菜の花畑
信憲は元気を取り戻します
2話です
「ここは……」
「綺麗なところでしょ?」
明美にフラれたすぐの休日に優華ちゃんが連れて行ってくれた場所は一面に黄色い菜の花畑が道に沿って並ぶ綺麗なところだった。
「私が気分転換したい時によく来る秘密の場所なんです」
「初めて来るな……。花はあまり興味なかったから知らなかった。隣の町まで行くと、こんな綺麗な風景があったのか」
「この時期にのみ見れる幻のスポットです」
その花畑のバックには山と線路があり、それだけでも画になっていた。
「どうして……こんな良いところを僕に教えてくれたんだ?」
「それは……先輩に少しでも元気になってほしかったから……」
「……」
そう言った彼女の顔はこの場所を眺めていた時と違い、どこか寂しげだった。
「とはいえ……」
「?」
「自分の好きなことってなんだったか忘れたなー……」
「あー、じゃあ卓球はどうですか?」
「卓球?」
僕と優華ちゃんは卓球部に所属している。しかし僕は別に卓球がしたくて入った訳ではなかった。ただそこそこ得意なだけだったからだ。
「卓球は……違うな……」
「そうですか……」
うーんと二人で考えるが、なかなか僕の好きなことが出てこない。
「ここずっと趣味なんてしてなかったんだ。思い出すには少し時間がかかるさ」
「…あっ」
「え?」
「先輩、子供の頃、よく物語を書いてましたよね。あれはどうなったんですか?」
「……あー、小説かあ。あれは確かに好きで書いていたな……」
確かに僕は小さい頃、暇さえあればPCに物語を書いていたものだ。
「よく覚えていたね」
「時々見せてくれてたから……」
彼女は頬を掻きながら少し照れくさそうに言う。
「……あ、じゃあそれを投稿してみたらどうですか?」
「いやいや、結構ブランクがある。そんな簡単に応募しても落ちるだけさ」
「……そうですか」
「………あ」
「え?」
「web小説ならすぐ評価が来るし、出来る……か?」
「! 是非やりましょう。書けたらいつでも私が感想を言いますよ!」
「え? うん。ありがとう……」
「無理せず時間をかけて進みましょうね」
そして僕は優華ちゃんの応援の元、久しぶりに小説を書き始めた。なかなか初めはptが付かなくて嫌な時があったが、自分の好きなことをしているからか僕は徐々に元気を取り戻していった。
──一年後
「web小説で書籍化が決まった……」
「えっ、草野マジで!? すげーー!!」
嬉しさのあまり友達に話したら、瞬く間に学校中に広まった。皆が羨望の目で見てくるし、なんか知らない友達も増えた気がする。
「先輩おめでとうございます!」
「いつも優華ちゃんが応援してくれたお陰だよ!」
そして二人で喜んでいたその日の帰り道、僕は意外な女子から声をかけられる。
「信君!」
それはなんと明美だった。
「明美……!?」
「信君、ごめんなさい……。いままで暴言ばかり吐いて……。学校では人気者だから、本当の自分が出せずにストレスが溜まって信君ばかりに当たってしまって……。けど失って初めて分かったの。私には貴方が必要……。だから私と復縁して……お願い……」
地面にストンと崩れ落ちて泣きじゃくる彼女を見て、僕はつい同情してしまった。
「明美……」
「先輩そっちに行っちゃ駄目です……。また茨の道になりますよ!」
「……優華、あんたは黙ってなさい!」
「!」
「おい、明美! 優華ちゃんは従妹だろ!? そんなぞんざいな言い方をするな!」
「信君……」
僕が怒ったからか明美は目を見開いて驚く。そして泣きながら彼女は立ち上がり優華ちゃんに近づく。
「あんたみたいな地味女、信君には釣り合わないわ! さっさと私に譲りなさい!」
「おい、明……!」
その時、優華ちゃんは自分の手を伸ばして僕と明美を遮った。
「ん!?」
「…優華ちゃん?」
「先輩、私のこと見てて下さい」
「?」
翌日、驚くべきことが起きた。優華ちゃんが髪を切っておしゃれにイメチェンしたのだ。さすが明美の従妹だけあって、彼女に負けず劣らずの超絶美少女になっていた。そこまで可愛くなったからか、すぐ2年生の僕のクラスまで聞こえてきた。
「土井さんだっけ? めちゃくちゃ可愛いな!」
「なにやら天野さんの従妹らしいぞ」
「マジで! そうなのかー!?」
「やべー。俺告白しようかなー??」
そう騒ぐのも無理はない。僕も朝彼女に会った時はその変貌に驚き、それと同時に見惚れてしまったからな。
放課後、部活帰り。
「これで明美ちゃんに地味子だと言わせませんよ」
「あはは……」
「それでその……先輩は私のこの姿を……どう……思いますか……?」
「どうって……その…………綺麗だよ……?」
「そう……ですか……」
なにやら恥ずかしい空気が流れる。さて、どうしたものか……と僕はドキドキしながら考えていると、また後ろから大きな声で僕達を呼び止める。
「待ってっ!」
「明美……」
「明美ちゃん……!」
「信君……思い出して……。私と過ごしてきた時の記憶を……。そう、あの楽しく遊んでいた頃の思い出を……!」
「……」
「先輩……」
そこで僕は3人で遊んでいた頃の記憶を思い出した。
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