなら綺麗に花束作れるんだよー?」
「なんで断定してんだよ」
「おかーさんがねー! お花屋さんに頼めばだいじょーぶって言ってたよー!」
押しが強えなこのガキ。
このまま話しててもラチが明かねえ。
……腹括るか。
「あー、わかったよ! やってやるよッ! その代わりどんなデキになっても文句言うなよ!?」
「うん! わかった!」
なんで硬派を売りにしてたオレがこんなことを……花束作りなんてガラじゃねえのに。
「ま、適当でいいか」
オレは店内を歩きながら、掴みやすい位置にある花を適当に引き抜いて回った。
値段は計算できねえ。オレは中卒だ。
三十本くらい集めたら、だいたい結婚式とかでよく見るサイズの花束になった。
「ま、こんなもんだろ」
オレは出来上がった花束をバサッとレジに置いた。
色はメチャクチャで、花の長さもバラバラ、統一感がまるでねえ。
素人目に見ても、これを作った奴のセンスはクソだとわかる。
まあ、ガキ相手なら誤魔化せるだろう……と思っていたら。
「ええええー! ダサーい! こんなぐちゃぐちゃなのやだー!」
「オイ、お前さっき『どんなデキになっても文句言うなよ』って言ったら、『うん、わかった』って言ってなかったか?」
「でもねー! こんなダサいのやだよー!」
理屈が通じねえ……なんて厄介な客なんだ。
大人だったらガンつけて追い返してるところだが、さすがに堅気のガキにそれはできねえ。
オレは少し考えた後、芝居がかった感じでヤレヤレと肩をすくめてみせた。
「はぁ…………お前はわかってねえ。わかってねえよ」
「?」
ガキは首を傾げた。
興味を持ったな。よし、こうなっちまえばオレのペースだ。
「お前はまだこの花束のテーマを聞いてねえだろ? この花束のテーマを聞けば、お前は納得するはずだぜ」
「テーマってなにー?」
食いついたな。
オレは教えるのをためらうフリをして、もったいつける。
「この花束は父の日のプレゼントなんだろ?」
「うん! おとーさんにあげるの!」
「オレはそれを計算してこの花束を作ったんだ。この花束にはちゃんとしたテーマがある」
ガキはきょとんとしている。
オレは自分のこめかみをトントンと指で叩いて、オツムのデキが違うんだぜとアピールする。
「いいか? この花束のテーマはな………………
『わたしの選んだ花束』だ」
「??????????」
ガキは口をぽかんと開けて、わけがわからないという顔をしている。
やっぱりそういう反応になるか。
仕方ない。丁寧に説明してやろう。
「いいか? 世の中の父親なんてもんはな。花に興味なんかねえんだ。別に綺麗だとも思わねえし、水をやるのもダルいし、かといって枯れたら気分が悪い。普段仕事で疲れてる父親に花束を贈るなんて嫌がらせみたいなもんだ。
……だがな、一つだけ例外がある」
オレはガキを指さして、静かな声で伝える。
「お前がその例外だ。父親はな、『娘が選んで作ってくれた花束』なら絶対に喜ぶのさ。
親父にとって娘は特別な存在だ。娘のセンスで選んでくれた花束なら、どんなにダサくても輝いて見える。父親ってのはな、そういう単純な生き物なんだ」
「でも、わたしは選んでないよー?」
「んなことはどうでもいい。オレとお前のセンスに大差はねえ。お前が自分で選んだって言えば、自分で選んだことになる」
「???????」
「とにかく、その花束を渡すとき、父親にテーマを伝えろ。そうすれば絶対に喜ばれる。プロの花屋であるこのオレを信じろ」
「んー……わかった!」
ガキに花束を渡すと、適当に挿してた花が何本かパラパラ落ちた。
オレはそれを拾って、花束の奥の方に突っ込む。
「ありがとー! おじちゃん! また来るね!」
「おう! 二度と来るなよ!」
ガキは自分の頭より一回りでかい花束を抱えて、よろよろと店を出ていった。
そして翌日。
ガキが再び店に来て、父親に喜ばれたとオレに礼を言ってきた。
フッ……当たり前だ。
人を騙すことに関して、オレは元プロだからな。




